ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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中島由夫展

ひょんなことから、中島由夫という人の展覧会を観ることになった。
その日は毎月地元の公園でやっている「あそぼうかい」の日だったのだけど、いつもの広場に行くとさすがに寒くてみんな震えてて、参加者も少なかったので、近くの図書館か博物館に行こうということになった。明石の博物館ってなんともこぢんまりしていて、でもけっこう面白い展示をやっているときもある(明石には美術館がないので博物館がその役割もしている)。
「えー、今博物館なにやってるんだろう」とまったく事前の知識なしで、暖を取るくらいの気持ちで館内へ。すると色鮮やかに彩られた大きな布が吹き抜けの天井から下がっていて、横断幕みたいな布もぶらさがっていて、階段のところにもアートがあって、おや? いつもの博物館と様子がちがう。
で、入り口からもう展示が始まっていて、いきなり地べたに囲いがありその中にごろんごろんと陶器でできた人間の顔が無数に転がっている。むむむ…。少し進むと油彩の抽象画が並んでいる。ちょっとプリミティブアートみたいな感じ。すごくエネルギッシュで楽しそうだ。私の好みとはちょっとちがうけど…おや、十代の作品群はまたえらく重いね。怖さを感じる。
二階に向かうところには、板に靴だのブラシだのをくっつけてペンキをぶっかけてそこに花がちりちりと飾ってあるオブジェの群れ。で二階に上がると今度は陶芸作品の群れ、群れ。でっかい壷に、ゆがんだ顔。そこから奥に進むと、またエネルギーたぎる油彩の太陽、太陽、太陽の絵が延々と続く。…これ全部ひとりの作品なんだ。子どもみたいに、何でもやりたくて、ぜんぶやってしまうような人、そんな印象。
中島由夫って、いったい何者?
やっと見た説明には、「スウェーデンの国民的画家」だと書いてある。「明石にアトリエを持っていたことがある」と書いてある。へええ、そうなの? 実際に彼がアートワークをしている様子も映像で紹介していた。今年70歳なのだそうだ。じゃあダダイズム年代かなあ…と思いながら、どういう経緯でスウェーデンで、明石なんだろう? と不思議だった。
売店で自伝のような聞き書きの本を売っていて、パラパラと読んでみるとこれが面白そう。1800円っていうのでちょっと躊躇したけど、珍しくミミが「これ読みたい」ときっぱり言うので買うことにした。タタもミミもこういうアートに触れたことはそんなになかったので、ずいぶん興味深かったのだろう。

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『Love is All 長い旅をする太陽のように』というタイトルの本。その日帰ってから一気に読んでしまった。とてもすてきな本だった。中島由夫さんの語る生涯はほんとに波乱万丈で、でもどこまでも純真に、ひたむきに芸術だけに向かってきたことがよくわかる。
埼玉の農家から集団就職で東京へ、絵が好きで働きながら勉強し、前衛芸術の洗礼を受けてパフォーマンスアートに目覚め、路上で絵を展示していたときにオランダから来ていた有名な芸術家に認められ、ロッテルダムの美大に来るよう誘われる。まだ一般人にビザが下りないような60年代初めに靴底に3千円だけ入れて身ひとつでヨーロッパに渡り、泥棒に身ぐるみ盗られてヒッチハイクで欧州横断、酒場やレストランで絵を売っては食事にありつき、そんな間にもたくさんの芸術家と交流してハプニングと名づけた路上パフォーマンスをやりまくって警察に追われたり、国外追放になったり…。
流れ流れて北欧にたどり着き、スウェーデンに永住したのはまったくの偶然で、北欧からアメリカに渡るつもりでいたときに、日本から来た妻の妊娠がわかり、長期入院してしまったからだという。で、やっとスウェーデンで美大に入学、直後から旺盛に創作して数々のイベントを開いていく。
この奥さんがまたすごい人で、大会社の社長令嬢の何不自由ない暮らしを捨て、無一文のアートに魅入られた若造に人生のすべてを託してヨーロッパに飛んでいってしまったのである。「絵を描いてしあわせになりなさい」といつも夫に言い続け、つまづかないよう守り続けてくれた18歳年上の妻。陶芸はその妻が亡くなったあと、中島さんが放心状態で土をこねていていつのまにか顔ができ、何百個も作って焼いて…そんなふうにして始めたのだという。そうか、会場の入り口に転がっていたたくさんの顔は、みんな奥さんの顔だったのか。

今はアートセンターを持ち、自分の美術館も開館予定で、スウェーデンでは大家として広く知られているらしい。日本では知る人ぞ知る、という存在なのだろう、明石の博物館なんて地味なところで個展をやるんだもの。奥さんの実家が神戸で、中島さんは明石の風景がとても気に入って、それでしばらくアトリエを構えていたらしい。「明石の海」とか「明石の太陽」というタイトルの絵が(それはノンビリした明石の海というより、私にはラテンのリズムが似合うような海に見えた)いくつもあった。きっと彼には明石の風光がこんなふうに感じられたのだろう。
ああ、おもしろい体験だった。展覧会も、本も。転げまわりながらもまっすぐに生きて表現してきた人に出会うと、ぱっと心のドアがひとつ開く気がする。
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by higurashizoshi | 2010-01-15 23:13 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

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