ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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ハリーとトント

d0153627_21462245.jpg1975年公開 アメリカ
監督 ポール・マザースキー
出演 アート・カーニー エレン・バースティン ジェラルディン・フィッツジェラルド ラリー・ハグマン チーフ・ダン・ジョージ





おじいさんとネコの映画である。
昔むかしから気になっていながら、この《おじいさんとネコの映画》であることで、あまり観る気が起きなかった。
そしてさらに長い月日がたった。今の私は、おじいさんとネコの映画が観たい私になっていた。年をとるのもいいものである。

ハリーはニューヨークのマンハッタンに暮らす頑固な元教師の老人。相棒は茶トラのトント。ひとりと一匹の平穏な暮らしは、アパートの取りこわしで崩壊する。最後まで立ち退きに応じなかったハリーは強制退去の憂き目にあい、離れて暮らす三人の子どもの家庭を次々に訪れていくことになる。その旅路をつづったロードムービーだ。
住み慣れたアパートを失うと同時に、ハリーは長年の友とも死別してしまう。最初は長男の家庭に身を寄せるものの、すぐに気まずくなって旅立つハリー。そのときから彼は《放浪者》となる。ヒモでつないだトントだけを道連れに、ときには鼻歌を歌いながら人生の寄り道を始めるのだ。
ヒッチハイクの家出少女を拾い、昔の恋人に会いに行き、高級娼婦と名乗る謎の美女の誘いにもちゃんと(?)乗る。あやしげなビタミン食品を買わされたり、酔って留置場に入れられたり、実にいろんな目にあうハリーだが、それらに翻弄されずいつもマイペース。
出会った人には敬意とユーモアをもって接し、頑固だが自分の考えを相手に押しつけたりしない。人生に迷って後を追ってきた孫息子にもあっさりしたもの。人への愛情は深くても、けしてベタベタした関係をもたないハリーの姿がすがすがしい。
いっぽうトントはネコとして大変な状況を過ごしていく。安心できる住み家をなくしハリーの放浪につきあわされて、食事はフライドチキン、トイレもままならない。そんな中でまことにけなげに相棒をつとめていて、おまけにこのトント君、チャチャがアメリカ人(いやアメリカ猫)になったかのように似ているので、いちいち胸がきゅんとなる。

ハリーが巡回していく3人の子どもたちも、それぞれ問題だらけ。疎遠になっていた娘は何度も離婚を繰り返し、末の息子は40男になっているのにムダ遣いばかりして借金まみれ、どん底状態を老いた父に告白して泣き崩れる始末。その息子の背をやさしく抱いてやりながら、ハリーはけして甘やかすようなことは言わない。息子の肩代わりをしてやろうとは言い出さない。彼はあくまで、たとえ家族であっても、ひととの境界を越えない矜持をもっている。
おそらくハリーをそうさせたのは、深く愛した妻との死別である。「ひどく苦しんで死んだ」とトントに語って聞かせる妻との別れは、ハリーの中に悲しみとともに潔い諦念をもたらしたのだろう。どんなに愛し合っても別れは来る、人はひとりで生まれひとりで死んでいくのだという諦念。だから彼は放浪を楽しみさえし、いつも凛としているのだ。

ハリーを演じるアート・カーニーがアカデミー賞の主演男優賞を受賞したことで、当時この映画は一躍話題になった(私としてはトントにもぜひ賞をあげてほしかったと今さらながら思う)。そして受賞はのがしたが、オリジナル脚本賞にもノミネートされていたのである。
監督のポール・マザースキーとともにこの共同脚本を書いたジョシュ・グリーンフェルドは、日本人作家・米谷ふみ子の夫である。米谷さんのアメリカでの経験をつづったエッセイは大変おもしろく、いくつか読んだことがあるが、その中にこの「ハリーとトント」での脚本賞ノミネートで、米谷さんも夫とともにアカデミーの授賞式に出席したときの体験が出てくる。今は知らないが当時は、ノミネートされた本人以外はたとえ家族でも、法外な値段の参加費を払わないと授賞式に参列できなかったそうだ(トントは参加しなかったようである、やれやれ)。
当時まだ40代前半だったマザースキーとグリーンフェルドが老人とネコの映画を作ったのはなぜだろう。男がみじめさや悲哀でなく、ユーモアと自由な心を持って老いを生きていく姿をこんなふうに描いた作品は、なかなかほかにないように思う。

この映画が私に教えてくれたこと。
人生には相棒が必要だが、それは必ずしも人間でなくてもよい。そして別れをいつも受けいれる覚悟を決めて、人生を楽しめばいい。それから、ネコを連れて長距離バスに乗ってはいけない。とても大変なことになりますよ。
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by higurashizoshi | 2010-02-11 21:54 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(4)
Commented by sowaka at 2010-02-12 13:10 x
ブログにコメントをありがとう!
わたしも、いつも楽しみにみせてもらってます。
また、会いにいくね~~~よろしく~
Commented by higurashizoshi at 2010-02-15 14:28
sowakaさん
こちらこそ! sowakaブログはいつも心がすっきりしゃんとなります。
ここはもっと雑然としてるけど、そこは味ということで。。。
また会えそうなときは連絡乞う!
Commented by hinata at 2010-02-15 17:19 x
名前は知ってましたが、私も見たことありませんでした。
そんなお話だったのですね、豚が出てくる話(トンだからか?(^^ゞ)とか、おじいさんとおばあさん兄弟の話と勝手に思ってました。
見てみたくなりました。

遅くなっちゃいましたが、ハンス・フィッシャーの絵本、家でも良く読みました。素敵な絵ですよね。
そういえば、この展覧会、娘を誘ったのに振られたのかも…
一人で行けばよかった~。
スラムドック~、きっと映画はまだ見れないだろうから、本先に読んじゃおうかな?と思っていたのですが、お二人の話を聞くとやっぱり映画先にみようかな?でも本読みたい!!な気分です(^u^)
うちの麦ちゃんも豆大好きみたい。
すっごく目が輝いてた。でも、食べすぎちゃいそうで怖いから、麦ちゃんが取れないところへ~と投げました。

Commented by higurashizoshi at 2010-02-16 23:19
hinataさん
《ハリーと豚と(トント)》…って考えてぷぷぷと笑ってしまいました。
豚が出てくるおじいさんおばあさん兄弟の映画、観てみたい!

ハンス・フィッシャーの絵は、原画で見るとタッチがいっそう繊細で
意外に大胆で、あと色づかいのセンスがすてきでした。
スラムドッグにかんしては、がまんして映画を先に観ることをおすすめ
しますよぅ、でもいつ観られるかわからないんだったら、うーん。。。
本、面白いですよぅ…(と、そそのかしたりして)

わんこは豆もバリバリかんで食べちゃうんでしょうか?
だけど煎り大豆は消化悪いかもね。
クーはほんとに何でも食べてしまうので、ほんと要注意です。この前
私のお気に入りのストールのフリンジを全部食べちゃいました…

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