ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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フィギュアを観て泣いた日

昨日は朝からオリンピックのフィギュア男子フリーを生中継でずっと観ていた。最終滑走のひとつ前のグループあたりから、テレビの前でなぜか正座になる。
メダル候補だった《四回転の代名詞》フランスのジュベール選手。ショートプログラムでまさかの大崩落のあと、フリーもまったく飛べず信じられない順位に。悲しい。
小塚選手が四回転ジャンプを降りた。その後に転倒もあったが立派な演技。そしていよいよ最終滑走グループ6人、もう心臓がバクバクしてくる。どうしてこんなに緊張しているのか、自分でも不思議。たぶん私は選手の自滅を恐れているんだ、特に高橋選手の。彼は《ガラスのハート》とずっと言われてきた。4年前のトリノ五輪も含め、メンタルな弱さで大きな競技会で自滅してしまう彼を何度も見てきた。力をつくしての失敗ではなく、内側から崩れてしまう。あきらめて、投げ出してしまったとすら感じられる試合もあったほど。
その後大ケガと手術、復活をへて、今の高橋選手は心もずいぶん強くなったと思えるけれど、なんといってもこれはオリンピック。4年に一度の、ただ一度きりのチャンスに、最上の演技をしてみせなければいけない。国民の期待という想像もつかない重圧を負って。考えただけで足が震え出しそうだ。

最終滑走グループ1番目のアメリカのライサチェック選手が神がかり的なパーフェクトで演技を終えた。この瞬間、彼が金メダルかも、と思う。ショートプログラムも、滑り終えて本人が感激のあまり泣き出すほどパーフェクトだった。なんと強い心。正当な勝者になるのはこういう人なんだろうと思う。
そして2番目の織田選手。《オリンピックの魔物》が思いがけないところに手をのばし、彼をつかんだ。スケート靴のひもが切れ、はずれてしまって、演技を続けられなくなったのだ。生中継で観ているこっちも息がとまり頭が真っ白になる。よりによってオリンピックのフリー演技中にこんなことが起きるなんて。演技再開してちゃんと滑り終えた姿に温かい拍手が沸くが、織田選手は悪い夢を見ているような表情でリンクを降りた。
3番目、スイスのランビエール選手。持ち前の優雅な演技力と世界一のスピンを見せたが、ジャンプも含め全体に精彩がないまま終わる。彼もメダル候補だったが得点が伸びず、これは届かないな、と感じる。

そして、高橋選手の演技が始まった。フェリーニの映画『道』を主題にしたプログラム。今シーズン何度も観てきた、夢からさめるシーンの冒頭。
そして四回転ジャンプを飛ぶ、と明言していた通り、彼は飛び、そして転倒した。昔の彼ならこの最初の失敗を引きずり、ずるずると自滅していくはず。そう思った瞬間、私は画面の中の高橋選手の顔に釘づけになった。転倒から立ち上がり滑り始めた彼は、これまで見たことのない、包み込むような笑顔で『道』の世界に入っていった。ジャンプも次々と降りていく。ステップを滑っていく繊細なライン。指先まですべてに魂がこめられているようだ。ああ、今の彼の心には不安も緊張も予測もない。この透き通った表情の中で彼はこのプログラムを表現するだけの純粋な存在になっている。こんな大舞台で、こんなに心をまっさらにして滑ることができるなんて。気がつくと私はぽろぽろ涙をこぼしていた。フィギュアを観ながら泣いたなんて生まれて初めてだ。
滑り終えた高橋選手のすがすがしい笑顔、ああメダルを取らせてあげたい。

5番滑走はアメリカのジョニー・ウィアー選手。わが家では「ジョニ子」と呼ばれている。バレエダンサーのような優美な演技、中性的なフェロモンとキュートな個性。長く不振に苦しんだジョニ子、今シーズンはすばらしく調子がいい。ショートプログラムもノーミスだった。今日のフリーも力強く、スピンで少しミスをした以外はすばらしい出来。でも得点は伸びない。観客からブーイングが出る中、キス&クライ(得点を待つ席)でファンから投げ入れられたバラの冠をかぶったジョニ子(似合いすぎ)は笑顔でブーイングをおさえるしぐさ。さすが、人気者でありつづけるわけだ。
ほっとなごんだところで、ついに最終滑走。宇宙から帰還した帝王・プルシェンコ選手が最後の最後に登場した。四回転ジャンプにこだわり、フィギュア男子の四回転回避の流れを変えるために復帰したといわれる彼。数々の挑発的な発言、圧倒的な技術力、まさに世界の俺様。十代のころから彼の演技を観ているが、昔は天才ジャンパーである以外特徴のない選手だったのに、プロで表現力を身につけ復帰した今シーズンは27歳という年齢にもかかわらず他を寄せつけない別世界の滑りをする。もちろん四回転はいともたやすく飛ぶ。彼がパーフェクトに演技を終えれば金メダルは間違いない。というよりむしろ、彼はもう金メダルを手に持ってリンクに立っている。それをフリーの演技4分30秒の間にポトリと取り落とすかどうか、というほうが正確だ。
そしてプルシェンコは滑り始めた。四回転を飛んだ。けれど複数ではなかった。しかもほかのジャンプは軸が曲がり、見たこともないような荒さ。気持ちを入れた情熱的なステップ、スピンで最後は客席を盛り上げたが、彼の手のひらからすべり落ちていく金メダルが見える。緊張か、不調か、原因はわからない。金メダルは氷の上をしずかに滑ってゆき、四回転を飛ばず、パーフェクトな演技をしたライサチェックのもとへ届いた。

表彰式で、一番感激をあらわして涙を浮かべていたのは高橋選手だった。銅メダル。ほんとうにほっとした。運・不運ということでいえば、彼は運を自分の力で呼び寄せたのだと思う。そう、運は呼び寄せることができる。でも不運はただ、落ちてくる。織田選手の靴ひもを切り、プルシェンコ選手のジャンプをゆがませる。
四回転ジャンプを飛ばなかった選手が表彰台の真ん中に立ち、アメリカ国歌が流れた。プルシェンコ選手は銀メダルを胸に、上っていくアメリカ国旗から顔をそむけている。そして四回転にチャレンジし失敗した高橋選手は穏やかな笑顔になって星条旗を眺めている。
男子の四回転論争は今回の結果を機に、さらに過熱するだろうといわれている。回避するのはスポーツではない、という意見と、困難なジャンプに固執せず演技の質を高めるべきだ、という意見と。結局、昔からいわれている、「フィギュアはスポーツか芸術か」という議論にたどりつく。
私は、一日たっても、高橋選手のあの演技が頭から離れない。アスリートとして挑戦し、なおかつプログラムを芸術にまで高めた姿だったと思う。だから観ている人の心を動かし、浄化するような感動すら与える。彼がこんな存在になりうるなんて、失礼ながら昔は思ってもみなかった。テレビの前であまりにエネルギーを使いはたし、昨日はその後ぼーっとしていた。耳の中で『道』のテーマ曲が何度も何度も鳴っていた。
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by higurashizoshi | 2010-02-20 16:57 | フィギュアスケート | Comments(4)
Commented by ようこ at 2010-02-21 21:18 x
higurashizoshiさん、フィギュアスケートは私もつい夢中になります。
フリーの日、私は長女と梅見に。
丁度始まった頃、出掛ける時間となり・・・。
「今日は行かない」という三女に中継を頼みました。
三女は性格上、几帳面に中継してくれ織田選手の靴紐が切れたのも高橋選手が銅メダルだったのもライブで知ることが出来ました。

夜、録画を観て涙は出なかったけど・・・心、打たれました。
私はフィギュアスケーターはアスリートだと思います。
氷上でジャンプするのにどれだけの強くてしなやかな筋力を必要とするか・・・。
考えただけで腰痛持ちの私は腰が疼きます・・・(?)

女子の演技も楽しみですね。
各選手が全力を尽くせることを願って応援したいと思います。
Commented by higurashizoshi at 2010-02-23 15:31
ようこさん
梅見の日だったんですね。三女ちゃんの中継でリアルタイムで
知ることができたんですね~。
フィギュア、子どものころから好きなんですが、最近はテレビで
放映するものは全部みる、ネットでも追いかけるというくらい。
もともとバレエとか舞踏系のものを観るのが好きなので、その
あたりとスポーツとしての白熱感があいまって夢中にさせるのかも。
それにしてもフィギュア選手のやってること、私も自分の体で
考えるとおそろしくなります。。。

今日はアイスダンスをじっくり観まして、明日から女子です!
また心臓バクバクになりそうです。
Commented by hinata at 2010-02-23 21:12 x
そうそう、と言いながら読みました。
私、男子フィギュア見るの久々でした。今までがっかり…ということが多かったので、いつの間にか見なくなっていたのですが、今回はたまたまジョニー・ウィアー選手のドキュメンタリーを取り上げた番組を見てちょっと興味があったのでSPを見ていたら、あれ、あれ?いつの間に日本選手はこんなになってたんだ?と。
フリーの日は出かけなくちゃいけない用事があったので、みんなの演技が始まるまでには帰ってくるわよ~!の勢いで出かけ間に合うように帰ってきて、かじりついて見てました。
いやいや、みんなすばらしかったですね。
ライサチェックの力強い演技も、プルシェンコのちょっと崩れてもさすがという風格も、
高橋選手の、技だけでない細やかな演技、こんなことが出来る選手が出てきたんだなと感動しました。
オリンピック、やっぱり楽しいですね。
Commented by higurashizoshi at 2010-02-27 21:33
hinataさん
いやーほんと男子フリーはすごかったですね!
hinataさんもかじりついて観てたんですね~

ジョニ子はわが家で大変人気があり、その番組は見逃して
しまったのでくやしいです! 彼は中性的なセクシーな衣装と
演技が多く(今シーズンは特に別次元にいっちゃってます)
しかも実力もすごいので、いつも感動してしまいます。

日本の選手も、昔とはくらべものにならないほど進化しました
よね。高橋選手の芸術的なプログラム、いまだにリピートして
ます。
ああーオリンピックが終わるとちょっとぬけがらになりそう
。。。

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