ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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インスタント沼

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2009年公開
監督・脚本  三木聡
出演 麻生久美子 風間杜夫 加瀬亮 松坂慶子 相田翔子 ふせえり






このタイトルはなんだろう。
三木聡の映画は、結局これまでの5本は全部観てしまって、これが6本目ということになる。こんなに自分の本来の趣味とちがう映画をこんなに観ている理由が、自分でいまひとつわからない。なんだかこの感覚は子どものころ、カサブタをついついさわって、ついまたさわって、徐々にはがしてしまうというあのたまらない感じに、何か似ている。

今回の主人公ハナメ(麻生久美子)は、いけてる雑誌編集長の座からすべり落ち、失職した若い女性。かなり自己チューで言いたい放題な彼女が、人生の意外な展開にどんどん巻き込まれていく話だ。この、思いもかけないことにどんどん…というのは三木作品の定番ストーリー。ハナメは『亀は意外と速く泳ぐ』の2人のヒロイン、巻き込まれ型(上野樹里)と暴走型(蒼井優)を足したようなキャラクターだ。
というと新味がないみたいだが、そんなことはない。まずハナメのファッション、部屋のインテリア、彼女が始める骨董屋のレイアウトなどが、すごくオシャレでかわいい。ブキミもの・汚れもの多用の三木作品の中では特筆もののかわいさ。もちろん麻生久美子もかわいい。かわいいのにおっさんみたいな態度や暴言を吐くところがすごくいい。
受けて立つ本物のおっさん、風間杜夫がもはや人間国宝みたいなことになっている。でたらめでたまらなくキッチュである。サブの位置につける加瀬亮はパンクロッカー姿でがんばっている。若手の中では抜群にうまい役者だけど、育ちのよさがちょっと出てしまってパンクになってないのがご愛嬌。

さて話の中心は、ハナメの出生の秘密である。ハナメが失業した直後、なんと母(松坂慶子)が近所の池に落ちて昏睡状態に。それをきっかけに、彼女は子どものころ母を捨てて出て行った父が自分の本当の父ではなく、別のところに実の父親がいることを知る。ハナメは地図を頼りに彼を訪ねていく。…と書くとまるで韓ドラみたいだが、そこはそれ、三木聡だからひねってふざけて真面目を隠している。
だって突きとめた実父らしき男が《電球のおっちゃん》と呼ばれるじつにうさんくさい骨董屋(風間杜夫)で、妙に人なつっこいと思えば厚顔で、店に訪ねてきた和服美女にたちまちメロメロになるようなやに下がった中年。がっかりしたハナメは病室でこんこんと眠る母に向かって「死んだフリすんのやめなさいよ!」と叫ぶという毒の深さ。
けれどそのじつ、ハナメは子どものころ見つけた宝物の《錆びた折れクギ》を誰もバカにして理解してくれなかったのに、母だけが「すてきなクギね」と一緒にデッサンまでしてくれたのを忘れていない。そしてそのクギを《電球のおっちゃん》に見せるのだ。するとおっちゃんはクギをかざして叫ぶ。
「いいクギだな。…これは、みんなの理想の折れクギだ!」
そして仕事がうまくいかず、テンション下がりっぱなしのハナメにいきなり言う。
「そういうときはな、水道の蛇口をひねれ!」
これは何のことはない、洗面台や浴槽の水道の蛇口を全開にして、そのままジュースを買いに行ったり、中華料理屋にごはんを食べに行ったりするのだ。水があふれる前に戻って栓をしめる、これだけがルール。ハナメとおっちゃんはものすごい勢いで骨董屋を飛び出し、走る、走る。ものすごい勢いで丼を注文して食べる。そして食べ終えるや店を飛び出し、ゲラゲラ笑い息をつまらせ子どものように走り続けて戻り、ぎりぎりあふれかけた水を止める。もちろん今どきのレバー式水栓なんかじゃない、古式ゆかしいねじ式蛇口である。「間に合ったー!」これが楽しくて楽しくて、まったく何の見通しもない人生に変わりはないのに、ハナメはいきいきして笑い転げる。
というように、いつのまにか《電球のおっちゃん》はハナメにとって不思議に大事な人になっていくのである。が…。

謎のタイトル「インスタント沼」の種明かしはもちろん触れないとして、ハナメが毎朝食べる《シオシオミロ》(ミロにちょろっと牛乳を落として粘土のように混ぜたもの)とか、すべてが真っ白で客に静寂を強要する高級骨董屋とか、そこで我慢が限界を超えて叫びだしちゃうハナメの友人(ふせえり)とか、眼が光るファラオ像の結婚占い機とか、とにかく爆笑ではなくクスリクスリと笑ってしまうエピソードや道具がどこまでもどこまでもぞろぞろと続く。よくもこんなにと思うくらい続く。
とそのように脱力させてもらいつつ、『転々』がそうだったように、これもまた意外にも深い、親子・家族の関係のせつなさ・いんちきさ・やるせなさを描いた作品なのだということに気づいていく。こういうやりかたしか三木聡にはないらしいのだ。
そして今回のヒロイン・ハナメはあくまでも《ウルトラスーパースペシャルアルティメイティッド・勝手》な人間をつらぬいて、腹立つときには金切り声をあげて怒り、くやしいときは大声で泣いてあたりかまわず物を投げまくり、ヌンチャクまで振り回す。そしてうれしいときはカエルみたいな声で笑い、思いをかなえるためには全力で走る。それが爽快で、はちゃめちゃで、たまらなくいい。

告白してしまうと、映画のラストシーンでなぜか私はぼろぼろ泣いてしまった。ちっとも感動のラストでもなんでもないのにである。三木聡の映画で泣く。ほんとうにめんどくさいことである。そういうめんどくさいことが、人生をちょっとずつ前に押しやってくれるのかもしれない、なんて思う。そして、行きづまったときは叫ぼう。《とにかく、水道の蛇口をひねれ!》
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by higurashizoshi | 2010-03-20 13:26 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(4)
Commented by くれない at 2010-03-23 01:00 x
水道の蛇口で思い出したのですが。
もう、20年以上前に、私は大衆演劇の一座にいました。
金沢のうだつ山にあった○○ランドというヘルスセンターで一ヶ月興行してました。
舞台が終わって、建物の裏のがけっぷちみたいなところで、よく洗濯機をまわしてました。
そこに張り紙があって「山の水の一滴は、血の一滴」と書かれていました。
そのころの洗濯機は、2槽式ですすぎの時は、水を流しっぱなしにする方式でした。
すすぎが済んだら、水を自分で止めなくてはいけません。
でも、たいてい、その間に別の仕事をしにその場を離れてしまうのです。
私は、よくそのことを忘れました。
1時間以上忘れたこともあったような気がします。
張り紙を書いた人は知りませんが、
「ひえ~また血の1滴が~!ごめんなさ~い!」と思ったものです。
Commented by マッシー at 2010-03-23 23:10 x
インスタント沼、私もみましたよー。名前にひかれちゃって。どういうことなの?インスタント沼って?思わず手にとってました。

麻生久美子さんも好きだし、加瀬亮くんも出てるし。

で、見て、なんだかとってもよかったんです。
蛇口のところなんか、大笑いしました。大好きです。
私もこれからは、つらいときは水道の蛇口をひねれ!でいきたいものだと思った次第で。

亀は~の時はまだ三木ワールドに不慣れな感じで、ちょっとついていききらなかったんですが、インスタント沼は、ついていけました。

元気って、こうだよな。ってハナメの姿は懐かしかった。
「死んだふりすんのやめなさいよお!」意識不明の母に言える娘でありたい。
Commented by higurashizoshi at 2010-03-25 21:36
くれないさん
「山の水の一滴は、血の一滴」。
これはすごい…
思わず蛇口に向かってひれ伏してしまいますね。
なんだか張り紙の字体まで眼に浮かんで、夢に出て
きそうです。
水道の蛇口をひねれ、ではなく蛇口を締めろの教え。
いったいどんな人が書いたのか、知りたい。
あ、でも会いたくない気もするな。。。

それにしても、くれないさんの役者姿を見てみたかった
です。ヘルスセンターの裏の風景がなんだか映画のワン
シーンみたい。
Commented by higurashizoshi at 2010-03-25 21:50
マッシーさん
みたんですねー。
そうそう、またこのタイトルなんなの? って…ねぇ。
麻生さんは『時効警察』のときよりさらにぶっ飛んで、
でも彼女がやると下品にならないんですよね。
加瀬くんは、やさしいパンクでしたね。

意地張ったり、見栄張ったり、いろんな感情を飲み込んで
出さないようにしたり、日ごろ誰でもたくさんのフタを
しめて暮らしてるもんだけど…
そういうこと、ぱーんと飛ばしちゃうものがありますね。
『亀~』よりこの映画のほうが、ある意味わかりやすいかも。
でも、なじめない人には全然なじめないであろう世界。
私も昔だったら(もっときまじめでした)きっと受けつけな
かっただろうな。。。
しかし弱冠12歳のミミは、大はまりでした!

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