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ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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いろんな国の映画を観よう

めずらしく3日間まるまるオフ、ということになったので、しめしめとDVDを借りてきて3日連続で3本の映画を観た。
最近、なんだかアメリカ映画か邦画ばかり観ていて、感覚がかたよってきていたらしい。今回のラインナップは、イタリア・インド/イギリス/アメリカ・フランスと、多国籍な作品になった。ぜいたくな3日間でした。
といってもその合間にはごはんを日々3度作り、庭のバラを剪定してトゲにやられたり、手紙やメールを書いたり、布団を山ほど干したり、タタといっしょに数学の問題を考えたり、ミミと豚まんを作ったり、振込みに行ったり、ネコのトイレそうじをしたり…とまあ地道なことをあれこれしていたわけで。そういえば《豚まん》というのは関東では《肉まん》というけど、ほかの地方ではどっちなんだろう? 今回初めて手づくりしてみたのだけど、かなり感動的においしく…と、話が豚まんに行きそうになっているぞ。映画の話をするんでした。


いろんな国の映画を観よう_d0153627_23343371.jpg湖のほとりで
2007年/イタリア
監督 アンドレア・モライヨーリ
出演 トニ・セルヴィッロ ヴァレリア・ゴリノ オメロ・アントヌッティ


小さな村の、美しい湖のほとりで、アンナという若い女性の遺体が発見される。初老の警部が捜査を開始すると、彼女は村の誰からも親しまれ、愛されていたことがわかる。それだけに、逆に多くの人が動機をもっているように見えてくる。警部は村の人々を厳しく取り調べる。
いっぽうで、警部が抱えている家庭の問題が描写されていく。妻は若年性の認知症で施設に入っており、年頃の一人娘との関係も難しい。捜査も、家庭も、なかなかうまく進んでいかない。村人たちはそれぞれに、なにか秘密をかくしているように見える。
ラスト近くまで終始しかめっ面の愛想のない警部、内省的な村の人々の雰囲気、そして何より眼のさめるような美しい湖の前におかれた、美しい死体の風景。ミステリーなのかと思って観はじめたら、しずかに肩すかしをくった。これはイタリア映画。ハリウッド式のわかりやすい事件ものの起承転結をあてはめようとしてはいけないのだ。

感動したのは、オメロ・アントヌッティの姿をひさしぶりに見られたこと。『父/パードレ・パドローネ』(1977年)、『エル・スール』(1982年)など、忘れられない名作に出ていたベテラン俳優だ。現役で活躍していたのがわかったのもうれしかったし、短い出演シーンでも重厚な悲しみや怒りの表現はさすがだった。
そして村人の中で幼い息子をなくした母親が出てくるのだが、この女優さんの顔はどこかで確かに見たことが…と最後まで気になり、あとで調べてみたら『レインマン』(1988年)でトム・クルーズの彼女を演じたヴァレリア・ゴリノだった。


いろんな国の映画を観よう_d0153627_23391542.jpgザ・フォール/落下の王国
2006年/インド・イギリス・アメリカ
監督 ターセム
出演 リー・ペイス カティンカ・アンタルー ジャスティン・ワデル


すこし前まで《映画は一度しか観ない》がモットーだったのが、最近くずれてきている。
今回もこの作品は二度目(最初に観たときのレビューはこちら)。理由のひとつは、ミミがこの映画をすごく気に入り、もう一度観たいとずっと言っていたこと。もうひとつは、私自身もあまりに魅了されてしまったので、もう一度観る誘惑に勝てなかった…。

そして二度目を観終わった。またも涙ぽろぽろで、感想はただただ、「ファーストシーンからラストの一瞬まで、ぜんぶ好き」。
これは評価の分かれる作品だと思う。絶景を並べただけのカタログ映画だという人もいるらしい。私にとっては、人生の宝物のような映画。物語というもの、映像というものへの、そして人間への愛にみちた映画。
いつか大きなスクリーンで観られるときを夢見ている。


いろんな国の映画を観よう_d0153627_2331378.jpg夏時間の庭
2008年/フランス
監督・脚本 オリヴィエ・アサヤス
出演 ジュリエット・ビノシュ シャルル・ベルラン ジェレミー・レニエ


ああ、おんなじだ―観ながら何度も感じたこと。
広大な庭と美術品にあふれた屋敷で、おしゃれな服装のおしゃれな家族がおしゃれにフランス語で会話しているのに―私たちと、おんなじ。
年老いた母がひとり暮らす実家に、成人して家庭や仕事を持った息子・娘が、ひさしぶりに家族を連れて集まる。長男と2人きりになったとき、母は言う。「私が死んだあとのことを話しておきたいの。きょうだい3人で遺産をきっちり分割できるように、美術品もこの家も、全部売ってしまってちょうだい」。
長男は、思いっきり逃げ腰の対応をする。「そんな話、今はやめよう」。母が死ぬなんて、この家がなくなるなんて―考えたくない。

そしてやがて母の死が現実になったとき、誰も住まない家を維持し、美術品を維持していくことの困難さが、ノスタルジーではまかなえないことを長男は知る。次男はあっさりと言う。「僕のところは金がいる。売るのに賛成」。末っ子の娘も、実家に深い愛着をもちつつも、今はアメリカで暮らす自分にはどうにもならないと売却に賛成する。

ああ、これから私がやらなきゃいけないことを、フランスの家族もやっている…。かつてなら代替わりで継承されていった家や土地が、世代の激しい移り変わりのなかで、いやおうなく失われていくのだ。でも次世代には、感傷にひたってる余裕なんてない。なんだろう、このリアルさ。
こういう数家族のあつまる群像劇は、たいてい問題児が登場したり、息子に強欲な奥さんがいたりして、それまで隠されていた感情が暴露されたりするというパターンを踏みがちなのに、この映画はそういうこれ見よがしなところがまったくない。きょうだいはみんな仲良しでしっかり思いやりあっていて、それぞれの夫婦関係も良好。だからかえって落ち着いて、きめこまかいひとつひとつのエピソードを現実味をもって観られる。これもハリウッド式にはないリアル。

そしてもうひとつ興味深いのは、この家には数多くの美術品が、生活の中にあったこと。絵画だけでなく、有名なガラス工芸作家の花びん、貴重な陶製の食器、みんなふだんの暮らしに使われていた。けれどそれらもまた、母の死とともにまったく違う境遇へと移っていってしまうのだ。芸術品って何だろう? そんなことも深く考えさせてくれる。
ジュリエット・ビノシュもジェレミー・レニエ(『ある子供』で赤ん坊を売ってしまう父親を演じていた)も抑えた演技。すべてのバランスが淡くたもたれている中で、ラストのちょっと予想外の終わりかたもまた、なかなか面白かった。
by higurashizoshi | 2010-05-17 23:42 | 観る・読む・書く・聴く

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