ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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ザ・ロード

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2010年公開 アメリカ
監督 ジョン・ヒルコート
出演 ヴィゴ・モーテンセン コディ・スミット=マクフィー ロバート・デュヴァル シャーリーズ・セロン ガイ・ピアース



文明が滅亡し、地球のすべてが荒廃した未来。ひと組の父子がぼろを身にまとい、ショッピングカートにわずかな全財産を積み、南へと向かって歩いていく。もはや命の芽吹きのない世界で、口に入る食料は過去の保存食を運よく発見するしかない。
そしてもうひとつの方法、人肉食のため人を狩る集団が横行する中、父子は飢えと寒さに苦しみながら逃げ、生き抜こうとする。父は息子に言う、「善き者は人を食べてはならない」。自分たちは善き者であり、火を運ぶ者なのだと父は繰り返し息子に説きつづける。そして暖かい南の海にたどり着けば、そこで生きていけるのだと希望を語る。
しかし、父自身がそれを信じてはいないことは明らかだ。この世界で、まだ幼さの残る息子を守りながら、食料のあてもなく生きのびることなど不可能だと彼は知っている。かつて彼の妻は、この世界に絶望し、心を病んでみずから命を絶った。息子を道連れにすることを許さなかった彼に、冷酷な一瞥だけを残して。そして彼は息子と二人、生きるために南をめざして出発したのだ。
生きのびる手立てをもたない彼らが生きていこうとする、その希望なき道行きはどこに通じていくのか。彼らは善き者でありつづけることができるのか…。

コーマック・マッカーシーの小説『ザ・ロード』は、私が一昨年読んだなかで最も感動した小説のひとつだった。これがヴィゴ・モーテンセン主演で映画化されるのを知ったときから、公開を心待ちにしていた。ヴィゴほど、この作品の中の絶望的な世界を生き抜くことのできる、禁欲的で忍耐強い父親に似合う役者はいないと思ったからだ。
撮影が始まる前から、すでに原作の本が擦り切れてぼろぼろになるほど読み込んでいたヴィゴ(インタビューのとき、その本をよく手にしていた)は、これまでの役作りと同様、完璧な準備をおこなって、この父親(原作にも名前はなく、映画の役名もただ《man》となっている)を演じた。
十数キロの減量、ホームレスの人々の中に入って過ごす経験、それらはたぶん彼には当然の下準備で、むしろ精神的な意味でこの父親の役を完全に理解し自分のものにすることに、彼は精力を集中させたのだろうと思う。ハリウッドの俳優としてはまれなことに、離婚後男手ひとつで一人息子を育て上げたヴィゴは、出世作となった『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのアラゴルン役のオファーが来たとき、撮影で息子と離れるのが耐えがたく、オファーを断るところだったというエピソードが残っている。
おそらく父と息子のたった二人の絆について、彼は深く理解できる経験者であり、だからこそこの究極の父子の旅の物語に安易な感傷やわかりやすい悲哀を持ちこまないよう、厳しく自分を律した演技を貫いたのだと私には思えた。彼の演じる父親は、受難に遭う聖者のように、かぎりない慈父のように、また冷徹な動物のように見えた。

結局のところ、親が子にできること、それはほんとうにわずかなことでしかない。自分の命を張って子を守ろうとしても、自分の命は限りがある。これだけが真実であるという小さな灯を子に渡すことができたら、それだけで十分であり、この父親がかろうじてできたのもそういうことなのだと私は思った。
スクリーンの中には凍りつくような荒廃の世界があり、ひとりの父親が息子だけのために、命がけで凄惨な戦いを続けている。映画館の外は灼熱の暑さで、快適な文明が維持されている中で今日も親が子を見捨て、殺している。そのことをじんじんと感じながら映画館のシートに座っていた。
そして、この映画の中のような絶望的状況の中で、ただ子どもを守ることだけにわが身を使うことは、親となった人間にとって実はひとつの究極の幸福なのかもしれない、とも思ったのだ。それはぞっとするような、少し恍惚とする感覚だった。

原作を忠実に映像化しようとした脚本、ヴィゴと息子役の少年をはじめ、役者はみな素晴らしく、映像も美しく、とても誠実な作品であったことは心から認めつつも、私にはどうしても納得できない一点が残った。これは原作を愛読したものの見方であるけれど、原作では夢とも現実ともつかない幻想的なラストシーンの描写が、映画では一面的な結末になってしまっていたことだ。これがヒルコート監督の解釈なのか、製作側からの意図なのかはわからない。
もちろん、エンドロールに流れる音(胸を衝かれる)が原作のラストをなぞっていると解釈できなくはない。けれど私としては、この絶望の物語が最後にかすかな希望をどうつかみ取るか、そのもっとも重要な幕切れを納得できる形で見たかった。それが残念だ。
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by higurashizoshi | 2010-09-07 22:57 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(4)
Commented by マッシー at 2010-09-15 01:15 x
ブログ再開、お待ちしとりました。

今年の夏は、すごかったですね。我が家はクーラーつけずに乗り切りました。乗り切れたのは、別に忍耐強いとかではなく、我が家の位置が標高約110メートルのおかげだと思います。
(えへっ^^;)

そして、ヴィゴ・モーテンセン!!!好きな俳優です。ロードオブザリングもよかったけど、オーシャン・オブ・ファイヤーが印象に残っています。
ザ・ロードですか!知らなかったので、早速上映館を探しました。横浜でまだやってるじゃぁ、ありませんか!ちょっと遠いけど観に行きたいなあ。
原作も読みたいし。
嬉しい情報ありがとうございます。
映画すきなわりに、あまり情報収集してない私です。新作や注目の映画情報等はどのようにして手に入れてらっしゃいますか?
Commented by higurashizoshi at 2010-09-18 12:39
マッシーさん
お返事遅くなりました…って、え?マッシーさんもヴィゴ好き
なんですか! きゃーきゃー(我を忘れる)うに好きはヴィゴ
好き!?(すでに錯乱状態)

『オーシャン・オブ・ファイアー』この前二回目観たとこです。
いいですよねぇ、馬とヴィゴ。
私、もう惚れこんでいますので、過去にさかのぼって出演作を
追っかけてる最中です。はじまりは『ロード・オブ・ザ・リング』
だったんですけどね。

『ザ・ロード』気楽に観られる作品ではまったくないけど、とても
いい映画です。原作は、さらにいいです。おすすめします。

映画の情報…うーん、どうやって集めてるんだろう?(われながら)
たまに「シネマトゥデイ」とか映画関係のサイトは観ますね。
あとミミが映画雑誌(スクリーン)を毎月読んでるんでそこから知る
ことも。それと、テアトル系はいい上映が多いので、そこはよくチェック
してます。(『テアトルシネマグループ』で検索するとHPに行けます)
映画館で観られなくても、憶えておいて後日DVDで観るとか。
観たい映画はどんどん来るのでなかなか追いつけません。。。
Commented by マッシー at 2010-09-22 01:02 x
うに好きな私は、明日、ヴィゴに会いに、ザ・ロード行ってきまっせー!
ぬぁんと、hinataさんも一緒。
ミーハーな気持ちをぐっと抑え?じっくり鑑賞してきたいと思います。

映画情報の話、ありがとうございます。ミミちゃん、スクリーン毎月読んでるんだあ。すごいな。
テアトル系ですね。チェックしてみます。そういえば、明日行くのもテアトル系です。
うううー。楽しみです。
Commented by higurashizoshi at 2010-09-22 11:46
マッシーさん
これってハンマースホイ展のときを思い出す展開?
あのときもマッシー&hinataコンビでしたよね。

もちろん私も、ミーハー心は封鎖して映画を観たのですが、
中盤でヴィゴ演じる父親がひさびさに髭をそり、煙草を吸う
シーンがありまして、そこでちょっと「ぐらっ」ときかけ
ました。

観終わってのの感想、ぜひ聞かせてください。待ってます。

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