ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
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ハート・ロッカー

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2008年アメリカ
監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェレミー・レナー アンソニー・マッキー ブライアン・ジェラティ ガイ・ピアース レイフ・ファインズ デヴィッド・モース


今年のアカデミー賞を総なめしたのは、話題の3D超大作『アバター』ではなく、低予算で製作された戦争映画『ハート・ロッカー』だった。しかも監督のキャスリン・ビグローは『アバター』の監督ジェームズ・キャメロンの元妻。この《元夫婦対決》は元妻側が圧倒的勝利をおさめ、『ハート・ロッカー』は作品賞・監督賞ほか6部門を制した。しかも、アカデミー賞史上初の女性監督の受賞。壇上でビグローの名を読み上げるかつてのウーマンリブの闘士、バーブラ・ストライザンドが感激に震えていたのも記憶に新しい。トロフィーを手にしたビグロー監督はこうスピーチしていた。
「今もイラクやアフガニスタンで命を賭けて戦うすべての兵士にこの賞を捧げます」

そう、『ハート・ロッカー』の舞台はイラク戦争なのだ。私はこのスピーチを聞いて思った。そうするとこれは、かつて『ディア・ハンター』(マイケル・チミノ監督、1978年)がベトナム戦争に狩り出されたアメリカの若者の悲哀を被害者的に描いたように(この映画もアカデミー賞を総なめした)、その戦争の大枠は見ずにアメリカ兵士の苦悩のみを強調した作品なのだろうか? これは観てみないことにはわからない。ロードショー公開は終わっていたが、ちょうど神戸で上映があったので観に行くことにした。

2004年のバグダッド。爆死した隊員に代わって、爆発物処理班に新しい隊員・ジェームズ(ジェレミー・レナー)が赴任してくる。ジェームズは必要な防護服も身につけず、仲間の忠告もきかず、スタンドプレーすれすれの行動で鮮やかに爆発物を処理していく、命知らずの男だった。彼の存在は周囲の隊員の心を揺るがし、不協和音が生じていく。
ここまでは、まるで西部劇の筋書きである。バグダッドは西部の町で、ジェームズはそこに悪者を倒し町の人々を救うべくやってきた無敵のヒーローだ。おまけに定石どおり、彼はイラク人の物売りの少年を可愛がり、ともにサッカーに興じる。西部劇のヒーローには、現地の女か子どもが必ずなつくのである。

手持ちカメラの緊迫感ある映像と、地中に埋まった無数の爆弾の処理作業という緊張度が極限まで上がるシーンの連続で、映画は観客を強引に巻き込んでいく。この巧みなエネルギーはなかなかみごとなものだ。町の中のどこに武装勢力が紛れ込んでいるかわからない状況の中で、彼らが神経をすり減らしながら命がけの作業にあたる様子はリアルだ。
そして次第に一匹狼のジェームズと同僚たちの間に友情の絆が結ばれていくはず…なのだが、ある衝撃的な出来事をきっかけにジェームズの行動はますます過激になり、ついに彼の見境ない行動のせいで班の中で大きな破綻がおきてしまう。

彼らは任務期間が明けて休暇でアメリカに帰れる日を待ちながら、危険な作業を続けている。指折り任務明けまでの日数をかぞえ、家族と無事に再会し《普通の生活》に戻ることを夢見ている。しかし、ジェームズという男はそうではない。そのことが次第にわかってくるにつれ、観客は少しずつ背中につめたいものを感じはじめる。そして映画の冒頭に唐突に置かれたテロップ、「戦争は麻薬である」の意味が浸みてくる。ジェームズにとって、びりびりと命の震える、砂と汗と硝煙にまみれた戦場こそが《普通の生活》であり、彼はけしてそこから抜け出すことはない。イラクで戦う意味など、彼は何も考えてはいない。

かくして西部劇はゆがみにゆがんで、予想しない暗渠に観客を落としこんでいく。この映画をアカデミー会員が圧倒的に支持した理由を私は知らないが、少なくともイラク戦争というアメリカが幾度も繰り返してきた《大義》をかかげての侵略戦争のひとつに、この国が疲弊し切っていたことは確かだと思う。この映画を素晴らしい戦争アクションだとか、感動作だとかいう評を目にすることがあるが、この底冷えのするような皮相な作品に私はほんとうにぐったりした。なにか身体にとても悪いものを飲んだあとのような気分になった。
けれど観たあと日がたつにつれ、じわじわといくつかのシーンがよみがえり、あれはいったいどういう意味だったのだろう、なぜあんな場面があったのだろうと気になりはじめる。そもそもビグロー監督は何を目指してこの映画をつくったのか。そう考え込んでしまうほど、アンビバレントな要素が盛られているのだ。すくなくとも私には『ディア・ハンター』の罪深さよりはるかに客観的な映画だと思えたし、自分の中でなかなか解けない問いをもたらしてくれた作品だった。
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by higurashizoshi | 2010-10-04 23:25 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

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