ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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二日間

その日は、朝からいつものように父の病室に行っていた。
絶食11日目の父は、首につないだ点滴から栄養をとりながら、今後の仕事のことなどをぼつぼつと私に話した。
昼、病室で必要なものを買い足しに、坂道をのぼって大きなホームセンターに行った。ホッチキス、付箋、そして翌日のタタの誕生日のため、バースデーカード用の紙を何種類か。お茶しか飲めない父のために、ほうじ茶の新しい葉も。
急な坂道を、息をはずませながら下って病院に戻った。強い冷たい風が吹いていた。
病院の休憩室で、いつものように、少し父にうしろめたさを感じながら遅い昼食をとった。朝に子どもたちにも作り置いてきたシーフードピラフを、お弁当箱に詰めてきた。もうあの子たちは食べたかな、と思い、ゆっくり食べ終わり、病室に戻ると、タタからメールが来た。

《東北で大きな地震があったらしいよ。明石も震度1》

大きな地震…。父に声をかけて、病室のテレビをつけてみた。マグニチュード8以上といっている。地震の規模のわりに被害の情報はぽつぽつしか入らない。まるであの震災のときみたいだな、と嫌な予感がした。
テレビの中では地震の専門家がいろいろなことを言っている。それから、画面に大きな川が映し出された。仙台の名取川と説明がある。ヘリコプターからの中継画面だとわかる。川を、急速に海からの波が遡上していくのがくっきり見える。ああ、津波だ…と思う。
そこからの映像は、まるで悪い夢を見ているようだった。父も私も何を言ったか思い出せない。次の数秒のうちに津波は黒い生きもののように川からあふれ出し、ひろびろとした田畑を、人家を、道路を走っている車を、次々と飲み込んでいった。今この瞬間に起きている信じられない事実を、私と父はただ茫然と見つめていた。

日本中の太平洋沿岸に津波警報と注意報が出ていた。余震が止まらない。ともかく大変なことが起きている。明石の海沿いにも注意報が出ていて、父にうながされて病院を出て、車に飛び乗り家に戻った。
さすがに瀬戸内沿岸はほとんど津波は来ず、そのあとはひたすらテレビやネットで、言葉をなくすような被害の様子を追っていくしかなかった。東日本に住んでいる親戚や友人の無事を確かめようとしても、電話はつながらない。メールも届いているのかどうかわからない。
ひとつの町ごと、村ごとがほとんど消滅するという、ありえないことがこの日本で起きている。起きていると思うのだが、心がついていかない。どれだけの命が失われたのか、多くの人が長い歳月をかけて築いてきた歴史が、暮らしが、あたりまえの日常が、あとかたもなく壊れてしまった。

翌日、タタの16歳の誕生日の朝刊は、未曾有の大見出しと凄惨な写真に埋まっていた。
テレビをつけずにはおられず、つければ見入るしかなく、けれど見続ければ心が痛く、それでいてどこか麻痺したような、なにか長い夢の中をひたすら歩行しているような感覚になる。
それから、怖れていたことが起きた。原発の事故だ。どんな地震が来ても対策は万全と、誰が言ったのだろう。《夢のエネルギー》はひとたび大事故が起きれば人間を長い年月にわたって滅ぼす凶器になる。どうか最悪の事態だけはまぬがれるようにと祈るしかない。
それでも、こんなときだからこそ誕生日を大切に祝おうと話し、家族で予定通りささやかなお祝いをした。食事のときはテレビを消して、タタのすこやかな成長を願って乾杯した。
もし地震がもっと近くで起きていたら、こんな小さな幸福の瞬間など吹き飛ばされてしまっていたのだと何度も思う。あの破壊された町や村にいたのは私や家族だったかもしれないのだ。

何かできることはないのだろうか、そう思いながらずっとむなしくもがいている。あの震災のときはお腹にタタがいて、神戸に駆けつけられなかった。今回は術後の父がいて、身動きがとれない。どちらも私にとって大切な命なのだから、以前も今も、まずそれをちゃんと守ることが私の仕事なのだと自分に言い聞かせていても、ただじっと報道を見ているしかないのがたまらなくむなしい。
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by higurashizoshi | 2011-03-13 16:10 | 雑感 | Comments(2)
Commented by ずんずん at 2011-03-16 02:36 x
遅ればせながらタタちゃんのお誕生日おめでとうございます。小さな幸せがいかにいとおしいものか、あらためて考えてしまいますよね。

そして、お父様の入院、手術、お見舞い申し上げます。
ご心配が色々おありでしょうが、ご自身のお心、お体を大切に。
私も2度のハラキリ経験者で、1回目の時は術後の回復が悪く、絶食1ヶ月でした。こういう表現は不謹慎かもしれませんが、私自身は病気は大変だったけど、気にかけてくれる人がいるだけで、とても幸せでした。
くれぐれもご自身をすり減らさぬように。

地震、本当に辛いものです。被災地の皆様に比べるとまだまだ恵まれた場所にいながら、夜中に眠れずにいます。
あれだけの状況にあった神戸のすばらしい発展を見ると日本の持っている底力を信じたい。そして、発電等々日本がいい方向に変わっていく時が今なのだと信じたいです。
Commented by higurashizoshi at 2011-03-16 15:33
ずんずんさん
ありがとうございます。まさかこんな状況でタタの誕生日を
迎えるとは思ってもいませんでした。でも祝えることが奇跡、
とあらためて思いました。

ずんずんさんもハラキリ・絶食の先輩だったんですね!
私は自分の周囲の人が次々病気になり、一方自分は大病した
経験がないので、いつも看病しながら「気持ちをわかってない
だろうな…役に立ってるのかな」と思ってしまうんです。
ずんずんさんの書いてくれたことを読んで、ちょっと救われた
気持ちになりました。ありがとう。

天災の恐ろしさをつくづく感じていますが、その次は人間の
作り出した社会の問題がいろんな形でどっと出て来る…来つつ
あるのだなと思います。誰もが自分の問題として考えていか
ないと、このすさまじい犠牲を無にすることになってしまう。
日本が問われているなってすごく感じています。
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