ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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喪章をつけた選手たち

今シーズンから、にわかにフィギュアスケートにのめりこんだ母娘(ミミと私)。昨秋からこっち、地上波・BS・CSで観られるあらゆる競技会やショーを録画、観て観て観まくった半年間で、二人はいっぱしのフィギュア通になってしまった。
本来なら、3月半ばに東京で行われるはずだった世界選手権。オリンピックイヤー以外では、その年の世界一を決める最高位の競技会だ。世界のトップ選手たちが日本に集結するのをミミと指折り待っていた。
でも、東京での世界選手権は幻と消えた。言うまでもなく、震災のためである。原発事故が収束しないのが決定的だった。どの国のスケート連盟も、自国の選手を日本に送り出すことにノーといった。

その後紆余曲折があって、名乗りをあげたロシアで急遽1ヵ月遅れで開催されることが決まったときは、ほっとしたと同時に複雑な気持ちだった。自国開催の予定だった日本の選手の多くは、震災後チャリティーのショーをやったりしながらモスクワに向けて調整し、ずいぶん大変だったと思う。
日本からの参加選手全員が、ユニフォームに喪章をつけて臨んだ第101回の世界選手権。
男女シングルはCSで生中継をしてくれたので、今回はタタも引っぱりこんで3人でテレビの前に長時間かじりついて観た。
ミミも私も、一番のお目当てはアイスダンスなのだけど、ペアとアイスダンスは残念ながら後日放映。ともかくはシングル選手の生の戦いを見届けることにした。

もう全種目が終わってしまってこれを書いているので、だいぶ落ち着いた心境になっているとはいえ、とにかく大変な世界選手権だった。
男子シングル。金メダル候補はもちろん高橋大輔選手と、カナダのパトリック・チャン選手。このパトチャン、「僕には四回転ジャンプは必要ないね」なんて去年まで言ってたのに、ルールが改正になったとたんバンバン四回転を飛びはじめ、今シーズンのカナダ選手権では歴代最高得点を軽々と出してしまった人。
このパトチャンに対抗する大ちゃんは、もちろん四回転をプログラムに入れているものの成功率は低い。でも武器は世界最高のステップと表現力である。大ちゃんは昔は着飾ったヤンキーのお兄ちゃんみたいだったが、この数年で別人のようにノーブルな表現をするアーティストの域に達した。

さてショートプログラム(SP)を終わってみれば、パトチャンはあっさりとSP歴代最高得点を更新してトップ、織田くんが2位、大ちゃんが3位で折り返し。パトチャン、こんなに軽やかに飛んでほんとに四回まわってるの?と言いたくなるようなジャンプ。完璧すぎる。

翌日、いよいよフリー。最終滑走グループの最初がパトチャン。さすがに少々ジャンプの着氷ミスがあったけど、かなりよくまとめた。得点を見た瞬間、やっぱりねと思うが前人未到の歴代最高得点をさらに更新。別世界というか、宇宙に行ってしまった。織田くんも大ちゃんも、これではどうがんばっても金メダルには届かない。
織田くん。バンクーバー五輪の靴ひも事件、直後の世界選手権で惨敗と、昨シーズンは大変だったが今季は健闘中。とはいえ、彼につきまとう心配は、ジャンプの飛びすぎミス。
規定を超えて同じ種類のジャンプを飛びすぎて、大きく減点されてあとで号泣、というのが何度もあったのだ。――そしてそして、今回もなんと悪い予感が的中してしまった。トリプルルッツを規定以上飛んでしまった…。メダルが消えた瞬間。

そして大ちゃん。冒頭に四回転トゥループの予定。ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」の旋律に乗ってジャンプの体勢に入って飛び上がった瞬間、信じられないことが起きた。スケート靴のネジが外れ、ブレード(刃)が靴から離れてしまったのだ。観客が息をのむ。私もテレビの前で息が止まった。

競技中にトラブルが起きたとき、演技中断が許される時間は2分間。それを過ぎると失格になる。リンクサイドに戻った大ちゃんにコーチやトレーナーが駆け寄る。CS放送での解説の杉田さんは、ネジを短時間で元通りにするのはかなり難しい、と言っている。トレーナーが必死で靴の修復作業をしているのが映し出される。観客席が映る、日本からの応援ファンが泣いている。冷徹な顔で2分を測る会場スタッフが映る。

なんとか時間内にリンクに戻れたのが奇跡だった。客席から大歓声。でもみんなもうわかっている。演技再開は、中断したところから始めなければいけない。四回転ジャンプをもう飛ぶことはできない。つまり、メダルに届く点数を出すことは不可能、ということだ。
この時点ではテレビの前で涙をこらえていたものの、大ちゃんが思いをこめてステップを踏んでゆくのを見ているうちにぼろぼろ落涙。この大舞台でなぜこんなことが起きたのか、まるで日本に起きた出来事を象徴するようでたまらない。だからこそアクシデントのあとの彼のあきらめない滑りが尊い。
大ちゃんが滑り終え、予想通りに点数は抑えられ、涙がかわかないうちの直後の滑走が小塚くん。

たぶんリンクサイドで一部始終を見ていただろう小塚青年に、そのとき何かが舞い降りたのだ。SPは振るわず6位だった彼。でも今は滑りはじめた直後から、柔らかくて落ち着いている、いつもと何かが違う。これはなんだろう?と思っている間に彼は完璧な四回転トゥループをふわりと降りた。
ああ、この小塚くんには何かがついているのだ…。ごくたまに、スケーターにこんな4分半が訪れることがある。まったく不安なく、まるで予定されていたかのように、完璧なプログラムを滑ることができる。

二人の先輩が相次いでトラブルに倒れたのを見て、奮い立った…というのでもないのだろう。むしろまったく肩に力の入らない、自然な表情と滑りに見えた。
すべてのジャンプ、すべてのエレメントをひとつの傷もなく滑り終えて彼が最後のポーズで静止したときには、もう涙がぼろぼろ止まらない。鳥肌まで立っていた。
得点は驚異の180点越え。総合得点ではパトチャンに及ばなかったが、小塚くんは銀メダルをつかんだ。

いつも日本の選手を応援しているわけじゃない、むしろ外国のほうが好きな選手の数は多い。愛国心みたいなものとは縁のない私だけど、今回はそういうのとは違うのだ。東京開催がだめになって、喪章をつけてモスクワにやってきた日本の選手たち。それを応援するファンたちの胸にも、この震災で日本が受けた深い痛みや悲しみが根をおろしている。
メダルがすべてではないのはもちろんだが、日本にメダルを持ち帰り、少しでも心晴れる出来事にしたいという思いは選手たちに共通なはず。それなのに果たせなかった織田くんも大ちゃんも口惜しかっただろう。
相次いで、予想もしなかった事態に沈んだ二選手。その窮地を、小塚くんの奇跡のような演技が救ってくれた。
この一部始終を見ていた人の中には、この1ヵ月あまりの日本の現状を、どこかこの試合に重ねて見ていた人もいるのではないか…と思う。

翌日の女子シングルを前に、すでに精力を使い果たした感のある私だったが、女子もまたすごいことになっていた。それは次回に。
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by higurashizoshi | 2011-05-03 00:06 | フィギュアスケート | Comments(0)

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