ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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レ・ミゼラブル

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2012年公開 イギリス
監督 トム・フーパー
脚本 ウィリアム・ニコルソン アラン・ブーブリル  クロード・ミシェル・シェーンベルク ハーバート・クレッツマー
出演 ヒュー・ジャックマン ラッセル・クロウ アン・ハサウェイ アマンダ・セイフライド エディ・レッドメイン ヘレナ・ボナム・カーター サシャ・バロン・コーエン サマンサ・バークス
  



ミュージカルにはあまり縁がないので、長年にわたり日本でも上演されてきた「レ・ミゼラブル」も観たことはなく、劇中歌を耳にすることがあるくらいだった。とはいっても、原作の小説は子ども時代に忘れられないお話として残っていた。
いまだにヴィクトル・ユーゴーの原作をきちんと読んではいなくて、昔子ども向けの抄訳で読んだだけなのだけど、幼い私にはかなりのインパクトがあった。
なんといっても当時の題名は「レ・ミゼラブル」じゃなくて、「ああ無情」である。
「ああ」といきなり来るだけですごいのに、直後に「無情」。どうしろというのだ。
そして中身もおとらず濃く、哀しく、子ども心に胸をかきむしられるような展開の連続なのである。

ジャン・バルジャンの悲惨な境遇、その怒りと孤独。
迷いなく彼を招き入れる司祭、銀の食器と燭台の、ゆるしと祝福のエピソード。
開眼し生まれ変わるジャン・バルジャン、なんと市長にまでのぼり詰める。
執拗に彼を追い続けるジャベール警視の冷徹さ。
薄幸の少女コゼットとその母ファンテーヌの底なしの不幸。

同時に、ハラハラドキドキのスペクタクルでもあるのであって、中でも荷馬車のエピソード(怪力のジャン・バルジャンが、素性を知られる恐怖に打ち勝って倒れた荷馬車を持ち上げて老人の命を救う)と、人違い誤認逮捕事件(別の男がジャン・バルジャンとして逮捕され、市長の職もすべて投げ打って彼はその男を救う)には、何度読んでも、
「あかん!あかん! ジャンさんそれやったらオシマイやで!」
とページに向かって叫びたくなってしまうのだった。

しかも手中の珠として育て上げたコゼットはマリウスという青くさい男に捧げてしまうし、若い二人の幸せのために自分はどこまでも身を引くジャン・バルジャン。
献身、とか己の証を立てる、ということの意味がわからなかった子ども(私)にとっては理解しがたい展開も多く、でも忘れがたい磁力をもったお話だったと思う。

大人になってからこの「ああ無情」が「レ・ミゼラブル」となってミュージカル化されたのを知ったときも、《あの話なあ…哀しいしなあ…もう卒業やわあ…》くらいに思って、特に観たいとも思わなかった。
そもそもミュージカル…私の中でジャン・バルジャンがいきなり朗々と歌い出したり、コゼットと二重唱したりというのはあまりにも違和感があって、ちょっとご勘弁という感じだったのだ。

だからこの映画も、タタが誘ってくれたからという理由と、従来のミュージカル映画と違いアフレコでなく、撮影現場で俳優たちが歌っているのをそのまま収録しているという話を聞いて興味をおぼえなければ、きっと映画館まで足を運ばなかったと思う。


さて映画はというと、舞台版の歌を一曲もらさず収録しているそうで、次から次へと歌合戦のごとくに名曲の奔流。慣れないうちはクラクラする。しかもストーリーもツメツメのめまぐるしい展開で、まるでダイジェスト版を観ているよう。
そしてジャン・バルジャンは私の中のイメージでは骨太のがっちりした感じ、ジャベールは顎の細い神経質な感じ、だったのが、ヒュー・ジャックマンとラッセル・クロウだとまるでその逆なので、当初はちょっと違和感があった。

しかしその違和感も間もなく気にならなくなり、なかなかにみなさん適役で、しかも選りすぐられた役者たちだけあって歌唱力、表現力はほんとうにすばらしい。
なかでも出色なのが、わが子を思いながら破滅の道をたどる若い母親ファンテーヌ役のアン・ハサウェイだった。
幼い娘のため、髪を売り、歯を売り、そしてついに身体も売った直後に彼女が歌う『夢やぶれて』。
ここまで心を揺さぶる歌唱というのはなかなか経験したことはない。
彼女がこの一曲を歌い切った直後に、私は頬に流れる涙とともに、今年のアカデミー賞はこの人だなと確信した。
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おそらく舞台版と違うのは、演じる俳優の細かい表情のひとつひとつが如実に、もちろん歌のシーンでも大画面に映し出されること。
アン・ハサウェイは美貌すぎるゆえにお嬢さんぽい役が多かったけれど、近年は役柄も広げていて、それでもこの役は非常な汚れ役。女性として人としての尊厳を失わされ、いわば丸裸の状態の中から、絶望と過去への懐かしみ、そして失わない強さを実にきめ細かく表しながらの絶唱。感情の塊がこちらをわしづかみにするようなその演技に、彼女の女優魂を見せつけられた。

監督のトム・フーパーは『英国王のスピーチ』がなかなか鮮やかな作品だったが、この責任ある大作を堅実に撮りきっていると言っていいと思う。詰め込みすぎでフタのしまりづらい豪華なお弁当箱みたいになっているのはまあ仕方がなく、ダイナミックな描写を多用し、臨場感あふれる役者たちの歌と演技で十分に楽しませてくれる。
やはり、撮影時にその場で歌うという収録方法が成功したのだろう。演じるそれぞれの《必死さ》がダイレクトに伝わってくるのである。この前『マリリン 7日間の恋』で注目したエディ・レッドメインもこんなに歌がうまいのか!と感心したら、もともとミュージカルの舞台でブレイクした人なんですね。

ジャン・バルジャンの最期のシーンも、たぶん歌で表現されているからこそダイレクトに親子の情愛や感情の振幅が伝わってくる。そのほかにもエポニーヌの報われない恋など、やはり《哀》の感情が表される歌唱がとりわけ心にしみた。全編にわたって、音楽で表現することの力を改めて感じさせられ、いつか舞台版も観てみたいものだなあと思った。
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物語の中で、子どものころはどうも理解できなかったジャン・バルジャンの徹底した《献身》も、ジャベールが憎悪してきたジャン・バルジャンに許されて自らを失ってしまう顛末も、この歳になってようやく理解できた。やっぱり歳は取るものだ。
ただしこの歳になっても歴史オンチのため、いまいち理解できないフランスの19世紀初頭。
物語のクライマックスである七月革命から六月暴動、ボナパルティズムの若者たちが何を目指して蜂起し命を散らすのか、それが理解できないと、結末のシーンに感情移入できないという点が自分としては残念だった。まだまだ、勉強が足りません。
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by higurashizoshi | 2013-01-14 22:13 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(2)
Commented by みーはいゆー at 2013-01-15 17:55 x
こんにちは!higurashizoshiさんのレビュー、楽しみに待っていました♪
子どもの頃に「ああ無情」読んだこと、
‘歌合戦のごとく‘のこと、(わたしも最初は、びっくりして3時間持つだろうか~と不安になりましたが、そのうち、引きこまれたのか、気にならなくなりました)
『夢やぶれて』のシーンのこと、本当に、ギューッと苦しくなるようでした・・・
‘詰め込みすぎでフタのしまりづらい豪華なお弁当箱みたい‘には、まさしく!と思いました!
映画や、役者さんに詳しくないのですが、higurashizoshiさんのレビューを読ませていただいて、共感するところが多く、自分が感じていた言葉にならない思いが、言葉になっているのをみて、とても嬉しかったです。
なんだか、レビューの感想みたいになってしまいました。

‘歌で表現されているからこそ‘の言葉に、なるほど~!と思いました。
たしかに、あの歌がなかったら、あまりに悲惨なことの多いお話に、観たあと、重い重い気持ちになってしまったかもしれません。
‘音楽で表現することの力‘に、納得です!
あらためて、この映画の良さを知ったような気持ちです。
どうもありがとうございました。
Commented by higurashizoshi at 2013-01-18 02:12
みーはいゆーさん
つたないレビューに感想をありがとうございます!

感動すると、それを言葉にするってむずかしいというより、できない!と思うことが多いですよね。
私自身、書くときは勢いがあるとはいえ、いつも「どうやったら感じたことをちゃんと表現できるんだろう」と思いながら書いていて… なんだか書き終えてもまだまだ足りない感じがしてしまうんですよ。
だから、共感の思いを伝えてもらい、とってもうれしかったです。

みーはいゆーさんも子ども時代に「ああ無情」読まれたんですね~
本当に重く悲惨な出来事の多い話で、用意されている《救い》が子ども心にはよくわからず、でも忘れられない本だったなあ(挿絵もひとつずつ覚えてます)。
こういう形でまた出会い直せること、作品の力ってすごいなあと思います。
そして、作品を間において語り合えるのもすてきなことですよね。
またぼちぼちと映画レビュー書いていきますので、読んでいただければうれしいです。

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