ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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世界フィギュアスケート選手権2013 (その2)

ほかにも触れたい選手は数々あれど、今回はあの方のことだけ書きましょう。


四大陸選手権の心の傷(ファンの)を時が少し癒し、態勢立て直してのぞんだ今回の世界選手権。
彼自身はどんな思いでいたのだろう。
――もう絶対に失敗はしない。あんなぶざまな演技はしない。今季の集大成を見せてやる。
そう思っていただろうし、そのために本当に壮絶に、ぎりぎりに追い込んだ練習をしたと聞く。
リンクに姿を現した彼は、頬が削げ、眼光鋭く、異様なまでのオーラをまとっていた。
でもそれと同時に、どこか疲れて見えた。

奇跡のような瞬間を、この世界選手権で。
多くのファンがそう望み、祈り、消えない不安と闘っていた。

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ショートプログラム『月光』。
衣装を黒に変更。また、黒。

冒頭、四回転トゥーループ。回転が足りず、着氷も両足になった。
しかし、大きな傷はそれだけ。心配したアクセルも鮮やかに降りた。回転不足を取られたコンビネーションも、ジャンプとして悪くはなかった。
そして四大陸のときの未消化な動きとは別もののような、ムチのようなしなやかさで、激しく、細やかに刻みこんでいくステップ。
慣れ親しんだ第3楽章の旋律が、まるで彼の足元から、身体の中から奏でられていくような快感さえおぼえる終盤。
瞬く間に終わった2分50秒のあと、彼の顔に晴れやかな笑顔が浮かんだ。若干の悔しさも秘めた、でもすがすがしい笑顔。
ショート4位で、彼はこの日のリンクを去った。

悪くない序章だと、誰もが思った。あまりにも遅すぎたショートプログラムの変更が起こした混乱と、それが形になってしまった四大陸選手権の結果を、これでリベンジできるのではないかと。
やっぱり高橋大輔は凄い。こんな短期間を駆け抜けて、この『月光』を自分だけのプログラムに染めかえてしまった。

でも、同時にみんな気づいていたはず。
プログラムの変更の理由は、得点が伸びないことだった。『月光』なら得点を伸ばせるとモロゾフコーチは考え、彼もそれに同意した。
けれど。
変更前のプログラム『The Stroll』で彼が出した最高得点は、優勝したグランプリファイナルでの92.29。
そして、長光コーチも驚くほどのすさまじい練習量で仕上げたこの日の『月光』の得点は、84.67だったのだ。

常識はずれの時期の、力づくのような変更。それはひとつのチャレンジでもあったと思う。
彼自身、来季の五輪シーズンでプログラムの変更があるかもしれない、そのためにも今季やってみようと思ったと言っていた。
そういう意味では、単なる失敗や無駄ではもちろんなかった。『月光』を来季に持ち越す可能性もゼロではないのだし、何よりこれだけ短い期間でどこまで自分がプログラムを仕上げられるかを知る作業になっただろう。
とはいえ。
でも。

その先の言葉を飲み込んだまま、翌々日のフリーを見守った。

今季は通過点にすぎない。すべてはソチ五輪のため。
高橋大輔はよいシーズンと悪いシーズンが交互にくる選手。昨シーズンの予想外の好調からみて、今季は沈んであたりまえ。
――そんな言葉が頭の中で繰り返される。

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冒頭の四回転トゥーループが回転不足だったのは予想済み。
2つ目の四回転が三回転になったのは、回避だったのか、跳びきれなかったのか。
そして2つ目のアクセルで転倒。続くトリプルループで手をつく。コンビネーションジャンプはひとつしか入れられなかった。
そして、それよりも何よりも、彼の滑り全体に《迷い》があった。

あの、魂を込めた全日本選手権フリーの再現を望んでも仕方ないことはわかっている。あんな演技ができるのは一生のうちでも数えるほどだ。
少なくとも、この日は彼自身が納得のいく演技を、ミスはあっても「これが自分の滑りだ」と言える演技をしてほしい、できるはずだと思っていた。
でも、コレオシークエンスに入っても、彼の中から湧き上がり、会場を凌駕していくパワーが感じられない。あの高橋大輔にしかない圧倒的な存在感が、音楽とともに塊になって広がっていく瞬間がどこにも見い出せない。
そしてそのまま、彼の『道化師』は茫然と終わりを告げた。


率直にいって、惨敗だった。
フリーだけの得点でいえば、8位。フリー5位と健闘した無良選手より6点以上も低い。
羽生選手とともにパトリック・チャンとメダル争いをするはずだった彼は、総合で6位に沈んだ。誰もここまでは予想していなかっただろう。

敗因を数え上げることは、いくらでもできると思う。
本当にこのままモロゾフコーチと続けていっていいのか、ということも、多くのファンが思っているだろう。今季の迷走は、長光コーチを軸にしたチームダイスケの調和がかき乱されているせいなのではないかと。

少なくとも確かなのは、彼がこの試合で、疲れていたことだ。
練習さえ死にもの狂いですれば、必ず結果は出る。そう思って打ち込んで、身体も心も限界まで絞っていた。それはもう、痛々しいほどに。
そこまで追い込んだ果てに待っていたのは、跳んでも跳んでも成功しない四回転ジャンプと、自分では気づかないほどの深い疲労だったのではないだろうか。


ファンは彼が最高の演技を見せてくれることを、いつも望んでしまう。
でも、あと一年という限られた期間を、彼が自分のすべてを出しつくしたと言えるように歩んでほしい。そのためなら、惨敗も迷走も受けいれて、ただ見守ることを選ばなければいけないのだと思う。彼が、きっとこの屈辱から学んだことを手に、また新たに道を見つけることを信じて。

4月にひかえた国別対抗戦で、今季最後の演技を終えたあと、彼が笑っていなくてもいい。
もちろん笑っていてほしい。でも、来季につながる何かが得られたと思えたらそれでいい。

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思い通りにならない世界選手権だったけど、たくさんの発見があり、それをまた糧にして――あなたは進化していくよね、必ず。
おつかれさま、大ちゃん。
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by higurashizoshi | 2013-03-26 00:02 | フィギュアスケート | Comments(2)
Commented by 英語マーマ at 2013-03-26 22:15 x
higurashizoshiさま
前回の冒頭で、あろうことか、スペルミスをおかしてしまっていますね。guの部分を、英語のスペルのようにuを欠落してしまって。ごめんなさい。お恥ずかしい限りです。
さて、今日の記事は、高橋大輔選手について、でした。
大ファンなので思わず身を乗り出して一気に読んでしまいました。

大ちゃんのことを、これほど詳しく、そして深くつかんでおられるファンの方も少ないでしょうね。凄いです。そして、嬉しいです。

一旦は決別したはずのモロゾフコーチと、どうして再び組んだのでしょうか。モロゾフ氏が、「優勝しそうな、またはその可能性がある」選手のコーチを買って出て、自分の手柄にしたいと思っている人であることは誰でも知っているのに。
チーム高橋は、バンクーバーの時の日本人スタッフがベストで、大ちゃんを誰よりも知り、理解できる長光コーチ中心にまとまるべきではないかと。
短期間で滑り込んだ月光にも、ミスだらけのフリーを必死に滑り終えた満身創痍の姿にも落涙しました。
こちらのブログにおじゃまして本当に良かったです。何か、大ちゃんが救われた気がして。
またおじゃまさせてくださいねえ。
Commented by higurashizoshi at 2013-03-29 00:32
英語マーマさん
引き続きコメントをいただいてありがとうございます。
スペルの間違い、私はちっとも気づきませんでした。さすが英語の先生…と思いました。

大ちゃんファンは上がったり下がったり大変ですよね。
試合の成績だけでなく、いろいろなことで一喜一憂したり考え込んだりしてしまいます。
モロゾフコーチについては、私も再タッグを聞いたとき、火中の栗をなぜ拾う?と思ってしまい、今季の最後がこういうことになったので「ああやっぱり…」とつい考えてしまいましたが…
ともかくも大ちゃん自身がよくよく考えて、最後のシーズンを大事にしてほしいと願うばかりです。

私のつたない文にまた過分な感想をいただいてしまい、恐縮しています。でもありがとうございます。
世界選手権の話、時間が取れなくてなかなかサクサク次に行けないのですが、まだ続きますのでよかったらおつきあいください。

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