ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

福島・南相馬への旅 3

《これは、私が2013年5月24日に個人的に南相馬を訪れた記録です。被災された方や、津波・原発事故被害に心を痛められた方の中には、写真や文章によってつらさがよみがえったり、不快に感じたりされる部分があるかもしれません。それでも自分の見聞きしたことを少しでも伝えたくて、記事にしています。ご了承のうえ、どうぞ注意してお読みください。》


浪江町から南相馬市内に戻る。
昨年まで警戒区域だった小高地区へ。

「森のふるさと」のお知り合いの家がこの小高地区にあり、お家に立ち寄ると奥さんがちょうど庭で作業中だった。お話を聞かせてもらう。
d0153627_21381682.jpg
ゆるい坂に集落があるが、このすぐ下の家の裏庭まで津波が来たそうだ。
はるか向こうに見える白っぽい板のようなものは、津波で破壊された大きな橋の一部。
今もそのままになっている。

当時、津波が来るということで、避難所に指定されていた公民館にたくさんの住民が入ろうとした。しかし、ここでは危ないと言い出す人がいて、3、4人入ったところで取って返し、もっと坂の上の方へ全員が移動したという。
その公民館があった場所に案内されると、津波にえぐられて建物の跡形もなかった。
その近辺の家の中にいた十数人は、家ごと流されて亡くなった。まだ見つかっていない人も4人いる。

警戒区域の指定が解除されて、法律上は帰宅できるようになった小高地区だが、昼間は家の整理に戻ってはいるものの、夜も泊まって再び以前のようにここで暮らそうとする人は誰もいないのだという。
たくさんの人がこの集落で亡くなったうえ、長い間警戒区域となって、家の中も外も荒れ放題になった。特にネズミの被害がすさまじいとのこと。
今回の福島行きでは、その後もネズミの話はいろいろなところで聞いた。人間がいなくなった住居は、特に田舎の昔ながらの造りの家の場合、たちまちネズミに占領されるらしい。
そしてそんな中でも、空き巣が横行しているという。ネズミは自然にまかせているだけだが、人間は弱くなったものを狙ってくるのだ。

このあたりは皆、昔から農業を生業にしている家ばかり。それが田んぼも畑も荒れ、また一からやり直そうとしても家に住める状態ではなく、落ち着いて仕事などできない。第一、もう作物をつくっても放射能のせいで売れない。かといって、別の土地に移って農業を続けるめどもない、体力も資金もない。
このあたりの農家はほとんど、もともと子どもに農業を継がせるほどの規模ではなくなっていたので、自分たちがやらなければもう終わりなのだそうだ。

話を聞かせてくださった奥さん自身、もとはこの家で息子一家と三世代同居していたが、震災後は夫婦だけで南相馬市内のもっと線量の低いところにできた仮設に今は住んでいるそうだ。
息子の妻は、幼い孫を被ばくから遠ざけるために北関東の実家に避難。戻る見込みはないという。息子さんは仕事のために別の町でひとり暮らしに。家族はバラバラになってしまった。
「ここらの人はみんな孫といるのが楽しみだったのに、もうみんな離れ離れだよ…」と言われる。

夜にこの集落で、試しに自分の家に泊まってみた人が、真夜中に怪奇現象のようなものを見たという話。
夜中にそこらの道を亡くなった人が歩いているのを見たという話。
そんな話がいっぱいあるんだよ、と笑って言われるが、なつかしいふるさとだったこの集落が、そんな不穏な場所に変わってしまった痛みを思う。
警戒区域が解かれたあとの、お年寄りの自死や突然死も多いという。
あたりまえに暮らしていたところが、死の記憶や絶望感に満ちた、もはや安心して過ごすこともできない場所になってしまったのだ。
d0153627_21382512.jpg

海の方に移動すると、巨大な仮置き場が見えてきた。
津波で流された広大な田畑の上に、この近辺で出たゴミや、がれきが積み上げられている。
さっきの集落で家の片付けのたびに捨てるものも、すべて放射能に汚染されたゴミとして集められ、こうして仮置きされているのだそうだ。

「仮置き場って言ったってねえ。ほかに持ってくところないんだから、そのままそこに置いとくんだろう」とため息まじりに奥さんが言っていた。《仮置き場》という名前を、誰もきっと本当には信じていない。
d0153627_21384922.jpg
かつては防御服に身をつつんでおこなわれていただろう作業も、今では遠目にもごくふつうの作業着姿に見えた。こうした場所で黙々と働く人たちの被ばくの問題はどうなっているのだろう。


さらに小高地区の海に近づく。
このあたりもまた、津波で壊滅したところだそうだ。
ここは浪江町よりも早く警戒区域が解除されたため、さっき見た請戸の海辺と違い、津波のあとの家の残骸や、さまざまながれきはほとんど撤去されている。
それでも、注意してみるとそこは住宅地だったことが、荒れ野の中のあちこちに残るコンクリートの土台でわかる。
d0153627_21391183.jpg

突然、菜の花畑が広がる。
ここにあった家に住んでいた家族は、お父さんひとりを残して全員津波で亡くなったそうだ。
ひとり残されたお父さんが、ここに家があったことをみんなに憶えていてほしいと、ボランティアに頼んで菜の花を植えてもらったという。
そして、ここで亡くなった多くの人のために碑を建てた。

手を合わせても手を合わせても、追いつかない。何もことばが出ない。
d0153627_21393716.jpg



鹿島へと移動。すぐそこに海を見下ろす丘に行く。
案内してくださった森さんの同級生や友人が、たくさん亡くなった場所だそうだ。
丘の上に立つと、かなりの高さで、まさかここまで波が来るなんてまったく想像もつかない。
そのときの波の高さがいったい何十メートルあったのか、ともかくこの丘に避難した人たちの頭を越す高さだったことは確かだ。

避難したのに亡くなった人。避難できなかった人。避難せず、津波の様子を見に行ってしまって亡くなった人。森さんの友人知人にも、さまざまな形で命を落とした人がいるのだという。
d0153627_21402051.jpg


いっぱいの気持ちをかかえて、農家民宿「森のふるさと」に到着。
この日だけでどれだけ多くの重さを受け取ったのか、整理できるまでにはかなりの時間がかかりそうだ。
ご夫婦から心のこもったもてなしを受けて、さらにいろいろなお話を聞く。

「森のふるさと」では、なじみになった都会のお客さんに自家製の米、野菜、干し柿などを直売して毎年喜んでもらっていた。米も食味のよいものを研究して、本当においしいお米を作れるようになってきていた。それが原発事故で全部だめになった。

今の泊り客には、野菜は全部検査したものを出している。お米は震災前のものを貯蔵していたのを炊いている。来年は思い切ってまた米を作ろうかと思うけれど、これまで買ってくれていたお客さんに「また作ったけどどうですか」と声をかけて、断られるのがこわい。

震災直後は、写真を撮りに来る人がたくさんいて、見世物じゃないんだと思ってものすごく嫌だった。今は逆に、風化させないために、来て撮って、話を聞いて、伝えてほしいと思っている。

――奥さんのやわらかい物言いの中にも、震災以来の苦しみが沁みていて、それでもこんなに心豊かな暮らしともてなしを続けておられることにしみじみと気持ちが動かされた。
おいしいお酒をいただきながら、ご夫婦からほかにもたくさんのお話を聞いた。
地元の小学校の若い先生も夕食に寄られて、津波と原発被害でどんどん子どもがいなくなり、統合された学校での話もお聞きした。



一夜開けて、朝。
おいしい野菜たっぷりの朝ごはんをいただきながら、庭をながめる。
d0153627_2140428.jpg
たくさんの樹木でいっぱいの庭の向こうに見える畑。そこまで津波が来たそうだ。



何から何までお世話になった「森のふるさと」のご夫妻。またきっとお会いしましょう。
d0153627_2142871.jpg




津波と原発事故の両方に襲われた南相馬。
生半可な気持ちで訪れてはいけないと思っていた。行こうと決めてからも、本当に行くに足る自分なのかどうか、自信がなかった。

そして、まだたった一度、わずかな時間立ち寄っただけ。
わかったことはほんのわずかだ。
でも、感じたことは絶対に、そこに立たなければ感じられなかったこと。それだけは確かだといえる。
時間にすれば、たった丸一日にも満たない時の中での経験。でもたぶん、一生忘れることはないだろう。



***
長々と書いた、つらいことがらの続く文章を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。
簡単にはつづれなかったことと多忙が重なって、なかなか進まない中、なんとか最後までたどり着きました。
やっと書き終えて、またここから次が始まるという気持ちです。
[PR]
by higurashizoshi | 2013-06-16 23:55 | 雑感 | Comments(0)

フォロー中のブログ

明石であそぼう! たこ焼...

最新のコメント

bikegogoyさん ..
by higurashizoshi at 14:59
いやー、楽しかったです南..
by bikegogoy at 22:38
伝わってきます。なんてい..
by まにまに at 10:40
まにまにさん 読んでく..
by higurashizoshi at 22:45
先輩、すごい旅をしたんだね。
by まにまに at 18:27
おはようございます。 ..
by Disney 鴨 at 10:36
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 01:15
こんばんは。ひぐらし草子..
by Disney 鴨 at 20:22
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 08:28
こんにちは。 男子SP..
by Disney 鴨 at 17:05

検索

ファン

ブログジャンル

映画
ウィンタースポーツ