ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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全日本フィギュア2013 振り返りその2

死闘につぐ死闘だった今回の全日本フィギュアの中でも、やはりいろんな意味で主役を取ったのは高橋大輔選手だった。
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これまで、大けがはもちろんのこと、各シーズン、各試合の数々のアップダウンにより、ファンも天国と地獄の間を行き来し、ずいぶん慣れてきてはいたといっても、今回は本当にダメかと思った人も多かっただろう。
心労のあまり行き倒れたファンがあちこちに…。いや冗談じゃなくそれほどファンにとっても過酷な全日本だった。

少なくともこの怒涛の3日間に全国津々浦々の大ちゃんファンの食事量と睡眠量は極端に減ったに違いなく、心配、不安、驚愕、絶望、祈り、安堵…とそれぞれの場面でみんなが流した涙を集めたら全日本会場のさいたまスーパーアリーナのリンクの氷くらい軽く作れるんじゃないかしら。
などと言ってる私も今回は「ここまで泣くか?」と自分に引くくらい何度も大泣きし、「もうダメだ」「ダメかも」「希望はある」「悲しすぎる」「やっぱあきらめない」「いやダメかも」…と地の底をぐるぐると回りつづけた。

ダメというのはソチ五輪行きがダメということであり、選手生命がこの全日本で終わるということでもあった。
12月21日、ショートプログラム。

右足の状態がどこまで回復しているのか、情報がほとんどない中で、頼りは大ちゃん本人の顔つき。とにかく正直に顔に出る人なので、自信のあるなし、調子の良しあしがけっこうはっきりわかるのだ。
と、思ってショート前のアップからテレビを凝視していたが、どうもよくない。いよいよ最終グループの6分間練習が始まると悪い予感は確信に変わった。
調子のいいときはピリリとしたお顔が、なんというか輪郭がボンヤリしている。そしてすごく不安そうだ。そしてほとんどジャンプを跳ばない。これは相当ケガの状態がよくないぞと覚悟をした。

のちに本田武史コーチなどが語ったところによると、11月末に右足の骨挫傷が判明した当初は痛みで氷に足を突くこともできなかったそうで、ジャンプを再び跳びはじめたのは全日本が始まる週に入ってからだったとのこと。
要するに、ほとんど治っていない状態で無理やりに全日本に出てきたということだったらしい。全日本に出場しないということは、そこでソチを断念するということだから、這ってでも出るという選択肢しかなかったのだと思う。

このときにはまだ、さすがにそこまで酷い状況とは知らないこちらとしては、6分間練習の様子を見ながら、ただただ「相当不安をかかえているんだな…」と感じていた。


ショートプログラム「ヴァイオリンのためのソナチネ」。
直前の羽生選手が100点越えのとてつもない演技を見せ、その得点が出るまでの間、高橋選手はリンクサイドではなく、リンク外の階段の下にいた。まるで輝かしい羽生選手の栄光のオーラから、自分の身をひそめて守るように。
それを見たとき、さらに状況は切迫しているんだと実感した。

冒頭の4回転トゥーループは着氷したものの回転不足。
そしてトリプルアクセル、成功したと思った瞬間に尻もちをついて転倒。
最後のスピンでも、いつもはありえないぐらつきがあり、おそらく右足で踏ん張ることができない影響が、全体に厳しく出てしまった。
そしてたぶんメンタルでも、まったく自分の状態に自信を持てない状況に飲みこまれてしまっていたように思う。
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それでもステップはすばらしかった。そしてなめらかで官能的なスケーティングと、苦悩と希望を描き出す曲想表現。高橋大輔にしか作れない世界は、消えずにそこにあった。
今自分にできる精一杯をやった。でもやっぱりダメだった。演技直後の大ちゃんの顔はそう言っているようだった。

そしてキスクラに長光コーチと座り、得点を待つ大ちゃんの表情は、まるで恐ろしい判決を予感して、苦痛の中に座している人のようだった。
子どものようななまなましい不安と悲しみが彼をおおっていた。そしてその背を長光コーチはやさしく撫でていた。
ああ、そうか。そうだったのか。
一種異様な雰囲気の二人の様子を見て私は、遅まきながらやっと了解した。
無理だったのだ。この全日本に、まったく回復は間に合ってなかったのだと。

その無理を承知で、本人もコーチもスタッフもこの場にやってきた。これはいちかばちかの賭けどころではなく、最初から勝ち目のないレースだったのだ。
その中で、ただただ最善を尽くすしかやることはなかった。そして彼はやった。そして敗北した――と、少なくとも彼自身は感じていた。

ショートプログラムの得点は82.57。PCS(演技構成点)がいくら高くても、ジャンプの回転不足、転倒、スピンでの失敗は大きかった。
それでも4位につけた。希望は残っていると思った。ただ、キスクラの大ちゃんの放つ絶望感のようなもの、長光コーチからただよう諦念のような空気が、ずっと頭を離れなかった。
(ショートプログラム「ヴァイオリンのためのソナチネ」の動画はこちらをクリック



12月22日、フリープログラム。
もしかして、ショートのときとはちがう、戦いにそなえた鋭い顔でリンクに出てきてくれるのではないか、という淡い期待はすぐ消えた。
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全日本に向けて変えた紺色の衣装に身を包んで現れた大ちゃんは、最初から追いつめられた不安むきだしの顔をしていた。正直、その顔を見てこちらが怖くなった。ダメかもしれない。本当にダメかもしれない。
でも、そんなことがあっていいものだろうか?


フリー「ビートルズ・メドレー」。
リンクに出ていく大ちゃんの姿に、実況の西岡アナウンサーの声が重なる。
「強さと弱さ。多くのファンが、高橋大輔のこの二つの姿を愛してきました」
このとき大ちゃんは何を考えていたのだろう。
夢見るような表情からスタートするこのプログラムも、この日はまるで、ずっと苦痛の中を越えていく道程のように見えた。
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前日のショートの無理で、右足の状態はさらに悪くなっていたのかもしれない。
なんとか防備してミスを最低限に抑えるために、4回転を回避することだってできた。回避して3回転のコンビネーションを組み込めば、彼の高いPCSで、せめてこれ以上の順位の転落はふせげた可能性は十分あった。
でも彼の中に「4回転を回避する」という選択肢はなかった。
回避するどころか、当初のプログラム構成どおりに「4回転を2度入れる」という道を選んだ。愚直なまでに、高橋大輔はアスリートだった。


最初の4回転トゥーループで転倒。
そして二度目も挑んだ4回転は身体が開いて3回転になり、着氷も乱れた。
「カム・トゥギャザー」のステップ、リズムを刻む身のこなしの、彼にしかない美しさ。
と、気づくと手に赤いものが見える。出血している。エッジで切った?
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次の「フレンズ・アンド・ラバーズ」でジャッジ席に向かって微笑みながら差し出す右手。その手が鮮血で染まっている。差し出す方の手が血で染まるなんて、いったいどこまで劇的なんだよ大ちゃん! 血を流しながら演技している。まるで比喩を体現するかのように。
昨シーズン全日本の奇跡の「道化師」の演技の最後に、まるで花びらのようにはらりと衣装から舞い落ちた羽根を思い出す。やっぱりこの人には何か憑いてるんだ!

なんて考えられたのはあとになってからで、演技中は胸が痛み涙が流れて、頭の中は真っ白。ただ凝視することしかできなかった。
ジャンプを降りるたび、こちらの心臓がぎゅっと縮む。この人は死力を尽くしている。限界に挑戦しているんじゃなく、すでに限界を超えているのになおも未知のところに跳ぼうとしている。
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でも、3回転ループが抜けて2回転になったそのとたん、大ちゃんの身体からふっと力が抜けた気がした。もう終わった。あとは笑顔でただ観客のために滑ろう――。
そのあとの「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」のコレオシークエンスはたぶん、彼のこれまでの演技の中でいちばん無心で無欲な美しさにあふれていた。
ラストの両手を広げるポーズのあと、身体を少し震わせて泣き笑いを見せた。精一杯に笑ってみせてくれた顔が、悲しかった。誇らしかった。

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「こんな演技では五輪で勝てない。こんな演技では五輪に行けない」
そう思い、「これが最後の(選手としての)演技になるかもしれないなあと思ったら、今までありがとうございましたという気持ちで…」と、フリー後の涙のインタビューで言っていた大ちゃん。
これほどまでに実績のある、世界じゅうからリスペクトされてやまない選手が、4回転を失敗はしたものの2回入れ、一歩も逃げずに滑り切ったというのに、本当に「もう終わった。ソチには行けない。現役をこれで退くしかない」と思い詰めていたのだ。
ある意味、なんという純真さでしょう。

そして純真な彼のファンもまた、純真だったのでした。フリーが終わったあと、インタビューを見ながらまた涙が止まらない。これで終わり?こんな最後ありえない、と思いながら絶望感でいっぱいで、本当に何も手につかなかった。私だけじゃなく、きっと多くのファンがそうだったと思う。
小塚選手がいい演技で3位に入った以上、全日本5位に終わった大ちゃんがソチの代表に選ばれる道理がない――フリーが終わったその夜は、そう考えることしかできずただただ悲しくて、思い出すたびに泣けてきて、ネットの情報も見る気にならなかった。
(フリー「ビートルズ・メドレー」の動画はこちら。フリー後のインタビューはこちらをクリック。今見ても泣きます)


ようやく少し客観的になれたのは翌日で、小塚くんもあんなに股関節の不調で苦しんでやっとこの全日本で復活できたんだから、このままソチに行けたらいいよなあ…と思ってはまた胸が痛くて、ネットをちょっとのぞいて五輪代表の選考基準やいろいろな人の意見を読んでみた。
すると選考基準からいって高橋選手は絶望するにあたらず、という話がたくさんあり、しかし私は筋金入りのペシミストなので容易にそんな意見は信じない。というか、信じて裏切られたときのさらに深い絶望が怖い。大ちゃんがソチに行けないなんて考えたくもないが、考えたくもない残酷なことが起きるのが人生というものなのだ。

そして23日、女子フリーの激闘を観た。男子も史上に残る激闘だったが、女子はまた別の意味ですさまじかった。ついに優勝したあっこちゃんに涙が止まらず、復活をとげた村上佳菜子選手に泣き笑いし、真央さんのオトコマエぶりに感動した。その間だけは、そのあと夜9時半からのソチ五輪代表発表のことを忘れていられた。
(実はこの女子の戦いを、大ちゃんは小塚くんと客席で隣同士に並んで、おしゃべりしながら観戦していたそうだ。うーむ、おそるべし仲よしチームジャパン…)
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代表の発表、最後に「高橋大輔」と読み上げられた瞬間はたぶんずっと忘れないだろう。
ああ、こんなことが過去にもあったな、とぼんやり思った。絶対に無理だと思っていた願いがかなったことが。
でも、それがいつのどんなことだったのかは、思い出せなかった。ただ無性になつかしい、あたたかい気持ちがした。そして子どもみたいに、わんわん泣いてる私がいた。


この3日間、本当にどれだけ泣いたことか。そして、最後に救われた。願いがかなった。
だからソチではもう、泣かずに笑いたい。どんな結果が待っていて、大ちゃんがどんな形で競技から去っていくことになっても、笑顔でいたいと思う。

とはいえ、ひとこと叫んでおきたい。
ああ高橋大輔、最後まで、最後まで、ハラハラさせすぎじゃあー!

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ソチ五輪代表入りおめでとう。
けががしっかりと治ることをまず祈って、1ヶ月半後、小塚くんの分も、織田くんの分も背負った――世界で一番美しいスケートを私たちに見せてください。
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by higurashizoshi | 2013-12-30 03:01 | フィギュアスケート | Comments(0)
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