ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
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トム・アット・ザ・ファーム

d0153627_215253100.jpg2013年公開 カナダ・フランス
監督・脚本・編集・衣装 グザヴィエ・ドラン
原作・脚本 ミシェル・マルク・ブシャール
出演 グザヴィエ・ドラン ピエール=イヴ・カルディナル リズ・ロワ エヴリーヌ・ブロシェ マニュエル・タドロス





元町映画館でグザヴィエ・ドラン監督作品3連発を観てからほぼ9か月(そのときのレビューはこちら)。
ついに観ました、第4作。もはや麻薬です。グザヴィエ・ドランという麻薬。
と、言いたくなるほどの進化ぶり。この次に撮った第5作「Mommy」が昨年のカンヌで審査員特別賞を受賞したのは記憶に新しいところ。授賞式でドランくん、超絶キュートなスピーチを披露、審査員長ジェーン・カンピオン女史を完全に骨抜きにしたところをAXNで目撃しましたぞ!

その「Mommy」に先立つ監督・主演作がこの「トム・アット・ザ・ファーム」。
今度はサイコスリラーに挑戦、しかも初の戯曲映画化。いったいどんなものであろう。さすがに早熟の《美しき神童》も、そろそろ中だるみがきてもおかしくないぞ。前作「わたしはロランス」で、少々風呂敷を広げすぎた感もあったしな(好きでしたが)。

…なーんて思って観たら、やられました。してやられました。
ドランくん、これまでの初々しさをかなぐり捨て、また高次のステージに上がらはりました。本当にとんでもないです。
書いて、撮って、演じて、でも今回は音楽は人にまかせたり、何より脚本も共同執筆で、いろいろ学習し変化もしてるのですが、それにしても撮るのも、演じるのも、やっぱりうますぎるやろ!

カナダの著名な戯曲家の舞台を映画化した本作、ドランくんがこの上演を観て、ちょうど今自分がやりたいことと合致すると感じて即、戯曲家に映画化を切望したそう。
初期作からみるとオリジナルだけにこだわる暴走系ナルシストかと思いきや、自分の立ち位置やなすべきことを見通せる、非常に客観的な人なのだなあ。
従来3作のケレン味たっぷりのドラン色から、今作は一気に余分なものをそぎ落としたタイトな作品へと変貌。この確信に満ちた新しい映像世界、観る人を選ぶとは思いますがだまされたと思ってぜひ観てほしい。
人はなぜ支配されることに魅かれるのか、愛とはどのように残酷なのか――それらについての深淵で、たまらなく官能的で、甘く苦痛に満ちた答がここにあります。

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事故死した恋人ギヨームの実家である田舎の農園に、葬儀に出席するため都会からやって来た青年トム。それを迎える、ギヨームの母親と兄。
亡くなったギヨームは母親に同性愛者であることを隠し、異性の恋人がいるという作り話をしていた。そのため、トムはギヨームの単なる友人として振る舞い、サラという女性の恋人がいるという口裏を合わせなければならなくなる。

ギヨームを溺愛していたらしい母のアガットは、サラがなぜ葬儀に来ないのかと激高。一方、兄のフランシスは常軌を逸した暴力性を持つ男で、のっけからトムをあらゆる方法で脅し、母親を落胆させないための芝居を続けること、そして母親を喜ばせる名目でこの農園に滞在し続けることをトムに要求する。
アガットとフランシスの間にあるあやうい均衡、次第に暴力と支配性を増していくフランシス、まるでトムは獣の中に迷い込んだ子羊のよう。しかも、恋人ギヨームを失って虚脱に陥っていたトムは、次第にみずからこの錯綜した関係のさなかへと足を踏みいれていく…。

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携帯電話も通じない、孤立した農園という空間。
いくら車を奪われ、暴力で支配されているとはいえ、逃げるチャンスがないわけではない。
それなのに、トムはなぜ逃げ出さないのか?

トムを虐げつつ愛でるフランシスの残酷な官能性、一触即発の二人の関係も怖いし、共依存におちいる快感に染まっていくトムの壊れっぷりも怖い。
しかし一番怖いのは、フランシスの暴力性もギヨームの行状(のちにあきらかになってくるような)も、愛情という衣をまとった底知れない母親のエゴイズムから端を発しているのだということ。それが、物語が進行するにつれ、観客にじわじわと沁みてくる。

はたして、トムは生き残ることができるのか。ここから逃れる未来がありうるのか。
そこに第4の人物、偽の恋人であるサラが農園に現れ、物語は思いがけない方向へと舵を切っていく…。


人里離れた場所に主人公が囚われ追いつめられる図式や、トウモロコシ畑での緊迫(『北北西に進路を取れ』)、シャワールームでの驚愕(『サイコ』)等、あからさまにヒッチコックをはじめとする古典的サスペンスへのオマージュが満載と見えるものの、パンフレットの解説によればドランくん自身はヒッチコック作品を一本しか観ていなかった由。
むしろこの作品の肝は、心底から同性愛を嫌悪し、他者を暴力と性で支配することに依存する男フランシス(母アガットも根はまったく同じ)と、フランシスに支配され生殺与奪すら握られてしまうトムの関係が、決して単色ではないこと。
フランシスの、亡き弟に対する激しい執着自体、性の匂いをまとった愛憎のせめぎあいを感じさせる。フランシスにとって、トムは弟ギヨームの身代わりでもあるのだ。

たとえば、フランシスとトムが納屋でダンスを踊るシーン。
これから何が起きるかというひりひりした緊張と恐怖に満ちているのに、このシーンは異様に美しい。モンスターのようなフランシス、被虐に憔悴したトム、その二人が身体を寄せ合い、ひたすらにタンゴを踊る。
そこにあるのは、支配―被支配という単純な図式でははかれない、つかの間の愛の形なのではないか―― ダンスの間に語られるフランシスの言葉はあからさまで残酷なのに、そんなふうにすら感じさせられる。観ている側も息を止めて二人を見つめるしかない、忘れがたい場面だ。

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ドラン作品に欠かせない音楽、今回はとてもひかえめながら、名匠ガブリエル・ヤレドがスコアを書いたサウンドトラックが非常に効果的。
そして冒頭の「風のささやき」(往年のサスペンス映画『華麗なる賭け』の主題歌。そのフランス語版で、ここからぐっと引きこまれます)、そしてエンディングに流れるルーファス・ウェインライトの「Going to a town」が、おそろしくいいです。

ルーファス・ウェインライトについてはほとんど知らなかったのだけど、この曲にすっかり惚れ込んで(私の大好きなmuseの曲に似てるということもあり)、以来ネットで探しては聴きこむ毎日。それだけでは飽き足らず、ファーストアルバムも中古で購入。今まで知らずにきたのが人生の損失と思えるほどすばらしいアーティストだ!

それにしても残る謎は、最後にフランシスが着ていたUSAシャツ。
ラストの「Going to a town」で繰り返される歌詞「I’m tired of America(アメリカにはうんざりだ)」とともに、他者を支配するもの=アメリカ合衆国という主張なのだろうか?
ドランくんの考えをぜひ聞きたいところです。
そして元町映画館さま、第5作「Mommy」も日本公開となったあかつきには、どうか早めの上映をお願いします!
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by higurashizoshi | 2015-01-15 22:17 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

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