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ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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どこかへ

ひさしぶりに、日常の買いものをしに大型店舗に行った。
たくさんの食料品、日用品、クリスマスのお菓子、お正月用品も並んでいる。
ぐるぐる、ぐるぐる売り場を回る。買うべきものを手に取る。棚に戻す。
ふと気づくと、またぐるぐると売り場を回っている。
何を買ったらいいのかわからない。
何もかもが、何かを思い出させ、何もかもが、やわらかに深く、胸を衝く。

父が突然亡くなってから一週間が過ぎた。
最後まで現役で仕事をしていた父の急逝は、多くの人に衝撃を与え、そして多くの人が心から父のことを悼んでくれた。
たくさんの人に愛し愛され、幸せな父だったと思う。
やるべきことをやり終えたかのように、ある夜、音もなく旅立っていった。
父らしい最期だとみんなが言う。歳を重ねた方々からは、かくありたいと、口々に言われる。

あの日から、幾人に対して、父の死を、その現場を、その前後のことを、繰り返し説明したかわからない。
何の予告も予感もなく、はたりと止まってしまった父の心臓。
私たちを何ひとつわずらわせることなく、きれいに逝った父。
それはもう、ひとつの物語のようになってしまって、私はまるで糸車を回すように、その物語を語って聞かせているような気がする。
人にも、自分にも。

残された父の肉体に別れを告げ、見送った。
父を愛した人たちと、悲しみを共有した。
そのあとのさまざまな仕事に追われ、さらに何日かが過ぎた。
そしてふと私は思う。
父はどこにいってしまったのだろう?
まるで、雲隠れの術のように、父は消えた。

ひとりでいると、ときどきあふれてくる涙には、特に意味はない。
たぶん父の肉体を見送った記憶が、よみがえるだけなのだ。
何十年も着ていた服を脱ぎすてるように、父はあの肉体を置いて消えた。
私たちの知らない、どこかへ。
そのことの意味を、私はまだ見つめているだけで、理解していない。



どこかへ_d0153627_16201295.png

by higurashizoshi | 2015-11-24 16:21 | 雑感

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