ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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キャンディ

d0153627_1342952.jpg恋をしているさなかに、相手と完全に《とけあいたい》と願う。
ちがう人間同士だから、完全にとけあうことはできない。けれどそれでもはげしく、《とけあいたい》と、それだけを願う。

とけあう、ということは、自分をなくす、ということでもある。
お互いに、自分をなくして、ひとつになる。
ずっとずっとそんなふうに、とけあって、ただとけあって、いっしょにいたいと願う。
それだけを夢見たふたりの、行方を描いた物語だ。

詩人志望の青年ダンと、画家志望の若く美しいキャンディ。
ふたりは出会った瞬間から恋におちて、ずっといっしょにいるようになる。
ダンが自作の詩を読み聞かせ、キャンディがふたりの絵を描く。
このうえなく幸せな時間は、けれど長くは続かない。
いっしょにいるために必要な金が、ふたりにはないのだ。
ダンはジャンキーだった。キャンディはすぐに、ダンと同じになるために、自分からすすんでドラッグに手を出す。
ふたりが幸せに、とけあっているために、ドラッグはかかせないものになる。
急速に、急速に、ふたりは堕ちていく。《地獄》へと。

ダンは家族と縁を切り、定職にもつかず、きままに生きてきた男だ。
キャンディと出会わなければ、ほどほどのジャンキーとして、のらりくらりと人生を送っていたかもしれない。
一方キャンディは、こぎれいな中流家庭で育ったひとり娘。母親との深い確執をかかえている。
「6歳のときからずっと拳を握りしめている」というキャンディの言葉。そして、堕ちていく娘を見る母親のきびしく容赦ない眼が、この母娘の関係をあらわしている。
父親のほうは、娘に対し、無条件にひたすら優しい。キャンディは気づいていないが、実は彼女の父親とダンはよく似ている。一見、堅実で温厚な紳士と、いいかげんなジャンキー。まったく違うふたりだが、ふたりとも、キャンディを溺愛し、そして無力だ。
「彼女は俺のすべてだった。彼女のためなら何だってできた」
そのダンの独白はうそではない。ダンは《ロクデナシ》だけれど、心からキャンディを愛した。たぶん彼の人生で初めて、誰かと喜びを分かち合い、重なって生きることをのぞんだ。

「この美しい娘に何をしたの!」やつれ荒れ果てたキャンディを前に、母親はダンに向かって叫ぶ。
けれど、ダンがキャンディを陥れたのではない。引きずり込んだのでもない。
キャンディが自分から選んだのだ。ダンとただとけあうためにドラックを打ち、必要なものを手に入れるために体を売った。決めて進んできたのはいつもダンではなく、キャンディだった。

ふたりが歩んでいく道はあまりにも残酷で、ふたりはどうしようもなく未熟で、おろかだ。
そんなふたりをずっと見ている人物がいる。変わり者の中年男キャスパー。
キャスパーは薬学の教授でありながら自身もジャンキーで、ダンが唯一頼る相手だ。
彼はダンとキャンディを暖かく見守るが、地獄から救い出す手助けはしない。
それはキャスパーが自分の無力さを自覚しているからだ。彼自身が深くドラッグにとらわれ、もはや魂を売り渡して、あともどりができないことを自覚している。

映画の冒頭、キャンディとダンは、遊園地の回転型遊具に乗る。天井のないドームのような室内に、何人かの子どもたちといっしょに入る。
キャスパーが、遊具の上から笑顔でふたりを見守っている。
遊具は回転を始め、遠心力で人々は壁にはりつけられる。
キャンディとダンは、笑いながら抱きあい、回転をつづける。
ふたりはきらきらと輝いて、幸福そのものだ。ただお互いだけを見つめ、とけあっている。
いつまでもいつまでも、ふたりはこの遊具に乗っていたかったのだ。大人になることも、現実と折り合って生き抜くこともせずに、ただ愛し合い、とけあっていたかった。

遊具を降り、地獄を抜け、ふたりが失い、そして得たもの。

キャンディを演じるアビー・コーニッシュがほんとうに美しく、しかも魂のつよさを感じさせる。か弱くつぶされていく女性ではなく、愛する人と必死で生きようともがくキャンディを、気品をうしなうことなく表現していてすばらしいと思った。
ダン役のヒース・レジャーは、おろかで無責任、同時に無垢で純粋な青年をていねいに、ナイーブに演じている。どうしようもない男なのに憎めない、ダンをそう感じさせるのは、ヒースならではの魅力なのかもしれない。
彼にとってこの作品はオーストラリアでの8年ぶりの映画出演。そして最後の母国映画への出演作となった。
映画の中で、意識を失ったキャンディの体を揺すり、ダンが「オーバードーズ(薬物の過剰摂取)だ!」と叫ぶシーンには、やはり胸をさされてしまった。ヒースが生きた軌跡がこんなふうにも残っていることに。
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by higurashizoshi | 2008-03-30 13:50 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

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