ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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克服ってなんだろう

今朝新聞を開いたら、社会面にこんな大見出しがあった。
「39歳 引きこもり決別」「20年越し 高校で再出発」。
20年間自宅にこもっていた女性が、39歳で高校に通い始めたという記事だ。
興味をひかれて読み始めて、第一行でつまずいた。

《20年も続いた「ひきこもり」を克服し…》

そして女性の後姿の写真についているキャプションも、

《ひきこもりを克服して再び高校生になった女性…》

克服。克服ね。

朝食を食べ終わったあと、広辞苑を取り出す。
《克服 =努力して困難にうちかつこと。》
えらい簡単な説明だなあ。じゃ、《うちかつ》とは?
《うちかつ(打ち勝つ・打ち克つ)=「勝つ」を強めていう語》
つまり、がんばって困難とたたかって勝つ、というのが、克服?

ほかに辞書が見当たらないので、パソコンの標準辞書に当たってみた。
《克服 =(困難を)乗り越えること。》
なるほど。勝つ、乗り越える、と…。

だとするとこの記事の場合は、その「困難」は「家から出られない、引きこもりの状態」で、それに勝った、またはそれを乗り越えた、という意味になるわけか…。
しかし、「勝つ」となると逆は当然、「負ける」だ。
じゃあ引きこもりを続けてる人は「負けてる」わけなの?
「乗り越え」られずに、「負けてる」。

克服。克服ね。

よく目にするのは、
《障害を克服》
《不登校を克服》
《難病を克服》

じゃあ、こんなのはどうだろう。
《風邪を克服》
んな、おおげさな。ということになる。風邪ごときでは《克服》対象にならないらしい。もっとでっかく困難でないといけないのだ。

でっかい困難として、これはどうか。
《ハゲを克服》
これは、わからない。《克服》した状態が、
①精巧なかつらをあつらえてコンプレックスを感じなくてよくなった
②育毛技術により、ハゲではなくなった
③ハゲである自分をうけいれて生きるようになった
のどれなのか、特定できない。
だから、この場合、《克服》って言葉は、適当でないだろう。
「ハゲにうち勝て! 乗り越えろ!」
意味わからず、ということである。

ということは、《克服》というのは
 その人に、誰もが認めるようなとても大きな困難があり
 その困難とたたかって、勝ったり乗り越えたりして
 他人にわかりやすい、別の状態に移行すること
というイメージで使われているようだ。
だから、
《障害を克服》といえば、こんなこともできるようになりました! だし、
《不登校を克服》といえば、学校に行けるようになりました! だし、
《難病を克服》といえば、治りました! ということになる。

明らかなのは、マイナスイメージからプラスイメージへ、という移行の間に《克服》という言葉が使われていることだ。
いわゆる「普通」でない状態から、「健常」で、大多数に適応する「普通」へ。
だから、《ひきこもりを克服》というのは、
家から出られないというマイナスの「普通」でない状態から、うち勝って、乗り越えて、家から出られる「普通」になりました! 
ということなのだと思う。

つまりそれは、やっぱり明らかに、引きこもり続けている人はマイナスで、「普通」じゃなくて、うち勝つことも乗り越えることもできてない人、というメッセージだ。
それは、今引きこもりやその周辺で苦しんでいる人につきささる、否定のメッセージだ。
《克服》という言葉はそのように使われている。
使う方には安易に使える、便利な言葉だろう。言葉に罪はないが、とても危険な使われ方をしている。

ほんとうの意味の《克服》は、もっと内的なものだと思う。
たとえば私が思い出すのは子どものころ、高い崖から飛び降りる決意。
崖から飛び降りてケガして、激痛に耐えたときの自分の心。
崖から飛ぶバカと親から叱られて否定されて、波打つ気持ちがせめぎあう瞬間。
もちこたえ、たたかい、自力で抜け出す。
そしてそれは、前の自分を別に否定するものではない。
崖から飛びたくてビビっている自分も、自分だからだ。迷って飛ばない自分も、ちゃんと自分だからだ。

大切なのは、困難の中にあるそれぞれの人がどう生きているか。
どんな生も、どんな瞬間も尊いと私は思う。
それに封をするような《克服》の濫用はやめようよ。昼食を作りながら考えた、今日の私の結論だ。
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by higurashizoshi | 2008-05-05 13:32 | 雑感 | Comments(9)
Commented by ツネ at 2008-05-05 23:01 x
こんばんは、いつもありがとう。
僕ら車椅子生活者でその障害を克服するというのは、たとえばパラリンピックに出るとか、あるいは、障害があるにもかかわらず・・を達成とか、だよね。マイナスイメージを「克服」してプラスの面を獲得することかな。僕ら身障者に対してはこれはこれでかまわないんじゃないか。きっちり障害があるんだから。もちろん、個人的にはそんな「克服」を求めたりしないけどね。
でも、「ひきこもり」をこれと同じに論じて、単純にマイナス扱いする連中は何もわかってないんだよ。この記事を書いた記者もね。ひきこもらなきゃできっこないことがいっぱいあるのに、ひきこもることができないで、浮ついてるだけなんだから。不登校を障害だと考えている残念なかたがたもいつかわかりますよ。自分は引きこもることができなかっただけだったって、ね。。
Commented by gara at 2008-05-06 02:28 x
「障碍を克服」って、とても実は不思議な言葉ですよね。

障碍は克服?できないから、障碍なのですもの。

何かができるようになっても、障碍とは一生
おつきあいしなければいけないのですもの。

私、最近のブログしか拝見せずに、
やっとお名前と、どの方なのかが繋がったので、
検討違いなこと、ましてやブログのアドレス残して
きたこと失礼だったかなと、
ちょっぴり戻ってきてしまいました。
リンクから、HSにも障碍児のお母さんがいるのだと、
ましてや映画好きな方が!と嬉しくて、
つい書いてしまったのです。ごめんなさい。

もしかして、外に出てばかりいる療育熱心な
親みたいなイメージにうつってしまってるかなぁと。
全然違うのですとだけお伝えしておこうと思います。
ブログはいろいろな人が見るので、言えないことも
いっぱいあるため誤解されるだろうなあと思いつつ。
(地域で障碍児を育てていくべきという考えに
関しても、熱心なおかあさんではない方にもわりと
良く言われて、いつもしょんぼりしていたのでした。)
Commented by gara at 2008-05-06 02:29 x
すみません、文章が長くて、続投させてもらいます。

実社会では、higurasizoshiさんがおっしゃるような
マイナスイメージな捉え方は沢山あると思います。
私は「うちの子は障碍なんかない!」というお母さん
たちの言葉に、実は深く傷ついたりします。
そんなに障碍って悪いことなのかなって。
そこを変えるのは、なかなか難しくて、
だからやっぱり心ベースというか、それぞれの心で
納得できる道なら善し、そこは引かない、
そして他人を責めないで行くべきなんだと思っています。
それぞれが心の自由を獲得するための
道行きはさまざまで、でもきっと身近な人に、
愛されているという経験はどこへ向かうにしても
力になるはずって思いたいです。

higurasizoshiさんが、どんな瞬間も尊いと
思う暖かな気持ちが、おうちの中を静かに降り注いで
いるのだろうなあと、ふと思いました。

なんだか抽象的でえらそうな言葉に
なっちゃってますね。
文才ないなぁとつくづく。
あれ?検討違いなこと書いてないか、
考えすぎ?など、またもや心配になりつつ。
どうも失礼しました。m(_ _)m
Commented by higurashizoshi at 2008-05-06 10:28
ツネさん
ツネ節の復活を感じさせるシャープなコメントありがとう。
たとえば障害のある人が努力してなにかを成しえて、「私はこういう部分を克服できた!」と
言うのはまったく正当だと思うのですよ。
でも《克服》って言葉が、マイナスからプラスへの移行チャンネルのごとく、外側から安易に
使われるのは《克服》に失礼でしょうと思うわけ。ときには凶器にもされてしまうし。

引きこもりにしても不登校にしても、今はまだ、大多数の人が圧倒的にマイナスとして
見てるのは事実で、だから実に安易に《克服》アイテムとして扱われるのですよね。
そういうのはもうそろそろやめて、ものごとの意味をちゃんと考えて文章を書いてほしい、って
この記事の記者さんあてにメールしようと思ってます。
ちゃんと届くか、理解されるか、わからないけど、やってみるのです。
Commented by higurashizoshi at 2008-05-06 10:42
garaさん
そうですね、「障害を克服」って簡単にいう人は、あんまり意味を考えてないんじゃないかなと
思いますね。
わかりやすくて華々しい成果をあげたときに、使いやすい道具みたいに《克服》っていう
表現をしてる気がします。
当事者と家族にとっては、障害は一生つきあっていくもの。ほんとにその通りですよね。

garaさんがコメントくださったのはうれしかったし、何も失礼なんて思わなかったですよ。
ブログも見せていただいて、共感したり、考えさせられることがたくさんあって、いいブログだな
って思います。
うちのタタの場合、いわゆる障害のある・なしのボーダーライン上にいるので、療育の世界とは
別だし、かといって定型発達の子とは明らかにちがう世界に生きています。
発達障害の親子ともたくさん知り合っていて、HSも含めいろんなところにかかわりを
持ちつつ、どこかに定まらずに自分なりにやっている感じです。
もし、garaさんさえよければ、またコメントもいただけたらうれしいし、ブログのアドレスも、
ここからつながってgaraさんのところで何かを見つけられる人がいるかもしれないし、残して
くださったらうれしいです。
Commented by ゆっこ at 2008-05-06 22:32 x
克服って本当、なんなんでしょうか。個人的には克服って本人が自分の魂や精神的、感情的、肉体的問題がある意味クリアになったと感じることができる状態のような気がしていますが…。それまで挑戦してできなかったことができるようになったのもそうだろうし、はたまたできないならできないそのありのままの現実を受け入れられるようになるのも内的活動としての克服だと思っています。外側に見える形は全然違うけれど、心の目でみたらともに克服じゃないのかと感じています。

あと時間がそこに加わると克服したつもりがそうでなかったり、次のレベルのチャレンジがきたり、もう一度やり直しだったりして…。

克服についてそんなに簡単に人が決められるものではないでしょうね。

久しぶりに書き込みました。
きょうはありがとう。

Commented by ようこ at 2008-05-07 01:48 x
こんばんは。
私もこの記事引っ掛かりました。引きこもりの間、この方は豊かな時間を育んだかもしれないのに…。
不登校を克服して学校に行けるようになどと良く使われ、多くの人に支持されるようですが不登校は克服するものじゃない!といつも思います。学校に行けば解決ってものでもないですしね。

同じように感じてくれる人がいて嬉しいです(^^)
Commented by higurashizoshi at 2008-05-07 09:30
ゆっこさん
内的な克服についての洞察、そのとおりだなあと思います。読ませてもらって
私もひとつ考えを進めることができました。
言葉というのはあるラベルとして使われるようになると、ほんとうの意味が
どんどん失われていってしまうんでしょうね。

今は私、立ち止まってこだわってゆっくり考える時期のようです。
そうでなければ今回の《克服》も、あっ気になるな、と思っても立ち止まって
あれこれ考えることをしなかったかも。
引きこもりを《克服》対象としか見ない人には、こういうことなかなかわかって
もらえないでしょうけどね…。

またいつでもコメント、待ってますね。
Commented by higurashizoshi at 2008-05-07 09:58
ようこさん
この記事読んで、ようこさんもそんなふうに感じてたんですね。
そうなんです、《克服》という表現だけでなく、この記事には「いかに外に出たか」
という視点しかないんですよね。
引きこもることの中での彼女の成長、思い、そういうものに対する敬意がない。

不登校についても、似たような安易なとらえ方がほんと多くて、「今どき《不登校を克服》
なんてまだ言うか?」と思うのですが、世間一般の意識はまだまだ、なんですよねぇ。

以前、不登校関係の取材を受けたことがあって、そのときの記者さんが
「学校に戻れたとか、別の何かに取り組むようになったとか、なにかわかりやすい
成果を読者は求めているので…」
と言われて、コケました。けっこうやり合ったんですけど、なかなかわかっては
もらえなかったです。
でもめげずに、一歩一歩、ですよね。

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