ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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パンズ・ラビリンス

d0153627_15155956.jpg1944年、スペイン内戦のさなか、少女オフィーリアは母の再婚相手のもとへ、大好きな本の束を抱えて引っ越してくる。そこは、臨月の母と少女が住むにはふさわしくない山の中の陣地。フランコ将軍の配下にある小隊が、そこを根城に、山にひそむ抵抗勢力との戦いのさなかにある。
小隊を率いるビダル大尉が母の再婚相手であり、彼はお腹の子を男と決め込んで、「息子は父親のもとで誕生すべき」という勝手な論理のために無理やり二人を呼び寄せたのだ。
オフィーリアにとって、すべてに不安な日々が始まる。外は銃声が行きかい、母は長旅がたたって体調を崩していく。義父のビダル大尉はオフィーリアをただ邪険に扱い、その徹底した暴力性と冷酷さをちらつかせる。
けれど、オフィーリアにはもうひとつの世界があった。この地に到着したとき、不思議な虫に導かれてのぞき見た地下の迷宮。そこにはパンと名乗る異形の男がいて、オフィーリアに向かい「あなたはこの国のプリンセスに違いない」と告げたのだ。
こうして、オフィーリアは現実の世界と迷宮というふたつの世界を行き来することになる。残酷で不安に満ちた現実の世界から逃れたいオフィーリアだが、迷宮の世界もまた、彼女に期待とともに恐怖や不安を味わわせる。プリンセスであることを証明するためにパンから3つの課題を与えられ、それをこなすために次々と異様なものたちと対面し、ときには追われ、失敗するとパンの怒りを買う。オフィーリアにとって迷宮は救いであると同時に、現実世界で自分を抑圧するものの反映でもあるのだ。

ハリウッド映画とは異質のダーク・ファンタジーとして世界中で数々の賞に輝き、特にその視覚技術、美術において高い評価を得た作品である。監督・脚本・撮影をこなしたギレルモ・デル・トロは宮崎駿作品の心酔者とのことで、無垢な少女を軸とした物語の骨格や、異形のクリーチャーが次々と繰り出される(しかも粘るような質感をもって)ところなど、確かに宮崎アニメを思わせるところがある。
ただし、この映画の世界は宮崎アニメよりはるかに陰惨で、残酷である。そして登場人物は類型的で、あやつり人形のようだ。たとえばビダル大尉は徹底したサディストで、ひとかけらの情もなく、残虐行為をこれでもかと繰り返す。オフィーリアの母は徹底的に受身で無力な妊婦、主人公オフィーリアでさえ個性をほとんど持たない。オフィーリアはどこまでも受難者であり、宮崎アニメの少女たちのように世界を救ったりはしない。わずかに一人、大尉の召使でありながら反対勢力のゲリラをひそかに支援するメルセデスという女性が、一応の陰影をもった人物として登場するくらいだ。

迷宮の映像はグロテスクかつ美しく、誰をも引きつける魅力に満ちている。この作品が紹介されるときはその部分が強調されているので、そちらが主眼と思っていたら肩透かしをくらった。現実世界のほうがずっと多く登場するし、あまりにも容赦のない残酷な事態が起こり続けて息が詰まりそうになる。「少女の成長を描くダーク・ファンタジー」という言葉を信じて観ると裏切られる。オフィーリアはけんめいに苦難に耐えるが、変化はしない。彼女をめぐる状況は、現実世界でも迷宮でも、あまりにも救いがない。どちらの世界でも彼女にのしかかるのは男性的な暴力性で、オフィーリアの無垢さとかよわさが強調される。

観終わって、この監督の美意識の高さ、その映像の凝りようには感心しつつ、ではいったいこの映画は何だったのだろう? という疑問は強く感じた。オフィーリアの母が「この世界は残酷なの」と語るシーンがあるが、私はこの映画を観ながら、まるでアリ地獄か食虫植物のるつぼの中に落ちた小動物が、ゆっくりと食まれていくのを見せられているように感じた。圧倒的な暴力に満ちた世界の中で、翻弄されるしかないオフィーリアの澄んだ黒い瞳。それがいつまでも心から離れず、やりきれない思いが残った。
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by higurashizoshi | 2008-09-08 15:10 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(2)
Commented by ごーや at 2008-09-09 11:05 x
こんにちは~ 
去年だったと思いますが、ものすごく久しぶりに 一人で映画を見たのが この映画でした。  映画館には 一人で来てる女性客が チラホラって感じでした。
見終わって気分は どんよりで 悲しすぎる終わり方に 救いも無くて はぁ~って溜め息でした。  だけど それから 3-4日たつと そんな気持ちが薄れてきて 不思議でした。(単に忘れただけ?(笑)
Commented by higurashizoshi at 2008-09-09 18:16
ごーやさん、映画館で観たんですね~。
なんだかね、宣伝のイメージと違って、つらい映画でしたよね。
数日で気分が薄れたのは、人物があんまりリアリティないからかな?
とか思ったりします。
残酷な描写(こっちはリアリティあり)が多かったので、うっかりミミと
いっしょに観てしまって後悔しました。だいぶショックだったようです。。

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