ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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ドクター・アーハー

ちかごろ身辺雑記が多いのだけど、今回は健康診断の話。
最後に全身的な健診を受けたのは、たぶん15年くらい前、当時働いていた会社の社員健診を受けたときだったと思う。それからいろいろなことがあり、自分の健康状態にかまっちゃいられない年月が過ぎてきた。
いや、それは少し言いわけかもしれない。強制されない限り、私は自分の体を調べたりしないタチなのだ。ケガは数知れずだけど大病をわずらったことがないから、大丈夫だろうと高をくくってるところもある。それにこの十数年、家族のためにさんざん各種の病院に行ってきたから、自分のためにまで行きたいとは思わない。近づきたくない。それが本音だった。

さて、今回ひょんなことからひさびさに健診に行くことになった。ひとつにはタタが「おかあさん長生きしてね。すぐ死んじゃわないように調べてもらって。」とうれしいのか悲しいのかわからないことを最近何度も言ってきたからだ。
そして市からのお知らせを見ると、予約すればうちのすぐ近くの総合病院で健康診断を受けられるとわかった。
ここはひとつ人生の区切りとして(?)受けてみることにするか。そう思ったのだった。

受けたのは身長・体重・血圧など基本的な測定と血液検査、あとは肺のレントゲンと問診という簡単なものだった。それにしても身長・体重だって測るのはいつからぶり? というくらい自分の体に無関心な私。そして驚いたことに、身長が伸びていた! 最後に測った記憶より1センチ以上も。限りなく成長を続ける私…体重も伸びていたことはいうまでもなく…まあでも、一年以上もほとんど家の中だけで生活してたんだから少しくらい増えても当然、と。

採血の前に問診があった。
名前を呼ばれて行くと50過ぎくらいのドクターが椅子を勧めてくれる。
「あ、どうぞ、どうぞ。アーハー」
アーハー?
「えっとえっと、身長これですか。体重ね、あと3キロくらい減らした方がいいですかな、アーハーハー」
どうもドクターは「アーハー」というくせがあるらしかった。
「何かこれまで病気されたことは、アーハー、ありますかね」
(アーハー、病気といえば、)と私は頭の中で言った。「特にないですけど…虫垂炎ぐらいですねえ」
「アーハー虫垂炎ね」
ドクターは問診票に小さい字で「虫」と書いた。
ところがそこで手が止まり、なぜか「虫」の字の横をドクターはぐじゅぐじゅとペンで塗りつぶしている。ん? ドクターは物思いにふけっているのだろうか。なぜか小さく緊張する私。
それからドクターの手がすばやく動き、くちゅくちゅっ、と何か書いて、問診票は次の瞬間に裏返されてしまった。
今っ! なんて書いたの、ドクター…
「運動はあまりされてないんですかね、アーハー、毎日少しでも外を歩くとか、アハハー」
アハハー、外に行けなかったんです、世の中そういう人もいるんですよ。そう思いながら、問診票を見たくてたまらない私。
でも結局、それは裏返されたままだった。「ま、ま、特に問題はないようですから、アーハーハー」と問診終了。ああ知りたい。「虫」の次にはなんて書いてあるんだ?

採血の部屋に行くと、歌のおねえさんみたいな雰囲気の看護師さんが「はあい、どうぞ」と迎えてくれた。おねえさん、私の左腕の袖を上げて、針の入りそうな血管を探す。
私は皮膚が薄いのか、血管はすごくよく見えるのだけど、昔から注射針が入りにくい。なんとなーくいやな予感はした。
「はい、じゃここにしますねえ」とおねえさんは朗らかに宣言して、ぷすりと針を刺した。
「あら」注射器に手ごたえがないらしい。「すみませんねえ」と言っておねえさんはそのまま、ぐり、ぐりと針の先を動かして血管をつかまえようとする。「よし」自信にみちた声でおねえさんは注射器を引っ張るが、また空振り。
「うーん」おだやかな顔の眉間にしわを寄せて、さらにぐり、ぐり、ぐりと針を差込み、動かし…、押し進め、動かし…
「ごめんなさいねえ」とおねえさんはにっこり微笑んだ。「右腕にしましょうね」
―というわけで、結局左腕の内側に穴が二つ、右腕に二つという状態で採血室を出た私。
子どものころだったら泣きそうだっただろうけど、大して痛いとも思わなかったのは鈍感になったから? いや、人生において、こんな痛みなんて実に実にちっぽけだってわかったからだ。

そのあと、またまたいつからぶりかわからない肺のレントゲンを撮り、コースは終わった。
廊下のソファで会計を待ちながらぼんやりしていたら、さっきの問診票のことがまた浮かんできた。
そういえばあのドクターの左手薬指には銀の指輪がはまっていたなぁと思い出す。
仕事を終えたドクターは家に帰って玄関をあける。家族が「おかえり」と出迎える。
鼻をひくひくっとさせてドクターは言う、
「今夜はカレーかな、アーハー」
…いや、そんなはずはないな。決まりきった問診を繰り返すという退屈きわまりないルーティンワークの中で、彼の「アーハー」はリズムを刻む《鎧》なんだ、たぶん。不特定多数を相手にする仕事の現場で、自分を守ってくれるもの。
それにしても、それにしても、「虫」のあとにドクターは何て書いたんだっ!?

健診の結果はじきにわかるのかと思ったら、通知が届くまで2ヵ月近くかかるそうだ。
受け取るころには健診を受けたことすら忘れてるだろうか、5月の私は何をしてるだろう。
そのころになって要精密検査なんていわれても面食らうだろうな。周囲は怒涛の混乱でも自分には重大事は起きないという、私の人生のルールが変わるなんてことはあるのだろうか。
ま、受けるもんは受けたんだし、あとは風にまかせるとしよう、アーハー。
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by higurashizoshi | 2009-03-07 12:52 | 雑感 | Comments(7)
Commented by ようこ at 2009-03-09 16:27 x
higurashizoshiさん、この記事とっても楽しく読ませてもらいました(*^_^*)

私の推理によれば、このドクター虫垂炎の“垂”がきっと書けなかったのではないかと思います。
昨今、医療現場は電子カルテでパソコンで文字は変換してくれますから・・・。どんどん頭は退化していきます。
きっと、虫垂炎と書こうとして書けなかったので裏返してしまったのでは?

人の口癖って面白いですよね。
以前ある講義を受けた時の講師の口癖が殆どの言葉の終わりに「~ですね」をつけていました。「・・・だからですね」「・・・となっているからですね」
気にし始めると、気になってしまって。
家で子ども達に「ですね先生なんだ・・」と話してました。

もちろん、自分のお金を払って受けている講義なので「~ですね」を何回言うか・・なんて数えず、講義にの中身に集中しましたが・・・。

検診、お疲れ様でした。
私は仕事をしているので毎年受けます。昨年は胃カメラもやりましたよ。
この年になると悪い所の一つや二つや三つ・・はあるものです。そんな身体とどう付き合っていくかですね。
Commented by ゆっこ at 2009-03-09 19:04 x
こんばんわ、久しぶりのコメントです。

なんとも複雑な心境で読ませてもらいました(笑)。
「アーハー」と書かれていると、どうしても英語の”Ah,ha"が
イメージされるのですが…。

映画『パッチ・アダムス』のドクターアダムスとはきっとタイプが違う先生なのですね…。
Commented by ホッキョクグマ at 2009-03-10 21:09 x
 まさか「虫水炎」と書いたわけでもないでしょうが。
 1年半前に今の街に引っ越してきてからのかかりつけの病院は、地元の小学校の顧問医でもあるおじいさん先生の昔ながらの内科・小児科医院。
 家族性の「高脂血症」というやつで、毎月薬を受け取りに行くのですが、耳の遠い先生は問診のたびに見事に聞き間違えをしてくれます。先生の奥さんらしいベテラン看護師さんがそのたびに通訳(?)をしてくださり、薬の名前をしばしば間違う先生に代わって投薬指示も事実上その看護師さんがしてくれていてるようなのですが、なぜか不安を感じません。
 待合室では2世代、へたしたら3世代くらいこの病院にかよっているのだろうと思われる老若の親子連れが見られるからかもしれません。
 大きな病院にありがちなイライラとは無縁の、ノンビリとした時間が流れる待合室の雰囲気が、子供の頃は病弱で病院がよいが続いた自分にはたまらなくいとおしく感じられるのです。
Commented by ゆっこ at 2009-03-11 00:19 x
まいど、ゆっこです。
あの〜、一応ドクターの名誉を守るために真実はどうかわかりませんが、想像される範囲で少し書き添えておくことにします。
総合病院の健診のドクターは曜日によって変わることもあるので、毎日のお決まりになっているかはまずひとつめの??です。
ふたつめですが…。ドクターの年齢、専門の診療科目がわからないうえでのコメントなのですが、電子カルテ導入以前では「虫垂炎」とカルテに記載するより「Appe」と記載するドクターのほうが多かった気がします。手書きの時代はドイツ語や英語がカルテには多いでした。今は逆に患者さんにわかる言葉を使わないといけないので、微妙な年齢のドクターは頭の切り替えが大変かも…。さてドクターはなんと書いたのでしょうか。
Commented by higurashizoshi at 2009-03-11 08:48
ようこさん
なるほど、今はカルテも入力する時代なんですね。
そういえば、いまどきの診察室の風景はドクターがパソコンに向き合ってるという
形ですもんね。
私もふだんパソコンばかりで日記くらいしか文字を書かなくなっているので、
びっくりするほど漢字を忘れてます。。。
いえ、あのドクターもそうだったかどうか、さだかではありませんが。。。

口ぐせというのも、本人はまったく気づいてないことが多いですよね。
「ですね先生」も自分ではきっと自覚はないんでしょうね。

胃カメラも、未経験な私です。でもこれからはちょっと自分の体にも気をつけないと
いけないなあと思ってます。
Commented by higurashizoshi at 2009-03-11 08:58
ゆっこさん
二度もコメントありがとう~
『パッチアダムス』は観てないのですが、英語の「アーハー」とは違って
なんというか…あきらめて笑ってるみたいな感じなんですよ。
「なんもかも仕方ないですわな、アーハーハー」みたいな。

そうか、健診のドクターは交代制かもしれないんですね。
それにカルテの記入の仕方も、日本語で書かないことが多かったのね。
そういえば手書きの時代、「何書いてるのかな」とそーっと覗き込んでも
横文字だらけでぜんぜんわからなかったなあ、なるほど…
プロにいろいろ教えてもらいました。

それにしてもあのドクター、今頃くしゃみして悪寒を感じているかも?
こんなとこで勝手に料理されているとはご存じなく。。。
Commented by higurashizoshi at 2009-03-11 09:14
ホッキョクグマさん
ああ~なんだか目に浮かぶような懐かしい感じの医院ですね。
問診のたびに聞きちがう老先生、さりげなくサポートするベテラン看護師さん。
小さな町の医院ならではの光景、ドラマになりそうな。

大きな病院にはずいぶん家族のことでお世話になってきたので、もちろん感謝して
るのですが、大病院はどうしても待合室で待つだけでもストレスフルですよね。。。
行くだけでほっこりするような病院が見つかって、よかったですね。

それにしても「高脂血症」というのは、ビールやこってりおつまみはいいんですかい?
気をつけてくださいね~

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