ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

インフル騒ぎのなかで

新型インフルエンザ騒ぎにもちょっとうんざり気味になってきた。一週間たたないうちの感染の広がりはかなりのものがあり、そしてわが家の生活といえば…
今日の朝食時の会話。
私「それにしても、うちの生活はいつもとほとんど変わらんなあ」
タタ「そだね。のんびりしてるね。本読んで、映画みて、ゆっくりして」
休校でストレスがたまった子どもを持て余す親の悲鳴が新聞に載ったりしているのを見ると、なるほど一般的にはそうなのかあ…と思う。一年も家にこもった親子(私たちです)の話を聞いたら腰を抜かされそうだ。でも、そのおかげでわが家は今の事態にも大した苦労なく、勝手知ったるおこもり生活を再開中。

さて、今日は読書の日と決めて、朝食後から午後までかかって一冊の本を読んだ。

d0153627_21235879.jpg
『ぼくには数字が風景に見える』
(ダニエル・タメット著、古屋美登里訳、講談社)


映画『レインマン』で有名になった《サヴァン症候群》。なんらかの原因で右脳の働きが強まり、記憶・計算・芸術などで超人的な能力をもつ人たちだ。
そんなサヴァンの一人であり、アスペルガー症候群でもある著者が、幼いときからの自分の体験、何よりも愛する数字と数学について、また人間関係について、彼にとっての世界について、素直に深く洞察した本である。

眠れない赤ん坊だったこと、幼いころの衝動的な行動、同年代の子とうまくかかわれなかったことなど、幼年期の思い出の部分は他の自閉症スペクトラムの人たちの子ども時代の回想とほとんど重なる。そしてタタの幼いころにも。
そして学校ではおきまりのいじめ、からかいの標的にされる(イギリスの学校内のいじめも日本に似て凄惨なものらしい)。でも救いなのは、両親が彼を暖かく受けいれ続けたこと。家庭が、彼にとってほっとできる場所であり続けたことだ。

数字が彼の最初の友だちだった。彼にとって数字は生きている。色があり意思がある。素数の美しさ、規則正しく並ぶ数の列は彼には音楽のように、あざやかな風景のように感じられる。問題を前にすると、何の苦もなく瞬時に答は彼の中にやってくる。
この、数についての彼の記述はとても美しくて映像的で、数学にまるで弱い私もうっとりしてしまうほどだ。
カレンダー計算能力といわれる、サヴァンの人によく見られるという力は、知らない人が聞けばまさにマジック。本書の中で著者が『レインマン』のモデルになったキム・ピークに会いに行く場面があるのだが、初対面の二人の会話はこうだ。

キムはぼくの両腕をすばやくつかんでぼくのすぐ前に立った。「誕生日はいつ?」とフランに訊かれたので、ぼくは「1979年1月31日」と答えた。「65歳になる日は日曜日だね」とキムが答えた。ぼくはうなずいて、キムに誕生日を訊いた。「1951年11月11日」とキムは答えた。ぼくはにっこりして「その日は日曜日だ!」と言った。キムの表情が輝き、ぼくにはふたりの心が通い合ったのがわかった。

このとき著者は生まれて初めて、自分と同じサヴァン症候群の人と会ったのだった。その喜びをつづって、「ぼくのこれまでの人生でいちばん幸せな瞬間だった」と書いている。
私はしみじみと、人がどんなにつながりを、理解しあえるつながりを求めているかということ、そして少数派である特徴をもつ人にとって、一般社会はそれを求めるのにどんなにむずかしい場所であるかということを痛いほど感じた。

著者がゆるやかに親の元から離れ、自分の人生を新しく作っていく過程は、とても感動的だ。外国に仕事を見つけて旅立ち、そこで多くの経験をする。自分がゲイであると自覚していた彼は、帰国後にめぐりあったパートナーと暮らし始める。定型の人たちにはない実にたくさんのハードルと苦悩をひとつひとつ越えながら。
学校時代は自分を、この世界で誰ともつながれないよそ者と感じ、深い孤独に耐えていた著者が、大人になって自分でも信じられないほど行動的になり、人間関係を広げていく。そうできたのは根っこに家族の受容があったからだろうし、そして彼自身の勇気と好奇心が進んでいく力になったのだと思う。

円周率の暗唱でヨーロッパ記録を作ったり、テレビ番組に出演したりと、著者はいろいろと注目を浴びるようになる。数学と同時に語学の天才でもある彼は、信じられない速さでひとつの国の言語をマスターしてしまう。その一方で、予定にない行動には緊張とパニックを起こすし、騒音には聴覚が混乱するし、生きづらさにはいつも悩まされる。
それだけに、彼が今は在宅で起業し、パートナーと信頼関係でむすばれ、ふたりで暮らす静かな家で規則正しく生活することで深いやすらぎを得ているという記述は、読んでいて私までやすらいだ気持ちにさせてくれる。

この本を読み終えて一番に感じたのは、明るく、あたたかな気分だった。障害といわれるものを持つ人が書いた本で、やり場のないつらさでもなく、逆に元気の押しつけでもなく、こんな透明なあたたかい気持ちが残ることはめずらしい。裏表紙の著者の笑顔をしばらくじっと眺めていた。
今日の読書は、インフル騒ぎのどんより感を、すこし振り払ってくれたようだ。
[PR]
by higurashizoshi | 2009-05-22 21:32 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(5)
Commented by ようこ at 2009-05-28 15:12 x
豚インフルエンザ、やっと終息してきましたね。

ところで、前回の私のコメントにマスクの予防効果??について書かれてましたがマスクの予防効果はあまり高くないようです。

何%・・とは言えませんが、ウイルスはマスクの脇などから入り込むそうなので。
医療関係者などが使用するN95というマスクなら別でしょうがこのマスクを日常生活でするのはちょっと勇気がいります。

ただ、マスクは自分の呼気で喉を潤せるし、していないよりは多少いいかな?という気はします。
それよりも感染している人がマスクをする方が大切です。くしゃみや咳によるウイルスの飛散はすごいので。
皆が風邪気味の時は人の多い所へ出歩かない、マスクをするという良識を持てば感染拡大の防止にはなると思います。

ただ、こういう私が風邪をひきながら仕事しているので・・・。マスクはしていますが、日常生活は儘なりません(^_^;)

Commented by ようこ at 2009-05-28 15:17 x
続けて、失礼します<m(__)m>

コメントの文字数が多すぎて、送信できなかったので・・・。
コメントNo.2です。

「レインマン」はWOWOWで放送したものをビデオに録り、観ました。
モデルとなった人がいたんですね。

ダスティン・ホフマンの演技力ってすごいなあ~!と思って観てました。

higurashizoshiさんが紹介してくれた本も読みたくなりました。
読後感があたたかい気持ちというのに惹かれます。

人が、理解しあえる繋がりを求めているという言葉、本当にその通りだと思います。
人は理解しあえる繋がりを感じた時、あたたかく、エネルギーをもらった気がするんでしょうね。
サロンなどで、シューレの人とと会った後あたたかな気持ちになれる所以でしょう(*^_^*)

higurashizoshiさんにも是非、お会いしたいです。
Commented by higurashizoshi at 2009-05-28 18:42
ようこさん
そうですね、マスクは感染している人はうつさないため必需品だけど、
予防効果はあまりない…ということ、少しずつ広く言われはじめてる
ようですね。なるほど、マスクの脇から入りこむのねー。
でもマスクパニックはまだ続いてるみたいですね。
どちらかというと、お上&横並びにしたがうという日本人気質が、この
マスクパニックを作ってるようにも思えます。

ようこさん、風邪ひきながらお仕事…うう、大事にしてくださいねー!

『レインマン』私まだ観てないんですよ。なんとなく素通りしてたんですが、
これを機に観てみようと思ってます。
理解しあえるつながり、意外にむずかしいものですよね。
それだけにとても貴重で大切なものです。
私もいつかようこさんに会いたいです!
Commented by hinata at 2009-05-29 01:06 x
インフル騒ぎも落ち着いてきたようで良かったですね。
この先どうなる事かと心配しましたが…

それにしても、一日読書の日、いいですね、そう思いつつなかなか出来ないでいます。

この本私も読みました。
私も読み終わった後、暖かい気持ちになりました。
息子がもしかしたらアスペルガーかもと言われ、どうしたらいいのか?と思っていたころに読んだと思うのですが、
なんだか大丈夫だなと思えたような…。

レインマン、私もまだ見ていないんです。
気にはなっているのですが、キム・ピークさんもTVで見たので、どんなふうに映画になっているのだろうと、やっぱりちょっと心配になってしまって…



Commented by higurashizoshi at 2009-05-31 08:07
hinataさん
この本はずっと気になっていて、この前ふと図書館で目について借りました。
hinataさんも以前にレビュー書かれてましたよね。

息子くん、アスペルガーかもと言われたことがあるんですね。
タタはアスペルガーと定型発達の間あたり、という感じなんですが、
それがわかってから私もアスペルガーに関する本をいろいろ読みました。
特に当事者の手で書かれたものはすごく具体的で貴重なんだけど、
どうしても親や周囲に否定的に扱われて苦しむ話が多いので、読んでいて
つらくもあるんですよね。
この本はほっと安らぎを与えてくれる点で、すごく印象的でした。

『レインマン』ちょっと心配になってまだ観てないというの、よくわかります。
私も、観てがっかりしたりムズムズしたりするんじゃないかな、という予感が
あって素通りしてたかも。
この前レンタルDVD屋で「よし借りるぞ!」と思って棚を見たら、誰かに
借りられてました…。今度観られたらまた感想書きますね。

フォロー中のブログ

明石であそぼう! たこ焼...

最新のコメント

初めまして。マリンメッセ..
by なみ at 17:22
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 23:49
こんばんは。お久しぶりで..
by Disney 鴨 at 20:03
bikegogoyさん ..
by higurashizoshi at 14:59
いやー、楽しかったです南..
by bikegogoy at 22:38
伝わってきます。なんてい..
by まにまに at 10:40
まにまにさん 読んでく..
by higurashizoshi at 22:45
先輩、すごい旅をしたんだね。
by まにまに at 18:27
おはようございます。 ..
by Disney 鴨 at 10:36
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 01:15

検索

ファン

ブログジャンル

映画
ウィンタースポーツ

画像一覧