ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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2017年 04月 29日 ( 1 )

五島列島 小値賀島・野崎島への旅 3

野崎島で過ごした夜は、何か説明しがたい畏れのようなものをひしひしと感じる時間だった。
数人の人間は確かにいるし、電灯も点くし、部屋で布団にくるまって眠れる。それなのに、今この宿舎以外の島中すべてが真の闇に閉ざされて、激しい海風にさらされ続けている光景が頭を離れない。自分が脆弱でちっぽけな存在に思えて、なんとも心もとない。
うとうとと短く眠ったあと、午前5時に起き出した。もちろん外はまだ真っ暗闇だ。身支度をして、5時半すぎに宿舎を出た。少しずつ空に色が差しはじめている。

教会への急勾配を早足でのぼっていく。息が切れる。胸がはやる。
教会の前までのぼり切る。
明けかけた空を背景にした、旧野首教会。
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海を見おろす。
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みるみるうちに、空は明るくなっていく。
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100年以上、ここでこうして朝日を受けてきた姿。
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太陽がのぼった。
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まっさらな今日の光の中、この完璧な美しさをいつまでも見ていたくなる。
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すっかり日がのぼった。
教会を遠景で見る。

石垣の配置や勾配、木々の配置や枝ぶりまで、まるでしつらえられた舞台装置のように完璧に見える。
偶然と年月が作りだした、荒々しくも美しい作品。それは、ここで信仰を暮らしの中心において生き抜いた人たちがいてこそ生まれたものだ。
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野首海岸に降りてみる。
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きれいだなー。
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宿舎に戻って、昨夜厨房で炊いたごはんで作ったおにぎりで朝食。
米や梅干しはリュックに入れて持参した。
旧分校の校庭から、教会を見ながらいただきます。どんだけこの教会が好きやねん。もうこれは完全に恋ですわ。
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私以外の2人の旅行者は、朝の船で小値賀島へ戻っていかれた。昨夜少しおしゃべりした、ひとり旅の女性との会話を胸にそっとしまう。きっとずっと忘れないだろう。

管理人の前田さんからは、ひとりで(ったってもう私しかいないよ)山奥に入らないこと(行方不明者が出て大騒ぎになったことが何度かあるらしい)、午後3時10分発の船に絶対乗り遅れないように港に行くこと、の2つを言い渡された。
島の南端の舟森集落へは道もけわしく、イノシシに会ったり迷って山に入り込んだりする危険があるとのことであきらめ、まずは教会の裏手の山にのぼって景色を堪能することにした。結局、教会を離れがたい恋心。

教会の横を通るときにつくづく観察すると、瓦屋根と西洋風の屋根下飾りのマッチングがなんとも可愛らしい。
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野首集落のあったきつい勾配は、ていねいに積まれた石垣がそのまま残り、きれいな階段状になってずっとずっと山の上まで続いている。低いところには住居が、高いところには畑があったそうだ。
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住居跡。昨日見た港近くの野崎集落と違って、ここはすべて家が崩壊しその残骸が散っている。
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かつて、家族の服をたくさん縫い上げただろうミシン。
島を離れるとき、持っては出られなかったのだろう。
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晴れ渡った空、昨夜とはちがう心地よい風が吹きすぎる。
かなり上までのぼり切り、石垣に腰をおろして海を見下ろす。
心をからっぽにする。

さまざまな鳥の声。
かすかにのぼってくる波の音。
木々の葉ずれのささやき。
ほかには何も、聞こえない。まったく、何も。
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永遠の時間。自分を感じない自由。
これまで味わったことのない感覚だった。

ずいぶん長い時間がたった。
と、突然人間が現れた! 管理人さんではない見知らぬ人が。
ここからはずっとふもとの方にある教会へと、豆つぶほどに見えるその男の人はなにごとか大声で叫びながら走るように近づいていく。
人?どこから来たの?どうして?と思ったが、考えたら何のことはない、朝の船に乗ってきた人がいたのだ。でもなんで叫んで走ってる?
教会までの石垣をのぼりつめたその人は、どうやら「来たぞー!来たぞー!」と叫んでいるらしい。そのまま教会に飛びこんでいった。
なんだろう? ただただびっくりして山の上から見つめる私。

しばらくするとその人は出てきて、今度はいきなり教会前に立つ鐘を全力で打ち鳴らし始めた。
島じゅうに響き渡る鐘の音。
泣くように叫ぶ声が遠く聞きとれた。
「じいちゃーん! ばあちゃーん!」
そのとき諒解した。
この男性はこの集落の住民の子孫なのだと。
どこからか海を渡り、祖父母の記憶を訪ねてきたのだと。
私はそっと石垣から降りた。


名残りおしく旧野首教会に別れを告げて、私は通称サバンナと呼ばれている島の東端をめざした。
港を過ぎて野崎集落の崩落寸前の家々の間を通り過ぎる。家々の間の道もすでに崩れて、よじのぼるように行く。ずっと歩き続けると、廃墟の奥に一面の大平原が見えてきた。
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鮮やかな赤土と、その上をおおう新緑のコントラストが美しい。
木の枝はみんな、強い海風の形にかしいでいる。
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平原のあちこちには、無数の鹿の群。
少しでも近づくと、警戒して逃げてしまう。
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そんな中にも、好奇心の強いのがいるもの。
すみません、おじゃましております。
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ここで腰をおろし、大平原と海をながめながら昼のおにぎりを食べた。
なんとも気持ちのいい風景の中に、まったくのひとりきり。それなのに、なぜか落ち着かなくて、背中がぞわぞわする。

この感情はなんだ? と自問してみると、それは《怖さ》なのだった。
何が怖いのか? 怖いというか、不安感。危機感。さっき山にいたときは、背後を守られていた感じがあって、あんなに心地よかったのに。
それに比べて、この平原は見渡すかぎり360度、何も守ってくれるものがない。
何が襲ってくるわけでもないことはわかっているのに(あちこちに掘り返した跡があるイノシシには会うかもしれないけど)、なぜか不安でたまらなくなってきた。
自分がひどくちっぽけで、丸はだかにされた非力な生きものだと痛切に感じる。
あかん。怖いぞ、私。

このままではいかん、動かなければ、と立ち上がり、さらに平原の奥へ奥へと歩く。
何がこの先にあるのか見てやろうと思う。
ずいぶん歩くと、どうやらまた島の端に到達するらしい。波の音がする。
本能的に再び、絶景の予感。

いきなり目の前が開け、まるで地球がカッと大きな口をあけたような光景が目に飛び込んできた。わあああー!
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写真ではよくわからないけれど、赤い地層がむきだしになってえぐれたような巨大な穴が、海を呑みこむようにそそり立っている。
しかも、このまま少し前にいけば崖をザーッと海まで転がり落ちていきそうな足元のあやうさ。
またまた私は心臓がバクバクして、「怖いー!」と叫んでしまった。
四方八方、誰も私の叫びを聞く人などいないのに。

ひええ、だめだ。私ってこんな弱虫だったのか。
足に力が入らないまま、またもふらふらと歩き回る。
怖いぞ怖いぞ、誰もいないのって怖い。
(あとで調べると、あの《地球の口》みたいなやつは、野崎島の海底火山の噴火口の跡だった)
ふたたび平原をあちこち歩いて、方向があやしかったものの、やがて野崎集落に戻ることができた。しかしここも廃墟なのである。なんだか身体がみしみしする。

野崎集落で最後の住人だった神主さんの家が、最近修復されたばかりで公開されていた。
廃墟の中に突然一軒だけ、真新しい家があるのがシュール。これも、世界遺産登録を見越してのことらしい。
そこの庭にも、ふと見ると鹿がいた。ゆったりと木々の新芽を食んでいる。
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とうとう港に到達。
人がいるってすごい。軽トラに乗って管理人の前田さんがノンビリとやって来るのが見えたときは、前田さんが天使に見えた。
天使がイノシシの檻にエサをしかけるところを見せてもらう。
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ここに人が二度と来ないのなら、イノシシも狩られることなどないのに、と思うと複雑だ。
無人の島になったがゆえに、私のようにここにやってくる人間がいるという矛盾。

私のほかに港で船を待つ人、それが午前中に教会で鐘を鳴らしていた男性だと気づいた。
聞けばやはり、6歳までこの島に、しかも教会のすぐ裏の家に住んでおられたそうだ。
20年ぶりにここを訪れ、荒れ果てたキリシタン墓地の草刈りをし、墓を調べて先祖のこともいろいろわかったとのことだった。そして旧野首教会を建てた信者の直接の末裔は、もうたぶん自分だけではないかと言われていた。

町営船「はまゆう」がやってきた。
とうとう、野崎島とお別れだ。
たった25時間ほどいただけなのに、ものすごく長い時間をここで過ごしたような気がする。
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ここから小値賀島の港までの写真が、なぜかまったくない。
たぶん私は、疲れ切ってぼーっとしてたんだと思う。
そしてただただ、去りゆく島を見ていた。

たった25時間。でもその間にここで体験したこと、自分の奥深くに感じたことを、きっと私は一生忘れないだろう。

このあと、小値賀島ではまったく別の時間が流れる中、また新たな体験があった。
次回はそのお話。

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by higurashizoshi | 2017-04-29 23:54 | 旅の記録 | Comments(3)

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