ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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スピッツ30thツアー大阪、2日目終了

遅い報告になってしまいましたが、スピッツ30thツアー大阪城ホール2日目。

台風も去り、前日の緊迫感から解放された城ホール前。
ブースの中には、30周年記念発売のオリジナルレコードプレーヤーも。これほんとにレアで可愛いです。
何も考えなかったら即買うけど…むむむ。
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これがみんなスピッツファンだというのがうれしくてこわい。
実に実に年齢層の幅が広いんですよね。
可愛らしい女子高校生グループ、大学生メガネ男子2人連れ、若者~熟年カップル、小学生とパパママ、スーツ姿のおじさま、全身ツアー歴戦グッズのマダムたち、などなど。

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さてライブの内容はというと、セトリは前日と3曲だけ変更されてました。
2日目にして初めてライブで聴く曲があったので(しかも私自身とても思い入れのある曲)うれしかったのと、1日目よりいろんな意味でリラックスしたライブになっていて、うまみが増したな~と。

どの曲もどの曲もそれぞれに感動があざやかで、ライブ途中は胸にぐっときて涙を流し、最後の方はこの幸せな時間が終わることが悲しくて泣いてた私。まさにスピッツにまみれた2日間でした。

放心状態の終演後城ホール前。
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お金と時間と幸運さえ許せば、このあと全国をどこまでも追いかけていきたい…
でもこれで私の今回のツアーはおしまい。
ツアー中のスピッツのメンバーとスタッフさんの健康と、全国で待ちわびているたくさんのスピファンの幸せな時間を祈りつつ。

2日目セトリです。宝箱のようなぎっしりセトリ!
見たくない方はこの下スルーで。





01.醒めない
02.8823
03.涙がキラリ☆
04.ヒバリのこころ
05.ヘビーメロウ
06.冷たい頬
07.君が思い出になる前に
08.チェリー
09.さらさら
10.惑星のかけら
11.メモリーズ・カスタム
12.エスカルゴ
13.ロビンソン
14.猫になりたい
15.楓
16.夜を駆ける
17.日なたの窓に憧れて
18.正夢
19.運命の人
20.恋する凡人
21.けもの道
22.俺のすべて
23.1987→

[アンコール]
24.SJ
25.春の歌





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by higurashizoshi | 2017-07-07 18:57 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

スピッツ30thツアー大阪、1日目終了

現在、スピッツ30thツアー大阪城ホール2日目に向かって東へ移動中。
昨日は心配した台風も何とかなってくれて、電車の遅延もなく、時間通りにライブもおこなわれ…ほっといたしました。昼間の雨風はすごかったけれどもね。

昨日、城ホールの前に梅田・茶屋町のタワレコへ。
予想通りスピッツカフェは朝から整理券が出ていてまったく入れなかったけど、集っているたくさんのスピッツファンの楽しそうな様子を見てるだけで幸せな気持ちになった。

入口正面。
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この奥がスピッツカフェ。
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スピッツの森。
ファンからのメッセージに埋もれる4人の男。
私たちも1枚ずつ書かせてもらいました。
娘のメッセージを見たら「母も私もスピッツ大好きです!小さいときから聴いてきて…」とか書いてある。感慨深い。
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こちらにもファンからのメッセージがいっぱい。
こういうの、スピッツのメンバーは全部読むのかな…?
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城ホール前に着いたのが5時過ぎ。意外にもわりとすんなりグッズ売り場などが入った「城見ホール」に入場できた。
いくつかグッズを買ったりポータブルレコードプレーヤー(可愛い!)の現物を見ることができて満足、満足。
さすがに中はすごい人波だったけど、やっぱりスピッツファンって全体的に穏やかな雰囲気なのよね。殺気立ったりする感じはまったくなし。

さていよいよ城ホールへ。
スタンドのものすごーく後ろだったけど、ほぼ正面席だったので全体が見渡せてよかった。

ライブは…
感想の言葉が簡単に見つからない。
30周年にふさわしい曲選びで、まず聴けないと思っていた曲がたくさん聴けて、それでもまだまだあれもこれも聴きたかったとか、スピッツってほんとに名曲がとめどもつきずあるなって改めて思い…

マサムネくんの声の伸びが素晴らしかった。バンドサウンドには余裕すら感じられた。
楽しい音。走り続ける音。衰えどころか、どこまでも成長していくスピッツ。
なぜかライブ途中から泣けてきて仕方がなかった。

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さてもうすぐ大阪城公園駅。
今日はアンコールで何が聴けるかな。
昨日よりは落ち着いて聴けるかな。

以下、昨日のセトリ。
見たい方だけどうぞ。




01.醒めない
02.8823
03.涙がキラリ☆
04.ヒバリのこころ
05.ヘビーメロウ
06.スカーレット
07.君が思い出になる前に
08.チェリー
09.スターゲイザー
10.惑星のかけら
11.メモリーズ・カスタム
12.エスカルゴ
13.ロビンソン
14.猫になりたい
15.楓
16.夜を駆ける
17.日なたの窓に憧れて
18.正夢
19.運命の人
20.恋する凡人
21.けもの道
22.俺のすべて
23.1987→

[アンコール]
24.SJ
26.君は太陽


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by higurashizoshi | 2017-07-05 15:24 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(2)

明日からスピッツ30thツアー大阪2days

ついに始まってしまった、スピッツの結成30周年記念ツアーライブ。
7月1日静岡が初日で、明日あさっての大阪城ホール2日間がその次のライブになる。
前回「醒めない」ツアーはファンクラブ(スピッツベルゲン)会員だったのに全落ちで涙を飲んだので、今回はネットの方のファンクラブにも入会し、その両方で挑んだ結果、みごと城ホール両日のチケットをゲット! しかし、ファンクラブ枠なのに席は…スタンドだしめっちゃ後ろだったのがまた涙目。いや、それでも2日間続けてライブに行けるだけで幸せじゃないか!と自分に言い聞かせつつ、いよいよ明日ですよ明日。

明日は姉と娘たちというガッチリ家族スクラムで参加、あさってはひとり参加なので、グッズに並ぶのとかファンクラブブースの抽選会とかは、あさって孤独に参加することにした。
もともとグッズ的なものにはそんなに食指が動かないタチなんだけど、今回はやっぱり30周年ということで、手元に置いておきたいな~と思うものをいくつか買おうと思う。
明日は女4人組でまずは梅田茶屋町のタワレコに行ってスピッツカフェを外から見学(絶対明日あさっては行列過ぎて入れないはず)、店内のパネル展とか見て士気を高めてからおもむろに城ホールに向かうという計画。
なんだけど…

来てます来てます台風!
けっこうドンピシャな感じで関西に向かってますやん。
それでなくてもすぐ《きっとうまくいかない》と思ってしまう性格、というか心のクセを持つ私。

電車が遅れるかもしれない…
いや、止まってカンヅメに…
なんとか城ホールにたどり着いてもライブが中止に…

そんなことばかり考えてしまうんですわ。
台風?きっと大丈夫!明日が楽しみ楽しみ~♪
と思える性格だったらどんなにいいことか。
明日から2日間、30周年、と思うだけでも緊張して胃が痛くなりそうなのに、台風~!


ずっとこのところヘビロテしてる、新曲2つ。
もし未聴の方がおられたらぜひ。

とてもスピッツらしい、涼やかひねくれで実は深い「ヘビーメロウ」



結成年をそのままタイトルにし、インディーズ時代の曲を織り込んだ「1987→」
この曲もMVもファンには宝もの。何度見ても胸しめつけられ、ありがとうと繰り返したくなる。



最近、とみにスピッツにあらためて感動し、感謝の思いを捧げている私としては、ものすごく思い入れのある、大切な明日からの2日間。
どうか無事に彼らの音楽をこの身と心に受けることができますように。



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by higurashizoshi | 2017-07-04 02:51 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

ロックロックこんにちは!20th Aniversary Special@大阪城ホール

参院選が終了。昨夜は2時半まで結果を見守ってたので3時間しか寝てません。
寝てなくてぼーっとしてるけど頭も心もギンギンしてるおかしな一日。
ひとこと言いたい。
選挙期間中に主張の大事な部分は隠しちゃイカンよ。
勝って「さあ認められました改憲!」とか、「無所属当選したあとさかのぼって自民公認!」とか、それはズルい。
そして、今回の選挙の肝が、戦後はじめての方向へ日本が大きく舵を切ることだと実感してる人が、足りなすぎた。とても多くの人が努力して昨日を迎えたのだけど。
でも、まだまだこれからが重要。重要なのだ。

そう、今からロックロックの城ホール1日目のレポートを書くんだけれど、満場の客席の中でひそかに私、5時間ずーっと思ってました。
「明日参院選だって知ってる?選挙行こうな!」
って、どのミュージシャンでもいい、誰かがたったひとこと言ってくれないかなって。
そういうの興ざめだよとか、暗黙のルール破りだよとか言う人もいるかもしれないけど、音楽という芸術表現活動が世の中の動きにどれほど左右されることか。思ったことを自由に歌えない、奏でられない時代がまた来るかもしれないのだ。
あの会場を埋めた9,000人にとって、その中にたくさんいた若者にとって、大好きなアーティストのひとことがどれだけの影響を持つかを思うと、大人として誰かがそれに触れてほしかったな。民生くんとか、ちょっと期待したんだけどな。

さて、そもそも行ける予定ではまったくなかったロックロックの20周年超豪華ライブ。
友だちの娘さんが行けなくなり、泣く泣く譲ってくれた貴重なチケットを握りしめ、武者ぶるいしながら大阪城ホールに向かった私でした。スピッツファン歴21年にして初のイベント参加ですよ。これまでスピッツ単体のライブは何度も行ってるけど、今回のツアーチケットはファンクラブ枠なのにハズれまくり落ち込んでいたところにまさかの天恵。M子ちゃんほんとにありがとう~ていうかごめんよ~
RAD好きなタタからも「いいな~いいな~」と言われまくり、もちろんプラチナチケットだろうからたくさんの人の怨念、じゃなかった思いを背負って…思い…背中が重い… 城ホールを前に固まっていく私。要するに超ステキなことを前にするとネガティブ志向になるめんどくさい奴。
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スピッツラテとか。
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グッズとか。
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中に入ると、鶴瓶さんからお花。
なんで?と思ったけど幕間の動画がスピッツ4人×鶴瓶さんの対談が延々続くっていう趣向だったのね、今回。
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フラカンからのお花がスゴイ。
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ライブの中身については、ほっとくと延々とまた長く書きそうなので、当日帰路に車中で書いたメモをほぼ載せます。

きっとヒエラルキー的にOKAMOTOSから、と思ってたら(ファンの方失礼!)、いきなりのRADWINPS!
会場のボルテージが一気にダダ上がり。しかも一曲目「おしゃかしゃま」スタート。
オーラ全開。スケールでかい。めっちゃうまい。疾走感と純情のバランス。これはつかまれて持ってかれるわ。
「今日は、大好きな大好きなスピッツさんの20周年に呼んでいただき…」との洋次郎くんの言葉に萌えつつ、「アレ?20周年はロックロックだけど?スピッツは来年30周年だけど(=そんな若くないよ?)」て思ってた。
あとでマサムネくんもMCで言ってたけど、勘違い…だったみたいね。ははは。
ラストでの新曲「前前前世」初披露まで、洋次郎くんの繊細な弾き語りありマッドに炸裂する楽曲あり、もうあっという間でした。

2番手のOKAMOTOS。
まったく知らないバンドでありすぎたので、行きに検索してたら全員が岡本姓だっていうからびっくり!
これはすごい。偶然?親戚?って興奮したら(なぜそんなことで興奮する)、ああ無情。みんなほんとの名字はちがうけど岡本太郎が好きだから名乗ってるんだって。ラモーンズを標榜してるのかな?
そんな岡本さんたちの演奏は若さと技術力の高さを存分に見せつけてくれました。ただし岡本太郎のアナーキーさは少しも感じなかった。もっと太郎を!

ここまでの、盛りまくり、あおりまくりで上がり切った会場のテンションを一気に下げるおっさんたちの登場。
奥田民生特別企画、アコギブー。
アコギって、「阿漕な」と「アコギ(アコースティックギター)」をかけてるんだね、きっと。
なんで色とりどりのアフロ+鬼のツノのかつらを全員がかぶってるのかわからないね。
手練れのおっさんたちのなんと深い磁力よ。
大いに笑かしておいてノックアウト。
民生くんの生「さすらい」に震え、初yo-kingのソロに、涙するほど感動。手島いさむのソロもよかった。しばらく絶対ヘイ・ジュードがアコギブーのテーマに聞こえる。ああ、魅力的なおっさんってなんて魅力的なんだ!

合間にけっこう延々流される、スピッツ4人と鶴瓶さんとの対話がなんちゅうか、ゆるい。笑福亭鶴瓶ほどの対話の達人相手でも、空白を作りまくれるスピッツ。すべてにおいてこの手垢のつかなさ、業界慣れしない感が貫かれてるのだわ。なんなんでしょうこの人たち。
鶴瓶さんはこの仕事で初めてスピッツに会ったそうだけど、マサムネくんいわく、初めて会う日にスピッツの全アルバム、全曲を聴いてひとつひとつに感想を書いてきたそうだ。脱帽。

スピッツ、この日のセトリ。

1.メモリーズ・カスタム
2.海とピンク
3.涙がキラリ☆
4.甘ったれクリーチャー
5.愛のしるし
6.スピカ
7.みなと
8.ロビンソン
9.女々しくて [カバー/ゴールデンボンバー]
10.渚
11.エスカルゴ
12.8823
13.ヒバリのこころ

アンコール
14.醒めない
15.野生のポルカ


悪魔のように美しい「女々しくて」だった。
マサムネくんはなんでこんなにカバーもすばらしいんだろう。
ついに「スピカ」と「ロビンソン」を生で聴く。「海とピンク」「エスカルゴ」「ヒバリのこころ」と好きな曲だらけ。
「ロビンソン」はこの21年思い起こして夢のように聴く。しかし21年たってこの透明感は奇跡。こんな人いない。
正直、RADやOKAMOTOSのほうが演奏技術という点だけとれば、ずっと高いのだ。でもスピッツには唯一無二のものがある。壊れそうだけど実は強い、鉱石のような輝き。それは醜悪さも哀しみも、やさしさも甘えも包みこむ。
なんというのだろう、この日のスピッツは…なぜか今まで生で聴いた中で、一番身体の中にすうっと沁み込むように入ってきて、私を潤して、涙させて、しかもとても凛々しかった。

なんと豪華、おかずデザート珍味ごはんもの、キラキラするスパークリングと熟成酒、ぜーんぶ一気にいただきました!な5時間。
すぐうしろに座ってた、推定8歳・5歳・3歳のきょうだい(+ママとパパ)が気になって、退屈してないかな?と思ったけど、トリのスピッツのアンコールが終わったあと、「あーおもしろかった。野生のポルカやったー」って推定5歳が言ってたのがたまらん可愛かった。きっと家族みんなでスピッツ聴いてるんだな。でも推定3歳のお気に入りは「ア、コ、ギ、ブー!」だそうでした。ブー、ブー!
あー日本をおおう嫌な雲も、ブー!って追い払えたらいいのに。




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by higurashizoshi | 2016-07-11 17:27 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(4)

サウルの息子

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2015年 ハンガリー
監督・脚本 ネメシュ・ラースロー
撮影 エルデーイ・マーチャーシュ
音楽 メリシュ・ラースロー
出演 ルーリグ・ゲーザ 
モルナール・レヴェンテ 
ユルス・レチン 
トッド・シャルモン 
ジョーテール・シャーンドル

第68回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞
2016年アカデミー賞外国語映画賞・
ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞




感情が削ぎ落されたような表情の、ひとりの男のアップから映画は始まる。そこから一気に、観客は1944年、ナチスドイツにより作られた強制収容所内の《仕事》の現場に叩きこまれる。連行され収容所に到着した老若男女は選別され、裸にされていく。男は、その人々をひとつの室に導く。
彼、サウルはゾンダーコマンドと呼ばれる囚人特別班に属し、同胞のユダヤ人たちをスムーズに殺戮する《仕事》を担う。報酬は、囚人としては恵まれた待遇、そして数カ月の延命。ゾンダーコマンドは虐殺を担った証人として、数カ月の《仕事》を終えると順に殺されていく。すでに4か月を経たサウルたち仲間には、当然のように死が迫っている。希望はない。その中で毎日、ガス室に言葉巧みに導かれる同胞たちが殺される手助けをする。凄惨な死後の後始末をする。もはや感覚は遮断されて、折り重なる死体も、焼かれた灰も、サウルの眼にはただの風景となって焦点を結ばない。
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そう、この映画のカメラはサウルの表情と、彼が自覚的に見るもの以外に焦点を合わせない。ゆえに観客は、凄惨極まりないガス室の内部も看守やSSに銃殺される人々も、断片的にぼんやりとしか見ることができない。このジレンマが強く喚起するものは、観客の内にある想像力。リアルに作り込まれた画面を見せつけられることに慣れた私たちの、いつもは深く埋もれている想像力である。
焦点のぼやけた死体のその姿かたちを、おこなわれているらしい《仕事》のひとつひとつを、眼をこらし私たちは見つめる。そして懸命に想像する。むしろそれゆえに、これまでにあったホロコーストを扱った映画ではまったく経験したことのないなまなましい臨場感に、最後まで圧倒され続けるのだ。

物語は、サウルがいつものようにガス室での《仕事》を終えたとき、ひとりの少年を発見するところから動き出す。能面のようなサウルの表情が一変する。それまでは受動的だったサウルに、そのときから仲間たちをも巻き込むほどのエネルギーの放出が生まれる。
彼は自分の息子を見つけたのだ。無残に目の前で殺された息子を、サウルはユダヤ教のしきたりに従って埋葬しようとする。それが収容所という環境ではどれほど無謀なことかわかっていても、彼は無我夢中で奔走をはじめる。仲間を犠牲にしても、秘密裡に進められている囚人たちの反乱計画を乱しても、もう彼は息子を埋葬することしか考えない。それはほとんど狂気である。
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サウルは自分がすでになかば死んでいると自覚している。せめて息子を正しく葬らねばならない、なぜなら息子とは跡を継ぐものだから。その魂を壊さずに天国へ送らなければ、自分が信じて生きた証も、民族としての誇りも失われてしまう。―それがサウルを突き動かす激しい思いだ。
しかしここでひとつの問いが、私たちの中にきざす。
この少年は、ほんとうにサウルの息子なのだろうか?

仲間のひとりは何度もサウルに言う。
「おまえには息子はいない」と。
対するサウルの答も謎めいている。
「妻との間の子どもではない」。
少年をガス室で見つけた当初、サウルは息子だとすぐには確信が持てずにいた。けれどその後は、彼はどこまでもどこまでも息子の死体を抱き、がむしゃらに埋葬に執着しつづける。
次第に私たちが理解するのは、この死体がサウルの息子であるかどうかという《事実》より、サウルが息子だと信じる、ほとんど強迫的なその願いこそが《真実》なのだということだ。
サウルたちゾンダーコマンドが日々、無感動に処理するおびただしい死体。本来はそのひとりひとりが慈しまれ、あたりまえの日常を生きていた。そのことを忘れ去るとき、ナチスが彼らをそう呼ぶとおり、彼らは機械的に生を断たれた「部品」となる。人間が抹殺され「部品」として処理される、その不条理を、たったひとつの死体を抱いてさまようサウルの行為ははげしくさらけ出す。彼の抱くその死体は「部品」ではない。かけがえのない息子なのだ。サウルにとっての息子であるだけではなく、おそらくすべての選別され抹殺される人々にとっての。
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この映画は30代のハンガリー系ユダヤ人監督、メリシュ・ラースローによって作られた。ラースロー監督は親族をホロコーストで失っており、いつかこの題材を作品化したいと願っていたという。現代において、どんな手法をとれば1944年の収容所内を観客になまなましく感じさせられるかを、監督は実に精緻に考え抜いてこの作品をつくった。これはむしろ時を隔てた若い世代だからこそ成しえたことなのではないかと思う。
説明を排し、物語る誘惑を排し、この作品は私たちを、サウルの過ごす収容所での二日間にひたすら同行させる。そして最後にサウルがたどりついた場所で、彼の見たものを私たちも目撃する。忘れがたいラスト数分の中に、かすかに続く希望を見たくていつまでもいつまでも眼を凝らしつづけるのだ。

映画のなかば、ゾンダーコマンドの仲間がまさに命がけで収容所内の様子を写真に撮るシーンがある。こんな状況下で、どうやってカメラを持ち込み、撮影ができたのか。その写真はどうなったのか。そう思わせられるが、これは事実をもとにしており、実際にアウシュビッツ内でゾンダーコマンドによって撮影された少なくとも4枚の写真が現存し、発表されているという。ほかにも紙に書かれた手記など多くの証拠品が、収容所が解放されたあとで発見されている。ラースロー監督はこれらの貴重な記録をもとに作品化をすすめていったとインタビューで語っている。
見つかれば即銃殺される状況のなかで、もはや自分の生はなかばあきらめていたはずの彼らが、こうした行為を続けた意味。そのこともまた、この映画のラストにつながっているのではないかと思う。
そして決して忘れてはならないのは、当時ナチスドイツと三国同盟で結ばれ、まさにホロコーストをおこなった側に日本人は立っていたということ。無数のサウルの息子たちを、まさに虫けらのように殺しつづけた腕をたどれば、そこには私たちの祖父母がいるのだ。
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by higurashizoshi | 2016-03-30 13:15 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

伊藤俊吾完全ひとりツアー2015「ひとりにしないで」in大阪

2008年に活動休止したバンド、キンモクセイのボーカルであり、多くの曲を作詞作曲してきたイトシュンこと伊藤俊吾のソロライブ、大阪。

キャパ70くらいだろうか、ほんとに小さな、アットホームな会場でのライブ。
期待以上のすばらしい3時間だった。

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レトロな癒し系サウンドといわれていたらしいキンモクセイの楽曲だけれど、伊藤俊吾の作品はその中において、背景に哀しみや虚無、別れや死の影がしばしばつきまとっていたと思う。

私がキンモクセイを聴き出したのは最近なので、すでにかなり過去に作られた楽曲ばかりを聴いていたわけだけど、伊藤俊吾がソロとして本格的な活動を始めたこの数年の曲をきちんと聞いたのは今回のライブが初めてだった。

キンモクセイは大がかりに売り出されてヒット路線をばく進した時代があり、その後なかなかヒットに恵まれず、メンバーそれぞれが持ち場に散って活動休止にいたり、4年前の震災時に一度だけ再結成したあとは、またそれぞれに戻っている。
といってもたぶんメンバー同士の関係は今でも悪くなく、伊藤さんも去年はキンモクセイの佐々木良さんとふたりでライブをいくつかしたりしていた。

今回のライブはキンモクセイの曲も入れながら、ソロになってからの曲、客席からのどんなリクエストにもこたえるコーナー、他アーティストへの提供曲のセルフカバーと本当に盛りだくさん。
伊藤さんの、音楽を楽しみたい、自分の歌を愛するファンと喜びをわかちあいたい、という気持ちがあふれたライブだった。

生で聴いてうなったのは、伸びのある強く美しい声とアコースティックギター・エレクトリックピアノの演奏力の高さ。そして初めて聴いた提供曲やソロの曲のすばらしさだった。
最近の曲は歌詞もメロディも、キンモクセイ時代よりさらにシンプルになっているので、ちょっと聴いただけだとシンプルすぎて耳を通り過ぎてしまう人もいるかもしれない。
でも私はそんな曲の中に、伊藤さんの人生でこの何年もの間に経験したこと、愛する人の死や、愛するものの誕生や、日々のちいさなことを静かにいとおしむ心、じっと内面を見つめるまなざし、そんな無数の重なりを感じて、胸がいっぱいになった。

今も毎日車の中で、ライブのときに買ったCDを繰り返し聴いては胸しめつけられてしまう。
そして新曲「僕がいなくなっても」を聴くたび、私がいなくなっても世界は続くのだ、と思って安堵する。

ソロライブをライフワークにしたいといっていた言葉、信じていいのかな、伊藤さん。
楽器も機材も物販も全部ひとりで運んで、チケット管理も宣伝も全部ひとりでやって、自宅の四畳半の防音室でひとりで演奏して録音してCDに焼いて、それをライブ会場で手売りして、ひとりひとりとお話ししてサインして握手して。
そんな伊藤さんを見ていると、「そうなのか、そうなのか」と私の心は言う。

ヒットを飛ばして紅白にも出たキンモクセイのころと、全部手作りでひとりの今と、それはどちらも輝いているだろうけど、きっと静かであたたかくて楽しいのは今のほう。自由なのは今のほう。
余分なものをそぎおとして、どんどんほんとうになっていくんだな。勝手にそう思う。

11月にまた大阪に来てくれるのを楽しみに。新曲を楽しみに。待ってます。
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by higurashizoshi | 2015-09-03 01:48 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

忌野清志郎展@手塚治虫記念館

昨年秋からずっと機会を待っていて、2月20日の終了までに何とか!と思い続けて、ようやく行けた。

忌野清志郎展~手塚治虫ユーモアの遺伝子~
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会場は、こちらも以前から行きたいと思ってチャンスがなかった、宝塚市立手塚治虫記念館。
宝塚という街を訪れたのは、たぶん高校生のとき以来? 長年の関東放浪の経歴があるとはいえ、いちおう関西人だというのに何たることでしょう。

宝塚駅からの道すがら、おお~これが宝塚大劇場か(すでに記憶がない)。
たまたま宝塚歌劇の休演日だったので、あたりは閑散としてたけれど、いつもはきっと付近一帯が華やかなのだろうな。
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手塚治虫記念館へ。
開館20周年とのことで、もうそんなにたつんだなあ…とびっくり。
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近くには手塚マンガのキャラクターたちがあちこちに。
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ブラックジャックの靴のサイズ、意外に小さいよ?
(これは私の足ではありませんが)
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中に入るとキャラクターたちの洪水。
タタもミミも、大量の手塚マンガを読んで育っているので、みなさんお世話になりました!と懐かしさいっぱい。
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手塚さんが亡くなられて、もう丸26年にもなるんだ…!
長生きされていたら、今のマンガやアニメ、IT文化にどんなふうにコミットしていたかなあと思う。
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手塚さんの娘さんが清志郎ファンだったこと、清志郎もまた手塚マンガのファンだったことなどで実現したというこの企画展。
入口から見える写真に、もう胸が熱くなる。
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展示のメインは、清志郎が描いた油絵を中心とした絵画、イラストと、
そしてこれらのステージ衣装。
衣装部分だけは写真撮影可だったので、撮らせてもらった。
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モニターの中では、清志郎が気持ちよさそうに歌っていた。
タイマーズ時代の野外ライブと、喉頭ガンからの《大復活祭》、あの武道館ライブ。
友だちが「行ってきた!キヨシロー元気だった!」って、復活Tシャツを送ってきてくれたのがついこの前の事みたいだ。

それなのに、それからあっという間にガンの転移がわかり、ふたたび療養に入り、2009年5月。
清志郎は流星のように、いってしまった。

このブルーのド派手衣装は、大復活祭のステージで着たものだね。
こんな服、清志郎にしか似合わないよね。
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もう着る人のいない衣装を見ながら、「トランジスタ・ラジオ」を聴いていたら不覚にも涙が次から次から流れてきた。
ふと気がつくと隣に立ってモニターを見上げてる男の人も、涙を何度もぬぐっていた。

いなくなってもうすぐ6年。
ただ、好きだったというだけで、今もこんなに他人を泣かせることができるなんてね。
ニクいやつだ。清志郎。


「冬の十字架」をはじめ、清志郎のたくさんの絵画も見ごたえがあった。(企画展HPの写真から)
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中でもひときわ強烈だったのは、「八月の自画像」。
この写真の左側にある、青い背景の、スキンヘッドの自画像だ。
2006年8月、喉頭ガンの治療のために髪がすべて抜け落ちた自分を、真正面から描いた絵。

この絵の、自分の中の深い闇を見ているような、それでいて限りなく恬淡としたまなざし。

ああ、覚悟していたんだな。
そうも思い、
長生きしてたら、こんな味のあるジイサンになったんだろうな。
そんなふうにも思った。
自分の未来を、すでにここで描いてしまったのかな、なんて。


大好きだった手塚治虫の記念館で、こんな素敵な企画展をしてもらって、清志郎はきっと照れくさそうに、でもすごくうれしそうにしているだろう。
手塚先生はどう思っているかわからないけどね!

これまでの私の人生の、たくさんの場所で深く刻まれた清志郎の歌声。
もう二度と会うことはできなくても、新しい歌を聴くことはできなくても、
清志郎はいる。いないけど、いるのだ。ずっとずっと。
そう思えた日だった。
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by higurashizoshi | 2015-02-13 01:26 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(3)

トム・アット・ザ・ファーム

d0153627_215253100.jpg2013年公開 カナダ・フランス
監督・脚本・編集・衣装 グザヴィエ・ドラン
原作・脚本 ミシェル・マルク・ブシャール
出演 グザヴィエ・ドラン ピエール=イヴ・カルディナル リズ・ロワ エヴリーヌ・ブロシェ マニュエル・タドロス





元町映画館でグザヴィエ・ドラン監督作品3連発を観てからほぼ9か月(そのときのレビューはこちら)。
ついに観ました、第4作。もはや麻薬です。グザヴィエ・ドランという麻薬。
と、言いたくなるほどの進化ぶり。この次に撮った第5作「Mommy」が昨年のカンヌで審査員特別賞を受賞したのは記憶に新しいところ。授賞式でドランくん、超絶キュートなスピーチを披露、審査員長ジェーン・カンピオン女史を完全に骨抜きにしたところをAXNで目撃しましたぞ!

その「Mommy」に先立つ監督・主演作がこの「トム・アット・ザ・ファーム」。
今度はサイコスリラーに挑戦、しかも初の戯曲映画化。いったいどんなものであろう。さすがに早熟の《美しき神童》も、そろそろ中だるみがきてもおかしくないぞ。前作「わたしはロランス」で、少々風呂敷を広げすぎた感もあったしな(好きでしたが)。

…なーんて思って観たら、やられました。してやられました。
ドランくん、これまでの初々しさをかなぐり捨て、また高次のステージに上がらはりました。本当にとんでもないです。
書いて、撮って、演じて、でも今回は音楽は人にまかせたり、何より脚本も共同執筆で、いろいろ学習し変化もしてるのですが、それにしても撮るのも、演じるのも、やっぱりうますぎるやろ!

カナダの著名な戯曲家の舞台を映画化した本作、ドランくんがこの上演を観て、ちょうど今自分がやりたいことと合致すると感じて即、戯曲家に映画化を切望したそう。
初期作からみるとオリジナルだけにこだわる暴走系ナルシストかと思いきや、自分の立ち位置やなすべきことを見通せる、非常に客観的な人なのだなあ。
従来3作のケレン味たっぷりのドラン色から、今作は一気に余分なものをそぎ落としたタイトな作品へと変貌。この確信に満ちた新しい映像世界、観る人を選ぶとは思いますがだまされたと思ってぜひ観てほしい。
人はなぜ支配されることに魅かれるのか、愛とはどのように残酷なのか――それらについての深淵で、たまらなく官能的で、甘く苦痛に満ちた答がここにあります。

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事故死した恋人ギヨームの実家である田舎の農園に、葬儀に出席するため都会からやって来た青年トム。それを迎える、ギヨームの母親と兄。
亡くなったギヨームは母親に同性愛者であることを隠し、異性の恋人がいるという作り話をしていた。そのため、トムはギヨームの単なる友人として振る舞い、サラという女性の恋人がいるという口裏を合わせなければならなくなる。

ギヨームを溺愛していたらしい母のアガットは、サラがなぜ葬儀に来ないのかと激高。一方、兄のフランシスは常軌を逸した暴力性を持つ男で、のっけからトムをあらゆる方法で脅し、母親を落胆させないための芝居を続けること、そして母親を喜ばせる名目でこの農園に滞在し続けることをトムに要求する。
アガットとフランシスの間にあるあやうい均衡、次第に暴力と支配性を増していくフランシス、まるでトムは獣の中に迷い込んだ子羊のよう。しかも、恋人ギヨームを失って虚脱に陥っていたトムは、次第にみずからこの錯綜した関係のさなかへと足を踏みいれていく…。

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携帯電話も通じない、孤立した農園という空間。
いくら車を奪われ、暴力で支配されているとはいえ、逃げるチャンスがないわけではない。
それなのに、トムはなぜ逃げ出さないのか?

トムを虐げつつ愛でるフランシスの残酷な官能性、一触即発の二人の関係も怖いし、共依存におちいる快感に染まっていくトムの壊れっぷりも怖い。
しかし一番怖いのは、フランシスの暴力性もギヨームの行状(のちにあきらかになってくるような)も、愛情という衣をまとった底知れない母親のエゴイズムから端を発しているのだということ。それが、物語が進行するにつれ、観客にじわじわと沁みてくる。

はたして、トムは生き残ることができるのか。ここから逃れる未来がありうるのか。
そこに第4の人物、偽の恋人であるサラが農園に現れ、物語は思いがけない方向へと舵を切っていく…。


人里離れた場所に主人公が囚われ追いつめられる図式や、トウモロコシ畑での緊迫(『北北西に進路を取れ』)、シャワールームでの驚愕(『サイコ』)等、あからさまにヒッチコックをはじめとする古典的サスペンスへのオマージュが満載と見えるものの、パンフレットの解説によればドランくん自身はヒッチコック作品を一本しか観ていなかった由。
むしろこの作品の肝は、心底から同性愛を嫌悪し、他者を暴力と性で支配することに依存する男フランシス(母アガットも根はまったく同じ)と、フランシスに支配され生殺与奪すら握られてしまうトムの関係が、決して単色ではないこと。
フランシスの、亡き弟に対する激しい執着自体、性の匂いをまとった愛憎のせめぎあいを感じさせる。フランシスにとって、トムは弟ギヨームの身代わりでもあるのだ。

たとえば、フランシスとトムが納屋でダンスを踊るシーン。
これから何が起きるかというひりひりした緊張と恐怖に満ちているのに、このシーンは異様に美しい。モンスターのようなフランシス、被虐に憔悴したトム、その二人が身体を寄せ合い、ひたすらにタンゴを踊る。
そこにあるのは、支配―被支配という単純な図式でははかれない、つかの間の愛の形なのではないか―― ダンスの間に語られるフランシスの言葉はあからさまで残酷なのに、そんなふうにすら感じさせられる。観ている側も息を止めて二人を見つめるしかない、忘れがたい場面だ。

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ドラン作品に欠かせない音楽、今回はとてもひかえめながら、名匠ガブリエル・ヤレドがスコアを書いたサウンドトラックが非常に効果的。
そして冒頭の「風のささやき」(往年のサスペンス映画『華麗なる賭け』の主題歌。そのフランス語版で、ここからぐっと引きこまれます)、そしてエンディングに流れるルーファス・ウェインライトの「Going to a town」が、おそろしくいいです。

ルーファス・ウェインライトについてはほとんど知らなかったのだけど、この曲にすっかり惚れ込んで(私の大好きなmuseの曲に似てるということもあり)、以来ネットで探しては聴きこむ毎日。それだけでは飽き足らず、ファーストアルバムも中古で購入。今まで知らずにきたのが人生の損失と思えるほどすばらしいアーティストだ!

それにしても残る謎は、最後にフランシスが着ていたUSAシャツ。
ラストの「Going to a town」で繰り返される歌詞「I’m tired of America(アメリカにはうんざりだ)」とともに、他者を支配するもの=アメリカ合衆国という主張なのだろうか?
ドランくんの考えをぜひ聞きたいところです。
そして元町映画館さま、第5作「Mommy」も日本公開となったあかつきには、どうか早めの上映をお願いします!
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by higurashizoshi | 2015-01-15 22:17 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

スペインのまわりを脳内ぐるぐる

はっ!

と気づけばもう出発まで4日。
出発日の前日には関空に移動してホテルに泊まるので、家を出るまで実質あと3日。

しかも、あさっては大事な若い友人の結婚パーティーで京都までお出かけ。
タタとミミを妹のようにかわいがってくれた友人なので、母娘3人で心からお祝いを言いに。
その出席の準備(服やらなんやら3人分)と、旅の準備の一部始終と、キャンプの終了後の仕事と、実家関係と、あれやこれやでものすごい速さで日が過ぎた。

フィギュアはジュニアグランプリシリーズもときどき追いかける程度しか観られていなくて、こちらも気づけば明日はJapan Openではありませんか。
毎年、大ちゃんの新プロを固唾をのんで待ったことを思い出しながら、今年はやっぱりさびしい。
それでも、旅から帰ったらいよいよシニアのグランプリシリーズも始まるし、また気合を入れなおして選手たちの競技シーズンを見守っていこうと思う。

とにかく今は、頭の中がスペインだ。
エル・グレコやゴヤやガウディや、フラメンコやパエリア、いやいやそんな華やかなもんばかりじゃなくて、いったいこの町のここからここにはどうやって移動したらいいのか?切符はどうやったら買えるのか?
現金やカードをどう分けて入れる?首絞め強盗?美術館の休館日はいつ?

行列に並ばずにサグラダ・ファミリアに入るために現地のビューローに頼んでチケットを取ってもらったり、おっかなびっくりでバルセロナのツーリストバスの割引チケットをネット購入したり、国内の方が得と聞いてユーロに両替に行ったらどこも米ドルしか扱ってなくて、わざわざ遠くのお店まで電車で両替に行ったり。
そういう実質的なことを次々やりながら、同時並行でひたすらスペイン美術や歴史の本を読みふけり、妄想をふくらませたり。

スペイン語は相変わらず全然頭に入ってこないけれど、穴のあくほど焦がれて地図を見てきたトレドはきっと迷わず歩ける気がする… って、これも妄想か。日本でまともに道を歩けない私がスペインで迷わないはずがないっちゅうねん。
ひとり旅じゃなく、娘たちと海外への旅、というのが今ひとつ現実的に想像がつかなくて、はたして旅立ったあとにどんな心持ちになるのか、まだよくわからない。
「楽しみね!」っていろんな人に言ってもらうけど、今のところ楽しみなのと不安なのが自分の中では拮抗していて、「いや~、なんて大それたことを実行に移してしまったんだろう」という気持ちもむくむくする始末。
でも案外、平常心な娘たちにいろんな場面で助けられるかもしれないなあ…なんて思ったりもして。

旅の支度のあれこれを写真に収めてる余裕もないので、とりあえずここはチャーくんの平和な顔を見てまったりしていただきましょう。

おうちで元気に待ってるんだよ~
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by higurashizoshi | 2014-10-04 01:39 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(2)

スピッツ/FESTIVARENA@大阪城ホール

(追記・写真入れ替えあり)

前回の文を書いたあと、嵐の中を舞う木の葉のような日々を過ごしてきた。
木の葉の私は、ブログに文を書く余裕がない、というより、身体も心もまったくそういう次元にいなかった。
今、少し状況は落ち着いたものの、今度は起きてしまったことに対する反芻、後悔、取り返しのつかなさに七転八倒し、眠れなくなった。

一昨日、大阪城ホール。
スピッツの、全国4か所のみの今夏の特別なアリーナライブ「FESTIVARINA」、大阪2daysの一日目。
楽しみにしていた気持ちはどこかに吹っ飛んで、そもそもチケットを自分で使える気がしなかった。それでも状況に助けられて、昨日観に行けたのは奇跡のようなもの。
「行くからには楽しんでくるんだよ!」とタタとミミに送り出され、フラフラと大阪へ。
すでに名古屋と武道館の二か所でおこなわれたライブのレポートを目にすることもなく、セットリストも知らず、ある意味まっさらな、いやまっしろな状態でのぞんだ一昨日の夜だった。

スピッツ結成27年にして初めての武道館ライブあり、ということで「ついに解散?」という噂が出ていたとか、ライブ初演奏の曲目が含まれているとか、そんなことを知ったのは後の話。
実際目の前に登場したスピッツは、解散どころかいつもに増してフレッシュで、まだまだこれから!感に満ちていた。
客席は、いつものライブより男性率やや高め、若いカップルから家族連れ、高校生女子のグループもいれば60代とおぼしき品のいい男女ありと、いい感じのバラけぶり。
楽しそうな親子連れを見れば、うちみたいにちっちゃいころからスピッツを子守唄代わりに育ったんだろうな~なんて想像できてほっこりする。

1曲目は「夜を駆ける」。9.11後の心象を投影したこの曲を、アルバム『三日月ロック』の冒頭で聴いたときの衝撃を思い出す。
ここまで硬質な緊張感と官能性の入りまじった曲はスピッツ史上、類がない。いつかライブで聴けたらと思っていたこの曲がいきなり始まって、心が前のめりに傾斜していく。

と、2曲目はファーストアルバムからの「海とピンク」。まだパンクのしっぽを濃く残したこの時期の(しかも27年以上も前の!)楽曲を、なんの違和感もなくライブに載せられるのも凄いところ。可愛くて気持ち悪くてエロティックな、閉じた世界のスピッツもやっぱり魅力的なのだ。
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そのあと立て続けに新旧とりまぜた曲が、宝箱を開けていくように次々と繰り出され、息つくひまもない。と思うといつもよりMC多め、ちゃんと小休止も用意されてなごませてくれる。なんとなくメンバーもほぐれた雰囲気で、こんな大きな大阪城ホールなのにステージの遠さを感じさせない。
マサムネくんの平常運転なむにゃむにゃトークも、まさかのTOKIOをまねた客席のあおりマネも、高校時代に作った「漢字は書けないけど、おまえに夢中」という歌の披露も…ただただ楽しい。この押しつけがましくない、絶妙の距離感がスピッツなんだなあ。

横浜サンセットはもちろん行けなかったので、今回どんな曲をとりまぜてやってくれるかと思っていたけど、通常のツアーライブではなかなか聴けない、個人的に好きな曲が次々押し寄せてきたのは鳥肌ものだった。
スピッツ楽曲中、もっとも変態的な(マサムネくんもMCで言っていた)「ラズベリー」、コアなファンにはたまらない「プール」、大好きな「フェイクファー」「エスカルゴ」「愛のことば」…。
そしてまさか聴けるとは思ってなかった「正夢」。急に涙が流れてきて、いろんなことが頭をめぐりはじめて、棒立ちになる。

これまで生きてきてここに立つまでのこと、これからのこと。
家族のこと、人との関係のこと。
創作すること、夢見ること、苦しさに耐えること、喜びを受けとること。
自分というちっぽけさを責めて、責めながら誰かに許されることを期待している情けなさ。
それでも生きていくんだと自分に言いきかせる、細くて長い道のはるか向こう。
何か見えるような気がした。でも気のせいかもしれなかった。


「空も飛べるはず」を今の演奏で聴いて、なんて成熟したバンドになったんだろうと思うと同時に、マサムネくんの歌のうまさにうなった。
彼はか細い印象があるけど歌の技巧レベルも声量も、実際に聴くと驚くほど骨太。とにかく美しく、伸びがあって、うまい。こちらの身体の中に澄みわたるような歌声はものすごい快感装置で、これはCDで聴く歌声とはまた別もの。
崎ちゃんのドラム、テツヤくんのギター、リーダーのベース、安定した力をたもち、こうしてピースが全部ぴたっとはまるような気持ちよさでライブを続けられることも、やっぱり奇跡的。誰かひとりでも欠けたらその時点でスピッツは終わりだということはいつもわかっていて、そこにライブではクージーがいつも安心感を添えてくれている。
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ライブが終わるまでは、あまりにオールスターな選曲すぎて《集大成》みたいになっていたらどうしよう、という妙な心配があったのだけど、アンコールの「スカーレット」「不死身のビーナス」というマニアックな選曲で全25曲のライブが終わりを告げたとき、「よし!まだまだ余白あり!」という気持ちになれたのがうれしかった。

心残りなのは、あとで名古屋と武道館のセトリを見ると「スワン」をやっていたのに、この日は抜けていたこと。
最新アルバム「小さな生き物」の中でも、特別に好きな曲。3.11にまつわる死者への歌、と私は思っていて、どうしても生で聴きたいと思っていた一曲だったのに、ちいものツアーではやってくれなかったのだ。せっかく今回は入れたのに、なぜ、なぜ大阪で落とした~!と叫びたくなった。
(追記:なんと翌日の城ホール2日目のセトリを見たら、『スワン』入ってました…。ああ~2days行けばよかったと涙、涙)


ライブが終わり、また日常が戻る。
何センチか、ほんのちょっとだけ、私の心は移動している。
それはほんとにささやかな距離で、何にも変わっていないように見える。
苦しいことも、悲しいことも、どうにもならないことも、変わらない。
でもちょっとだけ、私の心は移動している。
たぶん、ひらかれた方へ。
ありがとう、スピッツさんたち。
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by higurashizoshi | 2014-07-17 10:31 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(2)

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