ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

カテゴリ:フィギュアスケート( 122 )

喪章をつけた選手たち

今シーズンから、にわかにフィギュアスケートにのめりこんだ母娘(ミミと私)。昨秋からこっち、地上波・BS・CSで観られるあらゆる競技会やショーを録画、観て観て観まくった半年間で、二人はいっぱしのフィギュア通になってしまった。
本来なら、3月半ばに東京で行われるはずだった世界選手権。オリンピックイヤー以外では、その年の世界一を決める最高位の競技会だ。世界のトップ選手たちが日本に集結するのをミミと指折り待っていた。
でも、東京での世界選手権は幻と消えた。言うまでもなく、震災のためである。原発事故が収束しないのが決定的だった。どの国のスケート連盟も、自国の選手を日本に送り出すことにノーといった。

その後紆余曲折があって、名乗りをあげたロシアで急遽1ヵ月遅れで開催されることが決まったときは、ほっとしたと同時に複雑な気持ちだった。自国開催の予定だった日本の選手の多くは、震災後チャリティーのショーをやったりしながらモスクワに向けて調整し、ずいぶん大変だったと思う。
日本からの参加選手全員が、ユニフォームに喪章をつけて臨んだ第101回の世界選手権。
男女シングルはCSで生中継をしてくれたので、今回はタタも引っぱりこんで3人でテレビの前に長時間かじりついて観た。
ミミも私も、一番のお目当てはアイスダンスなのだけど、ペアとアイスダンスは残念ながら後日放映。ともかくはシングル選手の生の戦いを見届けることにした。

もう全種目が終わってしまってこれを書いているので、だいぶ落ち着いた心境になっているとはいえ、とにかく大変な世界選手権だった。
男子シングル。金メダル候補はもちろん高橋大輔選手と、カナダのパトリック・チャン選手。このパトチャン、「僕には四回転ジャンプは必要ないね」なんて去年まで言ってたのに、ルールが改正になったとたんバンバン四回転を飛びはじめ、今シーズンのカナダ選手権では歴代最高得点を軽々と出してしまった人。
このパトチャンに対抗する大ちゃんは、もちろん四回転をプログラムに入れているものの成功率は低い。でも武器は世界最高のステップと表現力である。大ちゃんは昔は着飾ったヤンキーのお兄ちゃんみたいだったが、この数年で別人のようにノーブルな表現をするアーティストの域に達した。

さてショートプログラム(SP)を終わってみれば、パトチャンはあっさりとSP歴代最高得点を更新してトップ、織田くんが2位、大ちゃんが3位で折り返し。パトチャン、こんなに軽やかに飛んでほんとに四回まわってるの?と言いたくなるようなジャンプ。完璧すぎる。

翌日、いよいよフリー。最終滑走グループの最初がパトチャン。さすがに少々ジャンプの着氷ミスがあったけど、かなりよくまとめた。得点を見た瞬間、やっぱりねと思うが前人未到の歴代最高得点をさらに更新。別世界というか、宇宙に行ってしまった。織田くんも大ちゃんも、これではどうがんばっても金メダルには届かない。
織田くん。バンクーバー五輪の靴ひも事件、直後の世界選手権で惨敗と、昨シーズンは大変だったが今季は健闘中。とはいえ、彼につきまとう心配は、ジャンプの飛びすぎミス。
規定を超えて同じ種類のジャンプを飛びすぎて、大きく減点されてあとで号泣、というのが何度もあったのだ。――そしてそして、今回もなんと悪い予感が的中してしまった。トリプルルッツを規定以上飛んでしまった…。メダルが消えた瞬間。

そして大ちゃん。冒頭に四回転トゥループの予定。ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」の旋律に乗ってジャンプの体勢に入って飛び上がった瞬間、信じられないことが起きた。スケート靴のネジが外れ、ブレード(刃)が靴から離れてしまったのだ。観客が息をのむ。私もテレビの前で息が止まった。

競技中にトラブルが起きたとき、演技中断が許される時間は2分間。それを過ぎると失格になる。リンクサイドに戻った大ちゃんにコーチやトレーナーが駆け寄る。CS放送での解説の杉田さんは、ネジを短時間で元通りにするのはかなり難しい、と言っている。トレーナーが必死で靴の修復作業をしているのが映し出される。観客席が映る、日本からの応援ファンが泣いている。冷徹な顔で2分を測る会場スタッフが映る。

なんとか時間内にリンクに戻れたのが奇跡だった。客席から大歓声。でもみんなもうわかっている。演技再開は、中断したところから始めなければいけない。四回転ジャンプをもう飛ぶことはできない。つまり、メダルに届く点数を出すことは不可能、ということだ。
この時点ではテレビの前で涙をこらえていたものの、大ちゃんが思いをこめてステップを踏んでゆくのを見ているうちにぼろぼろ落涙。この大舞台でなぜこんなことが起きたのか、まるで日本に起きた出来事を象徴するようでたまらない。だからこそアクシデントのあとの彼のあきらめない滑りが尊い。
大ちゃんが滑り終え、予想通りに点数は抑えられ、涙がかわかないうちの直後の滑走が小塚くん。

たぶんリンクサイドで一部始終を見ていただろう小塚青年に、そのとき何かが舞い降りたのだ。SPは振るわず6位だった彼。でも今は滑りはじめた直後から、柔らかくて落ち着いている、いつもと何かが違う。これはなんだろう?と思っている間に彼は完璧な四回転トゥループをふわりと降りた。
ああ、この小塚くんには何かがついているのだ…。ごくたまに、スケーターにこんな4分半が訪れることがある。まったく不安なく、まるで予定されていたかのように、完璧なプログラムを滑ることができる。

二人の先輩が相次いでトラブルに倒れたのを見て、奮い立った…というのでもないのだろう。むしろまったく肩に力の入らない、自然な表情と滑りに見えた。
すべてのジャンプ、すべてのエレメントをひとつの傷もなく滑り終えて彼が最後のポーズで静止したときには、もう涙がぼろぼろ止まらない。鳥肌まで立っていた。
得点は驚異の180点越え。総合得点ではパトチャンに及ばなかったが、小塚くんは銀メダルをつかんだ。

いつも日本の選手を応援しているわけじゃない、むしろ外国のほうが好きな選手の数は多い。愛国心みたいなものとは縁のない私だけど、今回はそういうのとは違うのだ。東京開催がだめになって、喪章をつけてモスクワにやってきた日本の選手たち。それを応援するファンたちの胸にも、この震災で日本が受けた深い痛みや悲しみが根をおろしている。
メダルがすべてではないのはもちろんだが、日本にメダルを持ち帰り、少しでも心晴れる出来事にしたいという思いは選手たちに共通なはず。それなのに果たせなかった織田くんも大ちゃんも口惜しかっただろう。
相次いで、予想もしなかった事態に沈んだ二選手。その窮地を、小塚くんの奇跡のような演技が救ってくれた。
この一部始終を見ていた人の中には、この1ヵ月あまりの日本の現状を、どこかこの試合に重ねて見ていた人もいるのではないか…と思う。

翌日の女子シングルを前に、すでに精力を使い果たした感のある私だったが、女子もまたすごいことになっていた。それは次回に。
[PR]
by higurashizoshi | 2011-05-03 00:06 | フィギュアスケート | Comments(0)

フィギュアを観て泣いた日

昨日は朝からオリンピックのフィギュア男子フリーを生中継でずっと観ていた。最終滑走のひとつ前のグループあたりから、テレビの前でなぜか正座になる。
メダル候補だった《四回転の代名詞》フランスのジュベール選手。ショートプログラムでまさかの大崩落のあと、フリーもまったく飛べず信じられない順位に。悲しい。
小塚選手が四回転ジャンプを降りた。その後に転倒もあったが立派な演技。そしていよいよ最終滑走グループ6人、もう心臓がバクバクしてくる。どうしてこんなに緊張しているのか、自分でも不思議。たぶん私は選手の自滅を恐れているんだ、特に高橋選手の。彼は《ガラスのハート》とずっと言われてきた。4年前のトリノ五輪も含め、メンタルな弱さで大きな競技会で自滅してしまう彼を何度も見てきた。力をつくしての失敗ではなく、内側から崩れてしまう。あきらめて、投げ出してしまったとすら感じられる試合もあったほど。
その後大ケガと手術、復活をへて、今の高橋選手は心もずいぶん強くなったと思えるけれど、なんといってもこれはオリンピック。4年に一度の、ただ一度きりのチャンスに、最上の演技をしてみせなければいけない。国民の期待という想像もつかない重圧を負って。考えただけで足が震え出しそうだ。

最終滑走グループ1番目のアメリカのライサチェック選手が神がかり的なパーフェクトで演技を終えた。この瞬間、彼が金メダルかも、と思う。ショートプログラムも、滑り終えて本人が感激のあまり泣き出すほどパーフェクトだった。なんと強い心。正当な勝者になるのはこういう人なんだろうと思う。
そして2番目の織田選手。《オリンピックの魔物》が思いがけないところに手をのばし、彼をつかんだ。スケート靴のひもが切れ、はずれてしまって、演技を続けられなくなったのだ。生中継で観ているこっちも息がとまり頭が真っ白になる。よりによってオリンピックのフリー演技中にこんなことが起きるなんて。演技再開してちゃんと滑り終えた姿に温かい拍手が沸くが、織田選手は悪い夢を見ているような表情でリンクを降りた。
3番目、スイスのランビエール選手。持ち前の優雅な演技力と世界一のスピンを見せたが、ジャンプも含め全体に精彩がないまま終わる。彼もメダル候補だったが得点が伸びず、これは届かないな、と感じる。

そして、高橋選手の演技が始まった。フェリーニの映画『道』を主題にしたプログラム。今シーズン何度も観てきた、夢からさめるシーンの冒頭。
そして四回転ジャンプを飛ぶ、と明言していた通り、彼は飛び、そして転倒した。昔の彼ならこの最初の失敗を引きずり、ずるずると自滅していくはず。そう思った瞬間、私は画面の中の高橋選手の顔に釘づけになった。転倒から立ち上がり滑り始めた彼は、これまで見たことのない、包み込むような笑顔で『道』の世界に入っていった。ジャンプも次々と降りていく。ステップを滑っていく繊細なライン。指先まですべてに魂がこめられているようだ。ああ、今の彼の心には不安も緊張も予測もない。この透き通った表情の中で彼はこのプログラムを表現するだけの純粋な存在になっている。こんな大舞台で、こんなに心をまっさらにして滑ることができるなんて。気がつくと私はぽろぽろ涙をこぼしていた。フィギュアを観ながら泣いたなんて生まれて初めてだ。
滑り終えた高橋選手のすがすがしい笑顔、ああメダルを取らせてあげたい。

5番滑走はアメリカのジョニー・ウィアー選手。わが家では「ジョニ子」と呼ばれている。バレエダンサーのような優美な演技、中性的なフェロモンとキュートな個性。長く不振に苦しんだジョニ子、今シーズンはすばらしく調子がいい。ショートプログラムもノーミスだった。今日のフリーも力強く、スピンで少しミスをした以外はすばらしい出来。でも得点は伸びない。観客からブーイングが出る中、キス&クライ(得点を待つ席)でファンから投げ入れられたバラの冠をかぶったジョニ子(似合いすぎ)は笑顔でブーイングをおさえるしぐさ。さすが、人気者でありつづけるわけだ。
ほっとなごんだところで、ついに最終滑走。宇宙から帰還した帝王・プルシェンコ選手が最後の最後に登場した。四回転ジャンプにこだわり、フィギュア男子の四回転回避の流れを変えるために復帰したといわれる彼。数々の挑発的な発言、圧倒的な技術力、まさに世界の俺様。十代のころから彼の演技を観ているが、昔は天才ジャンパーである以外特徴のない選手だったのに、プロで表現力を身につけ復帰した今シーズンは27歳という年齢にもかかわらず他を寄せつけない別世界の滑りをする。もちろん四回転はいともたやすく飛ぶ。彼がパーフェクトに演技を終えれば金メダルは間違いない。というよりむしろ、彼はもう金メダルを手に持ってリンクに立っている。それをフリーの演技4分30秒の間にポトリと取り落とすかどうか、というほうが正確だ。
そしてプルシェンコは滑り始めた。四回転を飛んだ。けれど複数ではなかった。しかもほかのジャンプは軸が曲がり、見たこともないような荒さ。気持ちを入れた情熱的なステップ、スピンで最後は客席を盛り上げたが、彼の手のひらからすべり落ちていく金メダルが見える。緊張か、不調か、原因はわからない。金メダルは氷の上をしずかに滑ってゆき、四回転を飛ばず、パーフェクトな演技をしたライサチェックのもとへ届いた。

表彰式で、一番感激をあらわして涙を浮かべていたのは高橋選手だった。銅メダル。ほんとうにほっとした。運・不運ということでいえば、彼は運を自分の力で呼び寄せたのだと思う。そう、運は呼び寄せることができる。でも不運はただ、落ちてくる。織田選手の靴ひもを切り、プルシェンコ選手のジャンプをゆがませる。
四回転ジャンプを飛ばなかった選手が表彰台の真ん中に立ち、アメリカ国歌が流れた。プルシェンコ選手は銀メダルを胸に、上っていくアメリカ国旗から顔をそむけている。そして四回転にチャレンジし失敗した高橋選手は穏やかな笑顔になって星条旗を眺めている。
男子の四回転論争は今回の結果を機に、さらに過熱するだろうといわれている。回避するのはスポーツではない、という意見と、困難なジャンプに固執せず演技の質を高めるべきだ、という意見と。結局、昔からいわれている、「フィギュアはスポーツか芸術か」という議論にたどりつく。
私は、一日たっても、高橋選手のあの演技が頭から離れない。アスリートとして挑戦し、なおかつプログラムを芸術にまで高めた姿だったと思う。だから観ている人の心を動かし、浄化するような感動すら与える。彼がこんな存在になりうるなんて、失礼ながら昔は思ってもみなかった。テレビの前であまりにエネルギーを使いはたし、昨日はその後ぼーっとしていた。耳の中で『道』のテーマ曲が何度も何度も鳴っていた。
[PR]
by higurashizoshi | 2010-02-20 16:57 | フィギュアスケート | Comments(4)
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
最新のコメント
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 02:06
こんにちは。 今回の4..
by Disney 鴨 at 14:58
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 00:40
こんにちは。 アメリカ..
by Disney 鴨 at 15:39
Desney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 01:06
こんばんは。 今回は、..
by Disney 鴨 at 19:43
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 02:16
こんばんは。 今回の全..
by Disney 鴨 at 20:15
Disney 鴨さん ..
by higurashizoshi at 10:31
あけましておめでとうござ..
by Disney 鴨 at 21:35
ライフログ
検索
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧