ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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カテゴリ:フィギュアスケート( 128 )

臨海スポーツセンターチャリティイベント(その2)

客席から見るとリンクはこんな感じ。
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観覧ポジションは片面しかなく、向こう側ののリンクサイドにはこの臨海スポーツセンターで日頃練習してる子どもたちがぎっしり並び、プログラムのたびにいちいち大歓声の声援を送るのがほほえましかった。

前回書いたようにフィギュアスケートだけでなく、スピードスケートやアイスホッケーでも幼いころからこのリンクで練習し、オリンピック出場を含めたくさんの優秀な選手が生まれているそうだ。
リンクが閉鎖されれば、そんな多くの子どもたちや成人選手たちが路頭に迷うことになってしまう。
そもそも、これほどスケートリンクの絶対数が少なく、貧困な環境の中で、世界トップクラスのスケート選手を日本が輩出していること自体が不思議なほど。
昨シーズンの世界選手権でペア銅メダルを獲得した高橋・トラン組の高橋成美選手は、日本のリンク環境ではペアの育成ができないので十代で単身カナダに渡り、カナダ人のパートナーを得て今の地位まで上りつめた。シングルの選手たちも、ひとにぎりのトップ選手たち以外は、みんな少ないリンクを行き来し、高いリンク貸切料を費やして、厳しい環境で練習を積んでいる。

今回、もしこの臨スポのスケートリンクが閉鎖されてしまったら、またさらにひとつ、日本の通年リンクが姿を消すことになる。大阪府は文化に徹底的にお金を出さない主義へとひた走っているようだが、今日のすばらしい実演を見て少しは考え直してもらいたいところ。耐震改修費3億円のうち、知事は条件つきで半額出すという約束をしているというが、一般の募金で1億5千万も集めようと思ったらアンタ、えらいことですがな。
この日のイベントの収益や募金を集めても、到底すぐにはそんな金額に届くはずはなく、広報しながら地道に存続活動を続けていくしかないのだろう。

さてプログラムの最初を飾ったのは、フィギュアスケートの吉田行宏選手。この臨海スポーツセンターの練習生とのこと。
全日本で観たことあったかな?ちょっと記憶にない選手だったがなかなか伸びのある美しいスケーティング。神戸出身で、小さいころはこの前のチャリティがあったポーアイのリンクで練習していたそう。ポーアイは冬しかリンクがないので、思い切ってこの臨スポに移ってきたと後のインタビューで言ってはりました。
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まさにこのチャリティの開幕に打ってつけの存在! ジャンプはミスがあったものの華やかに滑り切ってくれ、客席からは大きな拍手。
あ、選手のお写真は、この日の個別の画像がないので、みなさん別のときのものを使わせていただいております(ペコリ)

次は、初めて見るショートトラックとアイスホッケーの模擬試合(どちらもすごい迫力で面白かった!)。特にショートトラックは間近で見ると本当に魔法のようで、キレッキレの角度のディープエッジに眼が吸い寄せられる~。小学校3年生の女の子もすごい技術で競っていてびっくりでした。

そして、いよいよフィギュアスケートの招待選手の登場。
最初は村主章枝選手。30歳を過ぎてもアマチュア続行、年齢の壁の高いこの世界でどこまでもチャレンジし続ける姿勢はすごい。昨シーズンは全日本で見ることができず残念だったけれど、均整のとれた優雅な滑りに見とれてしまう。ジャンプはトリプルなしとはいえ、ステップの身のこなしもさすが洗練されてて綺麗。
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オリンピック4位、世界選手権銀メダルなど輝かしい成績を残す一方、コーチや練習拠点をさまざまに変えながら、苦労して現役を続けてきた村主選手。今シーズンも自分の納得を追い続けてほしいと思う。


次は村上佳菜子選手。ぱっとリンクが輝く感じがするのはやっぱり若さだなあ。若いってまぶしい。まぶしいけどまだまだそれだけやんか…と思いつつ、でも17歳佳菜子さん、ほんとに上手いんだよなあ。生で観るのは2度目だけど、3-2-2の連続ジャンプも実に軽やかでパワフル。少し背も伸びた? 身体の線も大人びて大柄になってきたところで、それを逆にスケールの大きさに変えていけそうな感じ。
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難をいえば、観る側をぐっとつかむ力というか、個性というか、彼女にしかない吸引力みたいなものがまだ見えないことかな。でも、すべてにおいてバランスの取れた選手に育ってきているなあと思う。

さてこのあとはいよいよ、いよいよ…なんですが。
とにかく忙しさがパンパース、じゃないハンパネース、なので高橋選手と鈴木選手については次回!
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by higurashizoshi | 2012-07-19 02:15 | フィギュアスケート | Comments(0)

臨海スポーツセンターチャリティイベント(その1)

この数日は、よいことと悪いことが両方あったので、よいことだけ書いておこうと思う。

4月に神戸のチャリティ演技会に行った話は書いたけれど、またチャリティ。今度は大阪の臨海スポーツセンターのリンク存続のためのチャリティイベント。
ここは高橋大輔選手も十代のころ練習に使っていたリンクなのだそう。老朽化が進み、耐震工事と改修に3億円もの費用がかかるとのことで、「このままでは閉鎖になります!」と今必死で存続に向けての募金活動をしている。

一年中営業しているスケートリンクは日本では貴重で、ここにはかつての高橋選手のように岡山など遠距離から通う選手もたくさんいる。全日本ジュニアの有力選手の田中刑事くんなどもそう。そしてフィギュアだけでなく、スピードスケートやアイスホッケーなどの練習場としても使われているということを、当日のイベントを見て初めて知った。
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うーん、さすがに年月の重みを感じる外観…。
入ってみると、中も大変にしみじみとしています。

イベントの開催は資金集めと行政へのアピールと両方兼ねているらしく、リンクサイドの特別シートには副知事や維新の会の議員などがぎっしり。みんなフィギュアスケートのことなんて知ってはるのかしらん。その席かわってほしいわあ… などと思いつつ、それでも抽選で当たった席はかなり前で、神戸のときよりずっとリンクに近い!

わが家3人に、当たったチケットは2枚。まったく譲る気のない大人げない母を許せ…と思っていたら、タタが譲ってくれた。ああ、なんてオトナになったのか。というわけでミミと二人、堺のまだその向こうにある臨海スポーツセンターに電車を乗り継いで来たのだった(反省のかけらもない!?)

どうしても来たかったのは、もちろんもう一度高橋大ちゃんを観られるなら! というのもあったが、ずっと応援している鈴木明子選手が出演するから。

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生あっこちゃん! 今日本の女子選手で一番輝いてる人だけど、何といってもすでに26歳。シーズンオフごとに、引退? 続けてくれるよね? とハラハラ思いながら見ている選手だから、どうしてもこの機会を逃したくなかった。少なくとも今シーズンは続行は決まっているものの、ソチ五輪シーズンをどうするかは彼女の口からは何も出ていないから。


今回は写真も入れてしまいますよー。で、いっぺんに書こうとするとなかなかアップできないので、ちょびっとずつ書いていこうと思うのであります。
イベントの内容については次回からじびじびと綴らせていただきます。
よいことと悪いことの、悪いことのほうについては書きません。書きませんとも…
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by higurashizoshi | 2012-07-14 23:39 | フィギュアスケート | Comments(2)

ライブタカハシ体験

「東日本大震災復興チャリティー演技会2012 ~復興の街、神戸から~」に行ってきた。
高橋大輔選手の演技を生で観るという夢がかなうということで、かなり緊張しつつタタとミミと3人でポートアイランドのリンクへ。

アイスショーではなくあくまで「チャリティー演技会」。売り上げはすべて被災地への募金となる。募金がなかなか被災した方たちに届いていない現状を思うと複雑な気分だけれど、少なくともこういう催しがあることで、震災を忘れず、東北に眼を向け続ける助けにはなると思う。
ショーではないのでライティングはなく素のままの会場。ここはつい先日、タタとミミが生まれて初めてスケートをしに来たリンクでもある! その同じリンクで選手たちがものすごいことをしてくれるのだから不思議な感じ。

発表されたキャストには入っていなかった荒川静香さん。まさか観られると思っていなかったのですごく驚いた。その神々しいまでの美しい滑りは心に染みこんでくるようで、思わず涙がにじんだ。トリノの金メダルの直後に引退して、本当に自分のやりたいスケートをやる道を選んだ彼女。そして今、ここまで美しいとは…とクラクラした。
現役の頃よりジャンプのキレがよくなった?と思う田村岳斗くんは会場を盛り上げたし、わが家では近い将来絶対化ける!と注目している田中刑事選手、もう期待以上の滑りでワクワクした。高橋選手の芸術性のあとを継ぐのは彼だ!と勝手に認定。
急成長中の町田樹選手も、あの楽しいエキシビションプロ(エアギターで大歓声!)をパワフルに演じてくれた。
そして今シーズン不調でフェイドアウトしていた織田信成選手、ひさしぶりの登場。テレビで観ているよりもずっとずっと柔らかい、クリームのような滑り。こんなに美しかったのか!とかなりがく然とする。ジャンプもきっちり成功して、来シーズンにつながる印象だった。
西日本の若手の選手たちが次々素晴らしい演技を続け、最後は大歓声の中、高橋選手がリンクに。

何をやるのかな…今シーズンのショートをやってくれないかな…と思っていたら、「ロクサーヌ」だった。おそらく大ちゃんフリークで相当数埋め尽くされた客席は悲鳴のような叫び。
たぶんファンの中でも人気プロなんだろう…でもショートじゃなかったな…とちょっと残念に思っていたのだが、ロクサーヌ。過去のエキシビションの映像で何度か観たことはあったけど全然違うやん? こんな凄いん? 今の大ちゃんがやるとこんなになるのか! とドンドン驚きと興奮がふくらんでいって、気がついたら完全に魂さらわれ状態。
ジャンプもすべて完璧、指先ひとつ、足さばきひとつにいたるまで官能性と情感があふれ返ってドドーンと客席に打ち寄せ、ぐわーと観客をわしづかみに引き込むものすごいパワー、これか! 今の高橋大輔を生で観るとはこういうことか! と頭まっしろ状態で凝視した。羽生くんなんてまだまだヒヨコちゃんだということがよーくわかった。

あっという間にフィナーレ。最後のあいさつでは、高橋選手はこれからもこのチャリティ演技会を毎年続けていきたいと言っていた。そうであってほしい!
そしてそのあと、出演者全員がロビーに並んで募金活動があり。
なんとこれは、それぞれ募金箱を前に置いた各出演者の前に行って、募金ついでにお話もできるという信じられないことで。
列に並びながらタタとミミと小声で「荒川さんいる、すぐそこにいる、こっこれから話すの?どうしよう何言おうわわわわ」とかなりなパニックに陥りつつ、そこは歳って取るものだなー。いざ前に立つと荒川さんとも織田くんとも刑事くんとも大ちゃんとも、短くだけどしっかりお話しできたのだった。

荒川さんが至近距離で見てもほんとに綺麗だったこと、それより何よりしっかり眼を見て話す誠実さ。「心が洗われました」と言ったら本当にうれしそうに「よかった!」と女神のような笑み。
織田くんはほんっとに構えのない人で、ふわっと自分を開いて他人を受けいれる感じだった。「なんとええ子なんや…」といきなり親戚のおばちゃんの気持ちに。
そして大ちゃんの前に行ったらさすがに緊張したものの、ソチまで続けてくれることへの感謝と、ケガに気をつけてほしいことと、あと「来シーズンはジャズとクラシックですね!」と決めつけたら、「や、まだわかんないです!」と笑っていた。

さっき氷の上であんな魔術のような世界を巻き起こしていた人が、すぐ目の前で普通に立ってるのがなんとも不思議で、いつまでもその不思議さが残った。地上から3センチくらい浮いてるような感覚で帰路についたのだった。
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by higurashizoshi | 2012-04-11 22:11 | フィギュアスケート | Comments(0)

世界フィギュア選手権2012(その2)

今回の男子フリーでは、あれよあれよと見ている間に四回転ジャンプに成功する選手が続出。
応援していたアダム・リッポン選手やジェレミー・アボット選手(なんといってもmuseの楽曲で滑った今季プログラムが素晴らしい)がミスに沈んだのは残念だったけれど、前回触れた羽生結弦選手をはじめ、ずっと不遇だったブライアン・ジュベール選手が、真骨頂の四回転はじめパーフェクトな演技だったのには思わずテレビの前で拍手! フローラン・アモディオ選手もこれまでで一番いい四回転を決め、ほぼクリーンプログラム。
そして男子フリーの最後は、ショートプログラム上位3人を残すだけとなった。今季負けなしのパトリック・チャン選手、若手の実力派ミハル・ブレジナ選手、そして高橋大輔選手。

高橋選手のことを書き出したらまたキリがないのだけど、まず昨年の世界選手権で彼に起きたこと。
フリーの演技中に靴のブレード(歯)がはずれ、中断。必死の修理ののち再開したものの、やはり感覚が違ってしまったのかミスが続き、メダルを取ることができなかった。
この悔しさが逆に、「ソチ五輪まで現役を続行する」という宣言につながって、引退の二文字にヒヤヒヤしていたこちらは胸をなでおろすことができた。
にしても、高橋選手、すでに26歳。個人差はあるものの、早い選手なら競技から退いていく年齢。すでにオリンピックのメダルも手にし、たとえばステファン・ランビエールみたいに早々とプロスケーターになって活躍する道も、彼なら保障されているはず。
そこを「ソチまで」というのは、うーん相当、漢(おとこ)だねえ…というしかない。

高橋選手はバンクーバー五輪シーズンのプログラム「eye」と「道」で、それまでからさらに進化した。で、それ以上どう進化するんだろう?と思っていたら、昨シーズンはマンボ踊りまくりのショートと、ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」の精神性の高い素晴らしいフリーのプログラムの対比で「うおー」と言わされた。
そしていったい次は何? と思って待っていた今季のプログラム。
今季のタカハシは黒かった。何が黒いって、衣装が全部黒。ひとつのプログラムにもたくさん衣装を作る人なので、今季も競技会が進むにつれ「あ、また新調した」「あ、また新衣装」と気づき、それがどれも黒、黒、黒。しかもショート、フリーともすべて真っ黒。

原点に返る? シンプルの極みを目指す? 大人の渋さを強調? 
ほんとのところはわからないが、少なくとも今季のプログラムはそんなところがあった。
ショートの「イン・ザ・ガーデン・オブ・ソウルズ」は瞑想的な楽曲に乗せて、まるで修行僧のようにタイトな、それでいて大人の色香がムンムンというプログラムで、フリーの「ブルース・フォー・クルック」は一転してルーズなブルース。上手くない人が滑ると絶対退屈になる、渋い地味なナンバーを自在に、実に自在に料理するさまはまさに絶品!

今回世界選手権で雪辱が果たせるかどうかは、そのフリープログラムに四回転が入るかにかかっていたといえる。この日は多くの選手が成功させ、高橋選手の出番までにすでにものすごいハイレベルな争いになっていて、けして今では四回転ジャンパーとはいえない大ちゃんがここで成功できるんか? と心臓バクバクで見ていた。
今季の彼の特徴は、氷の上での落ち着いたたたずまい。この世の雑音とは遠く、自分の内側をじっと見ているような。こんなところまで来たんだね、この人は…といつも思う。

だから、演技開始のすぐあと、まるで予定されていたことのように綺麗に四回転トゥループを降りてきたとき、ほっとすると同時になんだかとても納得できる気がしたのだ。
そしてそのあとは、アクセルもほかのジャンプもまったく不安なく降り、ステップは本人が楽しんでいることがわかる余裕ぶり。ここまで音楽をつかみ、踊り、表現できる選手はやっぱりいないよなあ…不世出の人だよ大ちゃん…と改めて思う。(動画はこちら

次のブレジナ選手はショート2位発進で力みが出てしまったようで、本来のキレのいいダイナミックなジャンプが決まらず沈んだ。負けん気とガッツが裏目に出たか…来季がんばってほしい。
そして最終滑走のチャン選手。今季この人は他選手と別世界に生息しているので、もちろん四回転は2回決めるし、そのひとつは三回転とのコンビネーションだし、スケーティングなんてもうバターの上を滑ってるお人形みたい。と思ってたら最後のジャンプの前に転倒、ちょっと人間らしいところを見せてくれた。しかし、今の調子では誰がどう頑張ってもパトチャンの天文学的スコアを超えることなぞ不可能なり。

というわけで、結果はチャン選手金メダル、高橋選手が銀、羽生選手が銅となり、サプライズとしてはやっぱり羽生選手のメダルだった。フリーのロミジュリはyoutubeの閲覧数がえらいことになっているらしく、ちょっとこれからが心配である…。
女子には触れる余裕がなかったけれど、ずっと応援している鈴木明子選手が27歳の誕生日を迎えた直後にみごと銅メダルをとったのは、本当にうれしかった。あっこちゃんおめでとう。まだ引退しないでね。
浅田真央選手には、ともかくゆっくり休んでほしい。それだけ。

肝心のアイスダンスについては、今月中旬の放映を観たら書こうと思っております。
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by higurashizoshi | 2012-04-07 23:30 | フィギュアスケート | Comments(0)

世界フィギュア選手権2012(その1)

毎年、フィギュアスケートの競技シーズンは、開幕したと思ったら嵐のように時が駆け、あっという間に終わってしまう。
ウインタースポーツなのだから仕方ないが、ちょうどシーズン開幕のプロ野球が大々的に取り上げられているのに比べて、一年に一度の世界フィギュアスケート選手権なのに新聞の扱いはこんなに小さいよ? シーズンはもう終わってしまうというのに? こんなすごい試合がおこなわれたんだよ? と思ってしまう。フィギュアファンだったらみんな思うのだろう。

今シーズンの競技はあと、国別対抗戦を残すだけ。世界選手権が終わり、しばし怒涛の試合内容をリピートしつつ脱力感。ああ、終わったんだなあ。
去年は震災のため東京開催の予定がモスクワ開催に変更、時期も4月にずれ込んだ世界選手権。今年は例年通りこの時期に、フランスのニースでおこなわれた。
ただし、今年は全米選手権、ヨーロッパ選手権を生中継で放映してくれた素敵チャンネルJSPOTS4が、なんとなんと肝心の世界選手権を生中継しない! しかも録画放映は4月7日からってどうゆうこと!?
それが何を意味するかというと、開催時は地上波でしか観られない。ということは、ほぼ男女シングルしか観られない、ということ。ペアとアイスダンスは地上波放送ではほとんど無視されている(日本の選手が一握りしかいないため)。
あああ…一番待っていたアイスダンスが4月の半ばにならないと観られないとは! それまでに観たければyoutubeのちっこい荒い動画を観るしかないということだ。
ああ、ない金をつぎこんで契約してるのにJSPOTS4よ、こんなところで裏切るとは! もう素敵なんて言ってやんない!

…と、この理不尽にブーイングしつつ、地上波の放映はもちろんばっちり録画オン、かつテレビ前に女3人がかぶりつきで、ともかくも男女シングルをじっくりと見せていただきました。
なんといっても今回は男子でした。特にフリーでした。凄いものを見せていただきましたよ。

今季の最注目は17歳の羽生結弦選手。タタと同い年ということもあってジュニアのときから応援していたが、とにかくケタ外れの選手になりつつある。
去年の震災時は仙台のホームリンクで被災、自宅は半壊、その後夏にリンクが再開するまで各地のアイスショーに出ながら練習してきたという、羽生選手にとって忘れられない厳しいオフシーズンだったと思う。
被災地を背負って、という気持ちもあっただろうし、競技が始まってからはとにかく攻めて攻めて攻めまくる試合内容。この人、顔は優しくて身体は細くてクニャクニャで気が抜ける感じなんだけど、いったんリンクで演技に入ると別人化する。
特に今季のフリープログラム「ロミオとジュリエット」は彼に直球はまりプロで、あるブログで《これではジュリエットの一家全員殺してしまいそう》と言われていた(思わず納得)。
しかも四回転ジャンプの精度がどんどん上がってきて、彼のジャンプはスケールがすごく大きいのでとにかく迫力があり、かつ美しい(これは昨夏に大阪のアイスショーで実物を見ての感想。このときのトリプルアクセルの美しさは衝撃的だった)。

もちろん初出場だった今回の世界選手権、ショートプログラムは気負いが先に立った感じでいくつかミスをおかし、7位発進に。
まあいくら急成長してるとはいえ、まだ17歳になったばかりだし、初めての世界選手権だし、そんなもんちゃう? と思っていたのが大間違いだった。こやつはとてつもなく度胸と根性のある少年であった。おそれいりました。結果はなんとフリーだけなら2位、総合3位、夢の250点越え。羽生選手の細っこい首にメダルが飛んできてしまったのだ(動画はこちら)。

このフリーの内容が凄かった。会場大興奮。なんといってもジャンプ。最初に完璧な四回転を決め、次々に鮮やかにジャンプを成功。しかもそのあと、ストレートラインステップでいきなり転倒! フランスのお客さんが悲鳴をあげ、頭をかかえる! と、ロミオは直後に立ち上がり、何のダメージもなくいきなりトリプルアクセルのコンビネーションを決める! 怒号のようなどよめきと拍手。
最後の渾身のステップでは、確かにジュリエット一家が、いやジュリエットすら逃げ出しそうな(それではだめやんか…)鬼神のごとき迫力で舞い、そしてずっと課題だった、スタミナ切れで失敗してきた最後のトリプルサルコウも何とか成功させ、フィニッシュ。
ものすごいアドレナリン出っ放しの眼力ガッツポーズのあとは、突然別人化が終了。
全てを出し切った少年に戻って涙を流した。ふにゃふにゃになってコーチのところに戻って抱き合う元ロミオ。
このギャップの大きさ、実は意識してやってるんじゃないかと疑いたくなるほど。こういうところも含めて、とにかく人の目を引きつける力がハンパじゃないのである。

最後の右手を挙げて天を指差すガッツポーズは、彼があこがれているプルシェンコ選手を意識したものだと思えたし、これひそかに鏡の前でひとりで練習してたんじゃ…と考えてしまった。
リンクサイドでコーチに持ってもらうティッシュのボックスカバーが必ずくまのプーさんだったり、ドリンクのカバーがプログラムごとの衣装とおそろいで替わっていたりと、これはこだわりなのか、それともキャラクター作りなのか。私が思うのは、彼は実は非常に野心家でしたたかな作戦家であるということ。
あるインタビューで、「世界チャンピオンになるのはもちろんのこと、他の選手を突き放し続けるような選手になりたい」というようなことを言っていたのを読んで、なるほど…と思ったのだった。羽生選手はたぶん、うまくいけば世界で勝てるかもしれない、というこれまでの日本人選手の枠を軽く超えていく。そういう「予定」をすでに持っている。自分をリンク内でもリンク外でもどう「見せる」かについても、よく考えている。
いよいよこんな選手が出てきたんだな、という感慨と、これから実際にはいったいどんなふうに成長し、どこまで行くんだろうという期待と不安。しかもタタと同い年。これはもう来シーズンも眼が離せないなあ。

というところで高橋大輔選手をはじめ、ほかの選手については次回。
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by higurashizoshi | 2012-04-06 21:35 | フィギュアスケート | Comments(0)

そして、レクイエム

昨日に引きつづき、フィギュアスケート世界選手権の話。今度は女子シングルであります。

今から一年あまり前、バンクーバー五輪のときには、フィギュアスケートの女子の頂上対決はキム・ヨナ選手と浅田真央選手だった。それ以外の選手たちとは完全に水をあけた状態で、この二人が戦う図式だった。そして勝ったのはキム選手のほう。パーフェクトな演技でまさに完全優勝。
しかし今シーズンが始まっても、国際試合にキム・ヨナ選手の姿はなかった。彼女が公に氷の上に姿を見せたのは、シーズン開始前の昨夏の韓国でのアイスショーくらい。以来、いろいろなニュースは流れてきたものの、シーズン最後のこの世界選手権に出場するという話には誰もが「ほんとに出てくるの?」と半信半疑だったろう。
通常は、シーズンを通して数々の試合を戦いながらプログラムを練り、修正を繰り返したうえで、選手たちはこの大舞台に臨んでくる。シーズン中まったく試合に出ず、1年ぶりの公式試合がいきなり世界選手権、というのは相当な冒険というか、賭けともいえる。
キム選手とずっとライバルとして比較されてきた浅田選手は、今シーズンはジャンプの根本的な修正に取り組んでいて不調。かろうじて全日本選手権でメダルを取り、代表の座にすべりこんだという状態だ。一年前とは、トップ争いの構図はずいぶん変わってしまった。

そんな今シーズン、変わらず安定した強さで勝ち進んできたのが安藤美姫選手だった。
女子で世界初の四回転ジャンパーとして十代で持てはやされ、トリノ五輪で惨敗。その後コーチを変え、日本を飛び出し、ケガや故障に泣き、アップダウンを繰り返してきた。いつの間にか落ち着いた大人の女性になっていて、日本の選手には珍しく流暢な英語を操り外国のメディアにもしっかり対応する。
以前はメンタルな部分に左右されて崩れることも多かったのが、今シーズンは序盤からともかく安定して強い。心が強い。インタビューなどを読んでいると、「何のために滑るのか」ということを自覚的に考えている選手なのだなあと思う。
そして今回、モスクワに移って開催された世界選手権に挑むにあたって、彼女が終始言っていたのは「自分のためでなく、被災した方たちのため、日本のために滑る」。だから、メダルがほしいと。
結果よりも自分のスケートができるかどうかが重要、と近年は言い続けてきた安藤選手だが、今回ははっきりした理由のためにメダルを取りに行くという。幼いとき事故で父親を亡くした経験が、彼女の中でこの震災を見つめる視点になっているのかもしれない。

さて今回の女子シングルの最大の注目は、なんといっても一年ぶりに姿を現す五輪女王キム・ヨナの新プログラムだった。ショートプログラム(SP)が「ジゼル」、フリーが「アリラン」。ジゼルも楽しみだが、私としては「アリラン」の曲を使って彼女がどんな表現と滑りをみせるのか、観るのが待ち遠しかった。韓国で世界のトップに立った初めてのフィギュアスケート選手である彼女が、自国の伝統歌曲をテーマにする。欧米の音楽を使うことがほとんどのフィギュアスケートのプログラムで、これは珍しいことだし、リスキーなことでもある。

1日目、SP。最終滑走グループがリンクに出てきたとき、浅田選手の生気のない雰囲気に驚く。それに全日本のときと比べてもあきらかにやせて、折れそうに細い。大丈夫なんだろうか、と思っていたら、やはり演技が始まると力なくジャンプの着氷ミス。最大の武器のトリプルアクセルだけでなく、ほかにも取りこぼしがいくつもあり、何より不安そうでこわごわ滑っているような表情が気になる。まさかの7位発進に。
安藤選手は、柔らかい曲調に乗せてきっちりとプログラムを滑り切って好調なスタート、2位につける。
最後に滑ったキム・ヨナ選手。ついに現れた!という思いで世界中のフィギュアファンが見つめている。これまでのイメージから優美な白い「ジゼル」かと思ったら、鋭く強い、黒いジゼルでびっくり。やはり巧い、美しい。と、ルッツジャンプでミス。それでも1位。

翌日、いよいよフリー。
初出場の村上佳菜子選手はSPの10位から挽回して7位。がんばりました。タタと同い年なので何となく応援してしまう。
最終滑走グループに入れなかった浅田選手。今日もまた生気がない。滑りも終始、スピードがない。トリプルアクセル、また決まらず両足着氷。ほかのジャンプもシングルになってしまう。たんにスケートの調子が悪い以上のものを感じる。とにかくゆっくり休んでごはんを食べないといけないと思う。

フリー最終滑走グループ、最初が安藤選手。今季の彼女のフリープログラムは、自身が「鬼プログラム」と呼ぶほどのツワモノ。疲れの出る後半に5つのジャンプを入れるという、通常ではありえない構成になっている。後半のジャンプには加点がつくので、ミスなく滑れば高得点が出るが、もちろんリスクも大きい。
この大変なプログラムを、今季彼女は国際試合で5度滑り、5度ともフリーで1位になっている。こんなに強い安藤選手は見たことがないが、この日も彼女は強かった。
3つ目のジャンプがステップアウトしたのが唯一のミス、あとはきちんと全てのジャンプを決め、ていねいに滑り切った。130点を越える高い得点が出た。

ロシアのレオノワ、マカロワの2選手と、全米チャンピオンのシズニー選手、昨季ヨーロッパチャンピオンのイタリアのコストナー選手。その間に、キム・ヨナ選手登場。プログラムのタイトルは「オマージュ・トゥ・コリア」。アリランのメロディを主にした壮大なオーケストレーション。ここまで自国を前面に出すプログラムは珍しい。
冒頭の三回転連続ジャンプは息をのむほど美しい完璧さ。滑りが強くなったぶん、はかなげな魅力は影をひそめて強さが前面に出ている。と思っていたら中盤のジャンプでミス。ぐらついたが立て直し、のびやかなスピン、ステップでぐいぐい引っ張っていく。やっぱりキム・ヨナはすごい。丸一年のブランクと、世間の雑音と、圧倒的な自国の期待の中でここまで自分を保てるとは。
しかしミスが響き、点数は伸び悩む。キム選手の得点が表示された瞬間、安藤選手の手に金メダルが飛び込んできた。

表彰台で落ち着いた笑顔の安藤選手と、その横で涙を流し続けるキム選手。この涙の理由はいろいろ取沙汰されたが、私はそれを見て、たった20歳の女の子がひとりで戦ってきた、その背中に負いつづけたものの重さを感じた。日本と違ってフィギュア選手の層がまだまだ薄い韓国で、彼女は一身に国の期待をまとって滑り続けてきたのだろう。
来季も彼女が競技を続けて、新しいプログラムがもっと深みを増していくところを観たいと思う。

大会最終日におこなわれたエキシビション。
上位入賞者たちが華やかで楽しい演技を見せた中、安藤選手がアンコールに応えて滑ったのは、モーツァルトのレクイエムのプログラムだった。昨季彼女がこれを滑りはじめたとき、これは亡き父親への特別な思いをこめたプログラムだと説明されていた。確かに情感のこもった滑りで素晴らしいと思ったものだ。
でも今回、目標どおりメダルを手にし、「日本のことを思いながら滑った」と言っていた彼女のレクイエムは、これまで観たものとちがっていた。ジャンプはほとんど入っていない。ただ滑りだけで見せていく。悲しみ、痛み、祈り。いろいろな感情が静かに彼女の身体から発せられてくる。しだいに涙があふれてきて、胸がいっぱいになった。私がこれまで観た安藤選手の演技の中で一番美しく、ほんとうにすばらしかった。

まだ放映されていないペアとアイスダンスは最後の楽しみとして残っているものの、これでもう今季の競技はすべて終わってしまった。長いオフシーズンの間、いったい何を観たらいいのだろう…と茫然としているミミと私であった。次の目標は、生でフィギュアを観ること。いつになるかは、わからないけれど。
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by higurashizoshi | 2011-05-03 22:02 | フィギュアスケート | Comments(8)

喪章をつけた選手たち

今シーズンから、にわかにフィギュアスケートにのめりこんだ母娘(ミミと私)。昨秋からこっち、地上波・BS・CSで観られるあらゆる競技会やショーを録画、観て観て観まくった半年間で、二人はいっぱしのフィギュア通になってしまった。
本来なら、3月半ばに東京で行われるはずだった世界選手権。オリンピックイヤー以外では、その年の世界一を決める最高位の競技会だ。世界のトップ選手たちが日本に集結するのをミミと指折り待っていた。
でも、東京での世界選手権は幻と消えた。言うまでもなく、震災のためである。原発事故が収束しないのが決定的だった。どの国のスケート連盟も、自国の選手を日本に送り出すことにノーといった。

その後紆余曲折があって、名乗りをあげたロシアで急遽1ヵ月遅れで開催されることが決まったときは、ほっとしたと同時に複雑な気持ちだった。自国開催の予定だった日本の選手の多くは、震災後チャリティーのショーをやったりしながらモスクワに向けて調整し、ずいぶん大変だったと思う。
日本からの参加選手全員が、ユニフォームに喪章をつけて臨んだ第101回の世界選手権。
男女シングルはCSで生中継をしてくれたので、今回はタタも引っぱりこんで3人でテレビの前に長時間かじりついて観た。
ミミも私も、一番のお目当てはアイスダンスなのだけど、ペアとアイスダンスは残念ながら後日放映。ともかくはシングル選手の生の戦いを見届けることにした。

もう全種目が終わってしまってこれを書いているので、だいぶ落ち着いた心境になっているとはいえ、とにかく大変な世界選手権だった。
男子シングル。金メダル候補はもちろん高橋大輔選手と、カナダのパトリック・チャン選手。このパトチャン、「僕には四回転ジャンプは必要ないね」なんて去年まで言ってたのに、ルールが改正になったとたんバンバン四回転を飛びはじめ、今シーズンのカナダ選手権では歴代最高得点を軽々と出してしまった人。
このパトチャンに対抗する大ちゃんは、もちろん四回転をプログラムに入れているものの成功率は低い。でも武器は世界最高のステップと表現力である。大ちゃんは昔は着飾ったヤンキーのお兄ちゃんみたいだったが、この数年で別人のようにノーブルな表現をするアーティストの域に達した。

さてショートプログラム(SP)を終わってみれば、パトチャンはあっさりとSP歴代最高得点を更新してトップ、織田くんが2位、大ちゃんが3位で折り返し。パトチャン、こんなに軽やかに飛んでほんとに四回まわってるの?と言いたくなるようなジャンプ。完璧すぎる。

翌日、いよいよフリー。最終滑走グループの最初がパトチャン。さすがに少々ジャンプの着氷ミスがあったけど、かなりよくまとめた。得点を見た瞬間、やっぱりねと思うが前人未到の歴代最高得点をさらに更新。別世界というか、宇宙に行ってしまった。織田くんも大ちゃんも、これではどうがんばっても金メダルには届かない。
織田くん。バンクーバー五輪の靴ひも事件、直後の世界選手権で惨敗と、昨シーズンは大変だったが今季は健闘中。とはいえ、彼につきまとう心配は、ジャンプの飛びすぎミス。
規定を超えて同じ種類のジャンプを飛びすぎて、大きく減点されてあとで号泣、というのが何度もあったのだ。――そしてそして、今回もなんと悪い予感が的中してしまった。トリプルルッツを規定以上飛んでしまった…。メダルが消えた瞬間。

そして大ちゃん。冒頭に四回転トゥループの予定。ピアソラの「ブエノスアイレスの冬」の旋律に乗ってジャンプの体勢に入って飛び上がった瞬間、信じられないことが起きた。スケート靴のネジが外れ、ブレード(刃)が靴から離れてしまったのだ。観客が息をのむ。私もテレビの前で息が止まった。

競技中にトラブルが起きたとき、演技中断が許される時間は2分間。それを過ぎると失格になる。リンクサイドに戻った大ちゃんにコーチやトレーナーが駆け寄る。CS放送での解説の杉田さんは、ネジを短時間で元通りにするのはかなり難しい、と言っている。トレーナーが必死で靴の修復作業をしているのが映し出される。観客席が映る、日本からの応援ファンが泣いている。冷徹な顔で2分を測る会場スタッフが映る。

なんとか時間内にリンクに戻れたのが奇跡だった。客席から大歓声。でもみんなもうわかっている。演技再開は、中断したところから始めなければいけない。四回転ジャンプをもう飛ぶことはできない。つまり、メダルに届く点数を出すことは不可能、ということだ。
この時点ではテレビの前で涙をこらえていたものの、大ちゃんが思いをこめてステップを踏んでゆくのを見ているうちにぼろぼろ落涙。この大舞台でなぜこんなことが起きたのか、まるで日本に起きた出来事を象徴するようでたまらない。だからこそアクシデントのあとの彼のあきらめない滑りが尊い。
大ちゃんが滑り終え、予想通りに点数は抑えられ、涙がかわかないうちの直後の滑走が小塚くん。

たぶんリンクサイドで一部始終を見ていただろう小塚青年に、そのとき何かが舞い降りたのだ。SPは振るわず6位だった彼。でも今は滑りはじめた直後から、柔らかくて落ち着いている、いつもと何かが違う。これはなんだろう?と思っている間に彼は完璧な四回転トゥループをふわりと降りた。
ああ、この小塚くんには何かがついているのだ…。ごくたまに、スケーターにこんな4分半が訪れることがある。まったく不安なく、まるで予定されていたかのように、完璧なプログラムを滑ることができる。

二人の先輩が相次いでトラブルに倒れたのを見て、奮い立った…というのでもないのだろう。むしろまったく肩に力の入らない、自然な表情と滑りに見えた。
すべてのジャンプ、すべてのエレメントをひとつの傷もなく滑り終えて彼が最後のポーズで静止したときには、もう涙がぼろぼろ止まらない。鳥肌まで立っていた。
得点は驚異の180点越え。総合得点ではパトチャンに及ばなかったが、小塚くんは銀メダルをつかんだ。

いつも日本の選手を応援しているわけじゃない、むしろ外国のほうが好きな選手の数は多い。愛国心みたいなものとは縁のない私だけど、今回はそういうのとは違うのだ。東京開催がだめになって、喪章をつけてモスクワにやってきた日本の選手たち。それを応援するファンたちの胸にも、この震災で日本が受けた深い痛みや悲しみが根をおろしている。
メダルがすべてではないのはもちろんだが、日本にメダルを持ち帰り、少しでも心晴れる出来事にしたいという思いは選手たちに共通なはず。それなのに果たせなかった織田くんも大ちゃんも口惜しかっただろう。
相次いで、予想もしなかった事態に沈んだ二選手。その窮地を、小塚くんの奇跡のような演技が救ってくれた。
この一部始終を見ていた人の中には、この1ヵ月あまりの日本の現状を、どこかこの試合に重ねて見ていた人もいるのではないか…と思う。

翌日の女子シングルを前に、すでに精力を使い果たした感のある私だったが、女子もまたすごいことになっていた。それは次回に。
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by higurashizoshi | 2011-05-03 00:06 | フィギュアスケート | Comments(0)

フィギュアを観て泣いた日

昨日は朝からオリンピックのフィギュア男子フリーを生中継でずっと観ていた。最終滑走のひとつ前のグループあたりから、テレビの前でなぜか正座になる。
メダル候補だった《四回転の代名詞》フランスのジュベール選手。ショートプログラムでまさかの大崩落のあと、フリーもまったく飛べず信じられない順位に。悲しい。
小塚選手が四回転ジャンプを降りた。その後に転倒もあったが立派な演技。そしていよいよ最終滑走グループ6人、もう心臓がバクバクしてくる。どうしてこんなに緊張しているのか、自分でも不思議。たぶん私は選手の自滅を恐れているんだ、特に高橋選手の。彼は《ガラスのハート》とずっと言われてきた。4年前のトリノ五輪も含め、メンタルな弱さで大きな競技会で自滅してしまう彼を何度も見てきた。力をつくしての失敗ではなく、内側から崩れてしまう。あきらめて、投げ出してしまったとすら感じられる試合もあったほど。
その後大ケガと手術、復活をへて、今の高橋選手は心もずいぶん強くなったと思えるけれど、なんといってもこれはオリンピック。4年に一度の、ただ一度きりのチャンスに、最上の演技をしてみせなければいけない。国民の期待という想像もつかない重圧を負って。考えただけで足が震え出しそうだ。

最終滑走グループ1番目のアメリカのライサチェック選手が神がかり的なパーフェクトで演技を終えた。この瞬間、彼が金メダルかも、と思う。ショートプログラムも、滑り終えて本人が感激のあまり泣き出すほどパーフェクトだった。なんと強い心。正当な勝者になるのはこういう人なんだろうと思う。
そして2番目の織田選手。《オリンピックの魔物》が思いがけないところに手をのばし、彼をつかんだ。スケート靴のひもが切れ、はずれてしまって、演技を続けられなくなったのだ。生中継で観ているこっちも息がとまり頭が真っ白になる。よりによってオリンピックのフリー演技中にこんなことが起きるなんて。演技再開してちゃんと滑り終えた姿に温かい拍手が沸くが、織田選手は悪い夢を見ているような表情でリンクを降りた。
3番目、スイスのランビエール選手。持ち前の優雅な演技力と世界一のスピンを見せたが、ジャンプも含め全体に精彩がないまま終わる。彼もメダル候補だったが得点が伸びず、これは届かないな、と感じる。

そして、高橋選手の演技が始まった。フェリーニの映画『道』を主題にしたプログラム。今シーズン何度も観てきた、夢からさめるシーンの冒頭。
そして四回転ジャンプを飛ぶ、と明言していた通り、彼は飛び、そして転倒した。昔の彼ならこの最初の失敗を引きずり、ずるずると自滅していくはず。そう思った瞬間、私は画面の中の高橋選手の顔に釘づけになった。転倒から立ち上がり滑り始めた彼は、これまで見たことのない、包み込むような笑顔で『道』の世界に入っていった。ジャンプも次々と降りていく。ステップを滑っていく繊細なライン。指先まですべてに魂がこめられているようだ。ああ、今の彼の心には不安も緊張も予測もない。この透き通った表情の中で彼はこのプログラムを表現するだけの純粋な存在になっている。こんな大舞台で、こんなに心をまっさらにして滑ることができるなんて。気がつくと私はぽろぽろ涙をこぼしていた。フィギュアを観ながら泣いたなんて生まれて初めてだ。
滑り終えた高橋選手のすがすがしい笑顔、ああメダルを取らせてあげたい。

5番滑走はアメリカのジョニー・ウィアー選手。わが家では「ジョニ子」と呼ばれている。バレエダンサーのような優美な演技、中性的なフェロモンとキュートな個性。長く不振に苦しんだジョニ子、今シーズンはすばらしく調子がいい。ショートプログラムもノーミスだった。今日のフリーも力強く、スピンで少しミスをした以外はすばらしい出来。でも得点は伸びない。観客からブーイングが出る中、キス&クライ(得点を待つ席)でファンから投げ入れられたバラの冠をかぶったジョニ子(似合いすぎ)は笑顔でブーイングをおさえるしぐさ。さすが、人気者でありつづけるわけだ。
ほっとなごんだところで、ついに最終滑走。宇宙から帰還した帝王・プルシェンコ選手が最後の最後に登場した。四回転ジャンプにこだわり、フィギュア男子の四回転回避の流れを変えるために復帰したといわれる彼。数々の挑発的な発言、圧倒的な技術力、まさに世界の俺様。十代のころから彼の演技を観ているが、昔は天才ジャンパーである以外特徴のない選手だったのに、プロで表現力を身につけ復帰した今シーズンは27歳という年齢にもかかわらず他を寄せつけない別世界の滑りをする。もちろん四回転はいともたやすく飛ぶ。彼がパーフェクトに演技を終えれば金メダルは間違いない。というよりむしろ、彼はもう金メダルを手に持ってリンクに立っている。それをフリーの演技4分30秒の間にポトリと取り落とすかどうか、というほうが正確だ。
そしてプルシェンコは滑り始めた。四回転を飛んだ。けれど複数ではなかった。しかもほかのジャンプは軸が曲がり、見たこともないような荒さ。気持ちを入れた情熱的なステップ、スピンで最後は客席を盛り上げたが、彼の手のひらからすべり落ちていく金メダルが見える。緊張か、不調か、原因はわからない。金メダルは氷の上をしずかに滑ってゆき、四回転を飛ばず、パーフェクトな演技をしたライサチェックのもとへ届いた。

表彰式で、一番感激をあらわして涙を浮かべていたのは高橋選手だった。銅メダル。ほんとうにほっとした。運・不運ということでいえば、彼は運を自分の力で呼び寄せたのだと思う。そう、運は呼び寄せることができる。でも不運はただ、落ちてくる。織田選手の靴ひもを切り、プルシェンコ選手のジャンプをゆがませる。
四回転ジャンプを飛ばなかった選手が表彰台の真ん中に立ち、アメリカ国歌が流れた。プルシェンコ選手は銀メダルを胸に、上っていくアメリカ国旗から顔をそむけている。そして四回転にチャレンジし失敗した高橋選手は穏やかな笑顔になって星条旗を眺めている。
男子の四回転論争は今回の結果を機に、さらに過熱するだろうといわれている。回避するのはスポーツではない、という意見と、困難なジャンプに固執せず演技の質を高めるべきだ、という意見と。結局、昔からいわれている、「フィギュアはスポーツか芸術か」という議論にたどりつく。
私は、一日たっても、高橋選手のあの演技が頭から離れない。アスリートとして挑戦し、なおかつプログラムを芸術にまで高めた姿だったと思う。だから観ている人の心を動かし、浄化するような感動すら与える。彼がこんな存在になりうるなんて、失礼ながら昔は思ってもみなかった。テレビの前であまりにエネルギーを使いはたし、昨日はその後ぼーっとしていた。耳の中で『道』のテーマ曲が何度も何度も鳴っていた。
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by higurashizoshi | 2010-02-20 16:57 | フィギュアスケート | Comments(4)

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