ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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国別対抗戦2013 (その2)

女子は、やはり最後の最後を笑顔で終われたあっこちゃんに感動。
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まことに浮き沈みの多いシーズンで、間違いなく鈴木明子史上最高プロのひとつであるFS『オー』を、時には胸いっぱいになって涙し、時にはがっくりとへたり込んで観つづけた半年間だった。
なかでもあのNHK杯の演技は忘れられない。第2の故郷・仙台への思いをこめたあの日の『オー』は、私の中でいつまでも羽ばたいている。柔らかく、優雅で、美しくそして強い鳥。
四大陸、世界選手権と不調が続き、この国別ではやっといいイメージで終われたことは本当によかった。ふたを開けてみれば、女子1位。世界選手権のとき、ソチの枠取りに貢献できず涙を流していた彼女が、今回は浅田選手の不調をカバーする形になった。

来季はとうとう、現役最後のシーズン。ソチに行き、自分の納得のいくスケートをやりきること。あっこちゃんの願いがかないますように。



2位に入ったのは昨シーズン無敵だったアシュリー・ワグナー選手。今季は後半にやや失速があったが、この国別では安定した力を見せた。
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長らくスター不在のアメリカ女子の中で、激しい競争を勝ち抜いて頂上に立った彼女。
みなぎる自信とオーラ、圧倒的な安定感。ソチに向けてどこまでこの力を伸ばしていくことができるだろうか。今回3回転×3回転も入れてきたのは来シーズンへの布石なのだろう。



3位はグレイシー・ゴールド選手。恐れを知らない伸びやかな17歳。
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お顔は可憐なれど、どっかーん!と跳ぶジャンプも速いスピンも迫力満点。ただし表現にはまだまだ情緒のかけらもございません。器は確かに大きいけれど、どこまでビッグなスケーターになれるかは、まだまだ未知数。
それにしてもアシュリーにしてもグレイシーにしても、アメリカの選手のインタビュー時の立て板に水っぷりは本当にすごい。スケートじゃなくてディベートの選手みたいです。



4位はアデリーナ・ソトニコワ選手。おそるべきロシア娘たちのひとり。ジュニア時代からあまりにも注目されていたため、シニアに上がってしばらくは体形変化もあり伸び悩み感が強かった。
ジャンプもやっとまた安定してきて、彼女らしい豪快なエッジワークでぐいぐいと滑ってみせてくれるようになった。
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今の難をいえば、プログラムでしょう。やぼったく見えてしまうプロではもったいない。来季はアデリーナの独特の力強さを生かした、しかもセンスのいいプログラムを!



浅田真央選手は5位。この結果よりも、その後の「来季で引退」報道の大波がすごすぎて、振り返るいとまがなくなってしまったような。
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あとにも先にもいないような才能とスター性を兼ね備えた彼女は、言動ひとつひとつこれほど注目され騒がれながら、ある意味とても冷静に自分を見つめてものごとを判断しているのだなあ…と改めて感じた。
それはひとりのアスリートとして正しい姿勢であると同時に、日本のフィギュアスケート界を背負って立つ!といった気概とは、彼女は別の場所にいるということでもある。そして、そういう自由があっていいのだ、とも思う。これもまた、浅田選手らしさということなのだろう。
来季がほんとうに充実した集大成になりますように!



変わってペアの結果。
長らく世界の頂点に立ってきたドイツのサフチェンコ・ゾルコビー組にかわって、今シーズン盤石の強さを見せてきたロシアのタチアナ・ボロソジャル/マキシム・トランコフ組。
この国別ではシーズン終わりの疲れもあってか珍しくミスが目立ったものの、圧倒的強さでもちろん1位。
ボロソジャル選手はウクライナ国籍で別のパートナーと組んでいたころは、トップにいけるほどのレベルではなかったのが、同じく別のパートナーとのコンビを解消したトランコフ選手と組んでから目の覚めるような進化を見せた。
組み替えた当初、ずいぶん相性のよさそうな二人だな~とは思っていたものの、カップル競技はふつうユニゾン(二人の調和)の成熟に時間がかかるため、まさかこんなに早く、ここまですばらしいペアになるとは思っていなかった。
ウクライナからロシア国籍に変わることは、いろいろな意味で容易ではないことだったと思うし、喜怒哀楽の激しそうなトランコフくんと一緒にやっていくのはなかなか大変なのではと思うのだが、タチアナさんはすべてをしっかりと受けとめて昇華しているようにみえる。
彼らの演技は非常にダイナミックなのに、技術力を持つペアにありがちな大味さがなく、いつもすみずみまで神経の行き届いたドラマティックなプログラムを堪能させてくれる。衣装もとても美しい! 今季FSは川井郁子さん演奏の『ヴァイオリン・ミューズ』。
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いまや二人の眼には母国での金メダルしか映っていないはず。来シーズンどんなプロを持ってくるか楽しみ!



2位はカナダのメーガン・デュハメル/エリック・ラドフォード組。
今季は彼らにとって大きな飛躍のシーズンとなった。元気娘のメーガンと、いつも沈思黙考な感じのエリック。身体能力を生かした思い切った大技が決まり、メーガンの笑顔がはじけ出すと観客のテンションもどんどん上がる! 
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気づけば世界のトップペアの仲間入りを果たし、ソチに向けてさらに気合が入っているだろうなあ。来シーズンはなんとエリックくんの作曲した音楽をプログラムに使う予定だとか。そちらも興味深い。



順位は4位なれど好きなペアなので紹介します。
フランスのヴァネッサ・ジェームス/モーガン・シプレ組。
カナダ生まれ、アメリカ育ち、イギリス国籍だったというヴァネッサはフランスに移ってからもパートナーを変えて…何人目なのかな? やっと相性のいいパートナーと組めた気がする。
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フィギュアスケート界にもアフリカ系の選手はずいぶん増えているけれど、ペアのトップ選手には意外に少なく、ヴァネッサの美しい身体のラインにはいつもほれぼれとしてしまう。この二人の演技には一般のペアにはない優雅さがあって、スケーティングも綺麗。アイスダンス好きとしてはやはりこういう美ペアにひかれてしまうのだ。



というわけで、次回は国別対抗戦、アイスダンスのお話を。
いやー、いつもながら競技がとっくに終わっても実にスローモーに書いている私です。
でも国別の話も次回で終わりですから! ああシーズンが終わってさびしいなあ。
明日からちょっと東京に出かけてくるので心の中でさらに熟成して、もわもわしてるのを帰ってから書きますね。うーん、引っぱる引っぱる。
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by higurashizoshi | 2013-04-28 18:48 | フィギュアスケート | Comments(0)

国別対抗戦2013 (その1)

国別対抗戦が終わり、フィギュアスケートの2012-2013シーズンがとうとう終了。選手のみなさん、ファンのみなさん、ほんとうにお疲れさまでした。
短い休養のあとは、選手はみんなソチ五輪シーズンに向けてバク進していくことになる。今季は五輪直前のシーズンらしく、なかなか波乱の多い、ファンにとっても気持ちの休まらない期間だったと思う。

今季最後のISU競技会となった国別対抗戦。
世界選手権も終わったあとの、かなりイベント的要素の強い大会とはいえ、ソチ五輪では団体戦が初めて採用されることもあって今回は注目度も高かった。ただし、国際的にみてこの大会がどこまで評価されているのかは…うーん。日本のスポンサーと集客力頼みの、日本でしか開かれないこの国別対抗戦という競技会。どこまでも主役は日本、ジャッジの出す得点もいささか日本に甘いのではと思われる。

数日前の新聞に、日本のフィギュアスケート競技会のチケット代とアメリカとの比較が載っていて、かなり衝撃をうけた。昨シーズンアメリカでおこなわれた四大陸選手権のチケット代が、最も高額な席、全日通し券で(たぶん4日間)1万5千円ほど。
男子フリーだけ、ショートダンスだけ、という1プログラムのチケットで、一番安い席ならなんと千円を切るのだ!ありえん!
ひるがえって日本の現実。
今シーズン大阪でおこなわれた同じく四大陸選手権(うちも行ったやつですね)、同様に全日通して(4日間全部)一番高額な席を買ったら…8万円!
だって一日だけのアリーナSS席が2万円ですもの。アメリカだったらそれよりずっと安い値段で、4日間連続でアリーナSSに座り続けられるというのに! 
ああ、アメリカに行きたい… というか、日本のチケット代ってやっぱり異常だったのだ。
オペラやバレエのチケット代見ても全然高いと思わなくなるという自分も、やっぱり異常だったのだ。

そんな異常なチケット代なのに、四大陸もお客さんがスタンド上までぎっしりだったなあ。
そしてこの国別対抗戦もテレビ画面の中は怖いほど満席、満席。アメリカやカナダでも今はフィギュア人気は下降しているそうで、日本以外の会場での競技会は、テレビで見ていても「あらまー」というくらい空席が目立つ。
逆に、諸外国の方からすると、日本のフィギュアファンはよっぽどお金持ちなのねと思われているかもしれない。もちろん、そういう方もいらっしゃるでしょうが、うちのように悪魔のささやきに負けてふらふらと埋蔵金に手をつけ、あとで青くなっているというファンもいるにはいるはず。それでもこりずに、またチケット争奪戦にインしてしまうというフィギュアの魔力…ああおそろしい。

来シーズンは五輪にむけてさらにチケットを取るのはむずかしくなるだろうなあ。しかもISUは日本をすっかりあてにして、来季は東京でNHK杯、グランプリファイナルは福岡、五輪後の世界選手権は埼玉と、日本ローカルが過ぎるんじゃないの?という状況。ふ、福岡なら行けるんじゃ?などとまた悪魔のささやきが聞こえて耳をふさぐ私…。

さて、国別対抗戦に話を戻しましょう。
そんなこんなで《ニッポン祭り》なイベントとはいえ、今季最後の競技会であることは確か。特に世界選手権で沈んだ高橋大輔選手と鈴木明子選手にとっては、今季のプログラムを最後の最後で浮上して完結させられるかどうか、ソチシーズンに向けてかなり大事な大会になった。

まずは結果から。国別の順位は、

1位アメリカ
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2位カナダ
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3位日本
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となりました。
日本だけペアの出場がない中で、3位に入ったのは立派。ま、少々お手盛り感のある得点が出たとはいえ…。
マーヴィン・トラン選手とのペアを解消した高橋成美選手は、シングルの木原龍一選手と組んだばかりで、まだまだ競技に出られるところまでいかず、来季に間に合うのか?という感じ。
実はソチの団体戦に日本が出場できるかどうかすら確定していないということで、団体戦なんかいらんのちゃう?と思っている私には「それならそれで別に」なのだが、やたらソチで団体戦!と騒ぐメディアはそのへんちゃんと報道した方がいいのでは…と心配してしまう。


男子順位。
1位高橋大輔選手、2位パトリック・チャン選手、3位ケヴィン・レイノルズ選手という結果でした。

大ちゃんですが、心臓バクバクで観てました。もうこのところずっとバクバクなのだけど、にわか作りのSP『月光』も、天国と地獄を繰り返したFS『道化師』も、これでほんとに最後だと思うと。

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フリーを終えた直後、この笑顔が見られたことにファンはみんな本当にほっとしたと思う。
この大会、今季から変更したエッジを、元のものに戻して挑んだそうだ。エッジの変更がジャンプ不調の原因のひとつではないかと気づき、最後の国別でそれを試せたことはきっと来シーズンにつながってくるのだろう。
少し手をついたものの、やっと4回転をきちんと降りることができたし、迷えるトリプルアクセルも帰ってきたし、いろんな意味で山あり谷ありだった今季の最後にふさわしい出来だったのではと思う。
今回絶不調だったチャン選手に勝ってしまったことは、いわばオマケ。まあそれでも、最後に上位に立って終わったことは、気持ちの上ではよかったかな。

そしてちょこっと本音を言わせてもらえば、必死で滑り込んだ『月光』のしめくくりを今回観て、来シーズンの現役最後のプログラム、私はモロゾフ振り付けにしてほしくないな…と改めて思った。
『月光』は高い技巧を見せる美しいプログラムではあるが、振り付けとしては正直、凡庸だったと思う。
モロゾフコーチの振り付けるプロは選曲、テーマともにベタなものが多くて、高橋選手のように独自性の高い表現力のある選手に合うプロを作れるコリオグラファーはほかにいる。
ほらいるじゃないですか、イタリアとか、アメリカとか、日本にだって…!

本人が来シーズンに向けて何をどう選択していくか、オフの間も情報から目が離せないなあと思う。ともあれ、大ちゃん、怒涛のシーズンほんとうにお疲れさまでした。



パトリック・チャン選手。
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どうしてこんなに点が出るの?といつも言われるパトチャン。転倒しても、パンクがあってもダントツで勝つ不思議。
今季は特に後半ずいぶん失敗も多かった。でも得点は高いのだ。
私も以前はよくわからなかった。ところがこれだけフィギュアばっかり観てると、素人ながらだんだん「なるほど!」と思うようになってきた。
とにかく、最初のひと滑りからして別世界なのである。ふっ、と蹴ると、するるるーっとリンクの端までいってしまう感じ。氷じゃなくてクリームの上を滑っているみたい。そしてどんな複雑な動きになってもずっとクリーム。足元を見ているだけで美しさにうっとりする。滑りそのものでこれだけ感動させられる選手はほかにないと思う。

すべての評価の基本はスケーティング技術なのである。そこにあれだけ完璧なジャンプ技術が乗っかってしまえば、もはや無敵。多少の失敗があっても、失敗の派手さに目をくらまされてはいけない。パトチャンの場合、泣いても笑っても高得点が出るようになっているのだ。
にしても、どうか衣装と髪型のマッチングは考えてね!
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真に芸術的かどうかは別にして、来季に続行がすでに決まっているSP『エレジー』は本当にすばらしいプロだと思う。



ケヴィン・レイノルズ選手。
今年は大躍進のシーズンになったケヴィンくん。この国別ではフリーが会心の出来すぎて、こんなことになってしまいました。
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こういう派手なパフォーマンスをするタイプではないと思うので、よっぽどよっぽどうれしかったんだろうな。
来シーズン、どこまでいけるか本当に楽しみな選手のひとり。



無良崇人選手。
今シーズンの無良くんは別人でした。一皮むけたどころの話ではありません。チャンスをつかんだだけでなく、そこからが凄かった。落ち着いて勝負に挑める大人の選手になり、いまやオーラが出始めてますぞ!
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来季、小塚選手も織田選手も町田選手もまた一線に戻ってくるので、つわものたちの中からこの成長を生かして勝ち上がることができるかどうか。注目です。



ジェレミー・アボット選手。
今季のプロは二つとも大好きだったなあ。SP『スパイ』はかっこよかったし、FS『彼を帰して』にいたっては、初めて観たとき感動のあまり涙ぐんでしまった。
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アボット選手もスケーティングが本当に美しくて、身体の使い方、空間のつかみ方がすばらしい。この奥行き感、そして繊細な表現力は彼の抜きんでた特性。
これで、これで、ジャンプさえ(崩壊)…
「ジェレミー、もうジャンプ飛ばんでええから」とテレビに向かって何度語りかけたことか。
彼も年齢的にいって、来シーズンが最後の可能性もあり、どうか納得のいく結果を!と願うばかり。



ブライアン・ジュベール選手。
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また日本に来てくれてありがとう、と思わず合掌してしまいたくなるブライアン。
あくまでも4回転にこだわり、跳び続けてきた男ブライアン。
ジャンプ以外の要素がどうしても薄くなってしまう弱点も、美男なのになぜかあか抜けないところも、全部含めて後にも先にもいない偉大な選手ブライアン。
彼をきらいだというフィギュアスケートファンはいない、そんな気がする。
来シーズンは29歳。最後まで戦い抜いて笑顔を見せてほしい!



そしてこの国別対抗戦の男子で、どうしても触れておきたいのがロシアのコンスタンティン・メンショフ選手。
4回転ジャンパーの彼は、27歳で国内選手権初優勝、グランプリシリーズに初進出と遅咲きの選手で、今シーズンもカップオブロシアで優勝。にもかかわらず、世界選手権出場権を若い選手に奪われてしまい、当人も納得がいかず相当な落胆ぶりだったらしい。
だからこの国別の出場選手になったことをとても喜んでいるという記事を読んで、がんばれメンショフくん!と思っていた。
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ショートは4回転×3回転を含めジャンプすべてを完璧に降りて、初めて80点台をマーク。
迎えたフリー、4回転を二度決めたあとに跳んだトリプルアクセルで転倒。
右肩を強打し、脱臼。なんとか演技を続けたい意思を見せたものの、やはり無理で、そのまま救急車で搬送されていき、棄権となってしまった。
あまりの不運に、本当に茫然としてしまった。せっかく今季最後にすばらしい結果を残せるところだったのに…
しかもこのアクシデントのために、直後の滑走だった高橋選手の出番が突然早まり、ショック状態のところへさらにバクバク状態になってしまった私。今回の国別で一番忘れられない瞬間だった。

あとから聞いた情報では、メンショフ選手は数週間の静養で練習に復帰できそうとのことで、今はもう回復していることを祈りたい。来シーズンも、地味で遅咲きの彼をひっそり応援していこうと思う。



国別対抗戦、ごく簡単に書こうと思っていたのですが、書き始めたらやっぱりこんなことに…
まだ男子しか書いてないという。
まあ、もう後につかえる試合もないわけだし。急がずぼちぼち書いていくので、またゆっくりおつきあいください。
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by higurashizoshi | 2013-04-24 01:13 | フィギュアスケート | Comments(0)

偽りなき者

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2012年公開 デンマーク
監督 トマス・ヴィンターベア
脚本 トマス・ヴィンターベア トビアス・リンホルム
出演 マッツ・ミケルセン アレクサンドラ・ラパポート トマス・ボー・ラーセン ラース・ランゼ 
アンヌ・ルイーセ・ハシング シーセ・ウォルド




デンマークの片田舎の小さな町に住むルーカスは42歳。
離婚と失職を経験した彼は、今は町の幼稚園の先生として勤めながらひとり暮らしをしている。ひとり暮らしとはいっても、子どもの頃からともに育った仲間たちに囲まれ、共同体の一員としてそれなりに充実した日々を送っていた。
あるとき、離婚のために別れ別れになった一人息子がルーカスのもとに来て暮らすことになり、彼の心は一気に明るくなる。おまけに職場の同僚の魅力的な女性との恋愛もはじまり、ルーカスの人生に再び光が射しはじめた矢先、信じられない暗転が訪れる。
幼なじみの親友テオの娘で5歳のクララが、ルーカスに性的虐待をうけたと言い出したのだ。
クララはルーカスの幼稚園の園児でもあり、犯行は園内でおこなわれたという。まったく身に覚えのないルーカスは必死に無実を訴えるが、またたく間にこの《事件》は園の保護者から共同体すべてに知れわたり、彼には《変質者》のレッテルが貼られ、身近な人々は手のひらを返したように次々とルーカスから離反していく。
そして懸命に父を信じて支えようとする息子の目の前で、ルーカスは逮捕され、警察に連行されてしまう。

やがて証拠不十分で釈放され、やっと息子との二人暮らしを再開するルーカスだが、本当の地獄はそこから始まった。司法の裁きを受けないのなら私刑を。憎悪ともいえるバッシングは、実際に暴力の形となって次々と彼を襲うようになる。
家の窓ガラスが何者かに割られる。食料品店で買い物を拒否され叩き出される。仕事を、仲間を、信頼を、そして生活の安全も失い、人としての尊厳を奪われて、生き延びるすべのない淵にまで追いやられるルーカス。
そしてある出来事を機に、どこまでも彼を信じてくれる息子も、数少ない擁護者の友人も遠ざけて、彼はたったひとりでこの現実と対峙していく道を選ぶ。
相手の見える暴力と、相手の姿の見えない暴力。後者がよりいっそう怖ろしいことを、この出来事は痛いほど私たちに訴えてくる。
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なぜ幼いクララは《嘘》をついたのか。
なぜルーカスはここまで追いつめられなければならないのか。
そして、ルーカスはこの絶望的な現実をどう生き延びていくのか。

ルーカスは決してヒーローではない。ちょっと依怙地なところのある、優しいが無骨で不器用な男だ。しかしマッツ・ミケルセン演じるこのルーカスは、抑えてもにじむ色香のある、ハンサムで魅力的な男でもある。そこが周囲の男たちとは違っている。
彼の離婚の理由は説明されないが、冒頭、別れた妻が息子を会わせたがらないことからも、こじれた経緯があったことが類推できる。そして彼以外全員が女性の幼稚園の職員の中で、いささか浮きながらも異性としての魅力をルーカスが放っていたことは疑いがない。
そんな彼に恋したのは同僚の女性だけではなかった。5歳のクララも、先生でもあり父の親友でもあるルーカスに、異性の香りを感じて恋していたのである。
あどけないクララの、ほのかな初めての恋。そのかわいらしい想いが、ある感情の行き違いと、偶然の重なりによって、おぞましい《事実》の告発に仕立て上げられていってしまう。そのリアリティには戦慄するほかない。

デンマークには、「子どもは嘘をつかない」という考えが根強いという。子どもの発言が軽んじられやすい日本とは逆に、子どもの言ったことは、子どもであるがゆえに信用される。
クララがあいまいに発したいくつかの言葉が、大人の受け取り方によって雪だるま式に《事件》として形づくられ、人々の動揺がそれに拍車をかける。誰もクララが告発したことを疑わない。実はクララは何も具体的なことを話していないにもかかわらず、である。
しかしそれは、この経緯をスクリーンのこちら側で見続けている私たちにわかることだ。クララをとりまく大人たちはまったく客観的になろうとしない。誰もがその肝心な点をおざなりにしたまま、一種のパニックにおちいり、ルーカスを糾弾する方へと走り出してしまうのである。
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なんて愚かな、と私たちは思う。でもそれは、ルーカスの無実を知り、クララが《嘘》をついたことを私たちが知っているからだ。
ではスクリーンの向こうと、こちら側を入れ替えたらどうなるだろうか。
真実を知るすべのない状態で、戦慄するような《事件》を目の前にしたら、私たちは同様にパニックにおちいり、悪者を糾弾することで安全を守ろうとするにちがいない。
映画の舞台になる町は、のどかで温かな人づきあいの息づく、地域性の高い町だ。ルーカスを追いつめるのはあくまで人間の手であって、ネットなどは登場しない。もし今の日本でこんなことが起きたとしたら、と考えると、標的にされる人間はもっと陰湿で深い、広範囲な悪意にさらされるはずだ。

しかし、そう思っていたのは映画のラストの手前までだった。
ルーカスの、人としての尊厳をかけた戦いがどんな着地をみたのか、それを見届けたつもりになった私たちは、最後の最後で虚をつかれる。しばらく席から立てないほどの衝撃を受けて動けなかった。

デンマークの田舎の伝統として、男たちがおこなう森での狩り。それがいかに人生の中で重要なものであるかが、この映画ではていねいに描かれる。男女平等の印象のつよい北欧の国だが、男だけの領分として「狩猟の免許を取ることが成人の証」とされるのだ。
映画の原題は『狩猟』。
鹿をもとめて銃を手に森を歩き回る男たちと、これから自分たちが標的になることも知らず、静かに歩き回る鹿たち。
彼らのうちの誰が、いつ選ばれるかはわからない。
いつ狩りだされるかわからない。
無垢な目で森を行く鹿たちが、私には人間ひとりひとりのように見えてならなかった。


何といっても、絶望の底をよろめきながら屈服せずに生き抜くルーカスを演じるマッツ・ミケルセンが本当にすばらしい。息子マルクス、そしてクララを演じる子役二人のみずみずしさも際立っている。
人間の不寛容と寛容の両方を、これほど鋭くあざやかに描き出した作品はめったにない。トマス・ヴィンターベア監督の前作『光のほうへ』もぜひ観てみなければと思った。

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by higurashizoshi | 2013-04-20 00:03 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(0)

春の色

東京は驚くほど早かった今年の桜。
こちらでは、少し時間をかけてゆっくりと満開へとすすんでいった。


龍野の桜。
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静かな時間の流れる町。
雨模様の薄灰色の空の下、しっとりとみずみずしい桜だった。
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明石の桜は、ちょうど満開を迎えたと思ったら、春の嵐の襲来にあった。
今日、風雨をついて出かけて行って撮った一枚。
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もう、強い風でちぎれはじめた花弁。
今夜で一気に散ってしまうのかもしれないと思うと、惜別の思いがわく。


東北の桜はこれから。
少しでもたくさんの人が、うつくしい花をながめられますように。
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by higurashizoshi | 2013-04-07 00:38 | 雑感 | Comments(2)

東日本大震災チャリティー演技会2013 ~復興の街、神戸から~

大震災のすぐあと、自分たちに何かできることはないかと考えたフィギュアスケーターたちが立ち上げたこの神戸チャリティー演技会。
その1回目は震災後ひと月もたたない4月初めにおこなわれて、仙台で被災した羽生結弦選手がそのリンクで再生を心に誓ったことでも知られている。
私はこの第1回は震災と原発事故の報道の波の中で全然気づかず、開催されたのを知ったのは演技会が終わってからだった。
去年の第2回はしっかり事前に情報をキャッチしてチケットを取り、このブログにも簡単なレポートを書いた。このときが、考えると高橋大輔選手を生で観た最初だったのだな。


さて、今年第3回が開催されるという情報を見たときは、正直とてもほっとしたものだった。
たった2年しかたっていないというのに、被災地から遠い地域では、急速に薄れつつある大震災の記憶。阪神淡路の震災を経験した神戸周辺ですら、例外ではない気がする。
私自身、もし福島の子どもたちを関西に招くキャンプのスタッフにならなければ、きっと日常に埋もれて次第に遠いまなざしで被災地を見るようになってしまっていただろう。
そして、キャンプを続けてきた経験から言えるのは、そんな世間の流れの中で、被災地を支援するイベントや企画を継続していくのは想像以上に難しい、ということだ。
私たちのキャンプもこの夏には3回目を迎えることになり、少しずつその準備が始まっている。明らかに冷めていく人々の支援への《熱》を、どうやったら少しでも食いとめ、被災した地域や人々への思いを向けてもらえるのか。試行錯誤しつつ、今年もまた頭の痛いお金の問題や、膨大な事前準備に立ち向かうことになるのだ。

だから、去年のこの演技会の最後に高橋選手が「来年もまたこのチャリティー演技会を開きたいと思っています」と言ってくれた言葉を記憶にとどめていたものの、本当に今年もやってくれるのだろうか、できるのだろうか…と思っていたのだった。
それだけに、今年の開催を知ったときはとてもうれしくて、ものすごく気合を入れて発売日の朝イチ、ジャストの時間にローソンで待機していてチケットを取った。
するとなんと、会場に行ってみたら一番前の席! こんなことは初めてだったのでミミは「ここで運を使い果たしたか…」と言っていたけど、ドンマイドンマイ。

会場の神戸ポートアイランドスポーツセンター。
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当日のパンフレットもない、本当に手作りの素朴な演技会で、特に今年はその温かい感じがすごく心地よかったのだけれど、事前準備、広報、会場設営、人員配置など、これだけ大きなイベントを開催するのは本当に大変なことだと思う。
ほぼ司会(!)だった大ちゃんが紹介してくれたのは、この演技会を最初から支えた大黒柱、ミヤケンさんこと振付師の宮本賢二さん。
彼が思いっきり照れながらリンクの上でしてくれたあいさつには、胸にぐっとくるものがあった。本当に心の温かい人なのだと思う。

出演者でもあり、企画にもかかわっている田村岳斗さん。
演技中の写真はなかったので、これは募金箱をお持ちのもの。相変わらずの美貌です。
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かつて本田武史選手のライバルとして活躍し、今はコーチや解説などをされているヤマトくん、実は今もジャンプはキレッキレのトリプル巧者、しかもエンターテイナー。滑りと煽り(!)の二本立てで会場をものすごく盛り上げてくれました。
ヤマトくんのブログに、今回の演技会の紹介が書かれているのでご覧ください(ここをクリック)。


ノービスやジュニアの選手のフレッシュな演技、村中小月選手・哉中選手姉妹の美しい滑り(特に小月選手は、これがたぶん現役最後の演技になるのでは?)、そのほか関西で活躍する選手たちもみんな技術が高く、すごいなあと改めて思った。


そして、今は現役を引退してプロスケーターや解説者として活躍している太田由希奈さん。
彼女の滑りは一度観てみたいと思っていたが、期待以上だった。
滑る音がほとんどしない、ほんとうにスムースなスケーティング。そして美しくしなやかな体の使い方。ジャンプは入っていないのに、こんなにうっとりとするスケートがあるのだなあ…と見ほれてしまった。


宮原知子選手。
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今シーズンの全日本選手権でサプライズの3位に入った15歳。まだものすごく小柄で子ども体型ながら、ジャンプも滑りも安定感があって将来を嘱望されている選手。
今回生で観て、そのスケーティングの素晴らしさに感動した。なめらかで伸びがあり、何ともいえない品のある滑りで、これは持って生まれたものなのだろうな。
度胸もあり、練習熱心とのことなので、今後体型の変化にどう対応できるかで大選手に育つかどうかが決まってくる気がする。



町田樹選手。
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まっちーが坊主頭に!
写真を見たときはアゼンとしたものだ。だいぶ伸びたのね。何か思うところがあっての坊主だったのでしょう、しかし今季のアバンギャルドなかっこいいショートを、伸びかけの坊主頭で滑るのを観ることになるとは!
でもアクセルを含め、ジャンプはことごとく決め、今季後半の不調からすでに立ち直っている感じ。来シーズンはどんなプログラムを持ってくるのか、すごく楽しみになった。



織田信成選手。
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今回の演技会で、実は一番感動し、すごいと思ったのが彼だった。
去年観たときも「うわー、スケーティングがきれいだな、やわらかいな」と思ったのだけど(そして去年も確か不調明けだったのだ)、今季後半を故障のため苦しく過ごした彼の、復活のファンファーレみたいな素晴らしい演技だった。
空間の使い方が大きく、ぐーっと引き込まれるような魅力ある滑り、そしてジャンプの高さ、正確さ。すべてのジャンプをクリーンに決めていて、表情もとてもよくて、
「ああ、これを試合でできたらなぁ…」と思った。
いつもどうしても試合になると緊張して失敗したり、演技中は無表情になってしまう織田くん。本来はこんなに素敵なのだから、それをみんなに見せてほしい!



さて、トリは言わずと知れたこの人。
おそらく客席の8割、いやそれ以上?を埋め尽くした大ちゃんファンが見つめる中、さっき司会進行でふにゃふにゃカミカミしゃべってた人と同じ人?という変貌が起きる瞬間。
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今日はどのプログラムをやってくれるんだろう…と思っていたら、オーソドックスに今季のエキシビション。ミヤケンさん振り付けのピアソラ、通称ミヤソラでした。
さて、ここからが正直なところ、書きづらい。

ポーズを取り、音楽が鳴り始めた一瞬から世界をひと振りで変える人。
滑りはいつものように素晴らしく、誰にもできないくらい細やかで、音を極限までとらえて、ジャンプもアクセルはまた旅に出てたけどそれ以外はきれいで、中盤の寝ころびシーンは今日は照明が明るいままだったから寝ころばずにすませて、最後のステップはやっぱり情熱的で扇情的で…

何が悪かったというわけでもなく、十分魅力的な大ちゃんだった。
でも、昨シーズン2度、生で観たときのあのわしづかみにされるようなパワー、観るものを渦の中に引きこんでいく圧倒的なオーラが、私には最後まで感じられなかった。
もちろん、彼が今、調子がよくないことは重々わかっている。今日も無理せずに滑ってくれたらとそれだけ思ってきたのだ。そう思ってきたわりには、ミヤソラを滑る大ちゃんの出来はけっして悪くなかった。
でも最前列に座り、こんなに間近に見られたのに、血が騒がなかった。素敵だとはもちろん思ったのだ。でも血が騒がなかった、そのことが自分でちょっとショックだった。
ジャンプがどうとか、そういう問題ではない。演技後の大ちゃんにスタオベしながら、「これは、何なんかなあ…」と考えていた。


エンディングの出演者全員の手話を使ったパフォーマンスや、最後のまたまたおちゃめな大ちゃんの挨拶も、とても感じのいい温かなもので、特に大ちゃんが「続けて4回目、5回目とやっていきたい」と言ってくれたのは本当にうれしかった。
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そして終了後の募金のとき、今年もまた出演したスケーターが並んで募金箱を持ち、募金するお客さんはそこで一言二言話をすることができるようになっていた。
私も選手たちに声をかけていきながら進んでいって、町田くんや織田くんにもちょっと言葉をかけて、最後に大ちゃんの前に行ったとき、
「ああ、やっぱり本当に疲れてるんだな…」と思った。
もちろんいい笑顔で、こちらをちゃんと見てあいさつしてくれていたけれど、まずその小ささ細さにちょっと絶句する感じだった。
一年前に同じ場所で間近に見たときより、ずっと痩せていて、これ以上細くなったらなくなっちゃうんじゃないの?と思うほど。
こんな小さな身体で、あんな壮絶な戦いをしているのか…

もう募金の列も最後の方で、何百人というお客ひとりひとりに笑顔であいさつし続けて、体力的にも限界手前、というところだったと思うけれど、それにしても何というのだろう、肉体的に「疲れてる」というだけじゃない何か、重い何かが彼の姿全体からにじみだしているように思えた。
長光コーチが列の最初のあたりにとても控えめに立っておられて、話しかけるお客さん全員にていねいに応えておられたのが、とても印象的だった。まるで重い荷を背負った息子をそっと支える母のようだなあ…と思った。


震災犠牲者への黙祷から始まり、被災地への義援金を集めてフィナーレするこの演技会。
来年、再来年と年を追うごとにもっと薄れていくだろう被災地への注目、震災の記憶をとどめるために、ぜひ続けていってほしいと思う。
一年後は、ソチ五輪も終わっている。
そのとき、大ちゃんはどんなふうにこの演技会の日を迎えるのだろう?
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by higurashizoshi | 2013-04-02 01:39 | フィギュアスケート | Comments(0)

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