ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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嵐のち晴れ

いつもは「もう、やめとき」というくらい食欲旺盛なうちの息子(茶色くて四本足)。
異変が始まったのは2週間ほど前だった。…ん?あの子がなんだかこのごろあんまり食べない?
でも、うちは四本足の息子が2人いるので、ごはんをどちらが食べたか判然としないことが多く、なんとなく見過ごしていた。
と、みるみるうちに明らかに食欲が落ちて、びっくりするほどやせてきた。
いつもは、食卓の上で寝ていたら思わず「いただきまーす!」とみんなが言うくらい、ふくふくまるまるしてるのに。そしてとにかく元気がない。のっそり、しんどそうに動いている。なんだか息も速い気がする。これはおかしい、どう考えてもおかしい。

急いで動物病院に連れていって検査してもらったら、なんと胸水が330mlもたまっていた。そのせいで肺が小さくなるくらい圧迫されて、相当苦しい状態になっていたので食欲もなくなったのだろうとのこと。
胸水のたまった原因は、今のところはっきりしないのだけど、抜いた水分にリンパ球が多いので、どこかに腫瘍ができている可能性もあるそうだ。半日入院して、毛も四角く剃られて、あばらの間に針を刺したままの状態で帰宅。
胸水を抜いて楽になったかと思いきや、まったく食べず飲まず、ひたすらぐったりと横になったまま。この数日の間にたちまち背中が骨ばり、ふわふわの毛もガサガサになり、「あーこれはまずいな」という、見るからにまずいなという状態に突入した。

とにかく食べないと死ぬ。飲まないと死ぬ。胃腸に問題はないようなので、入れれば食べられるはず。
というわけで、病院でもらった高カロリー療養食と水を、注射器で口にねじこむという戦いが開始された。
絶対に食べさせる!というこちらの迫力と、ぜったいこんなもん食べんぞ!という息子の固く閉じた口。がっちり羽交いじめにして、なにくそとその口をこじあけて注射器を突っ込む。敵は決死の力であばれまくる。そのへんにレバーペースト状の療養食が飛び散るわ、せっかくぶちこんだ貴重な食べ物を吐き出すわで大混乱。
出すなら入れてやるとばかりに注射器を持って追いかけまわす私。ヨロヨロと逃げまどう息子。食べものだけでなく、さらに口をこじあけて薬も飲ませにゃならん。苦しいときにこんな嫌な思いさせたくないと思いつつ、半泣きでそんな戦いを何度も繰り広げた。

病院にも連日通って、レントゲンで胸水や肺の様子を見てもらい、いろいろと検査もした。諭吉が隊列を組んで出ていくのを見送り、軽いお財布を胸に、重いケージを車に積んだ。運転中に浮かぶのは「ネコの葬式はどこに頼んだらいいのだろう」などという、例によって悲観的な考えばかり。夜眠っていても「今、息が止まってるんじゃないか」と夢の中で思っては飛び起きて、忍び足で様子を見にいく繰り返し。娘たちもひどく心配していたが、彼女たちは今猛烈に忙しくて世話をしている余裕がない。

胸水がたまらなくなって思いがけずすんなり針がはずれ、それでもぐったりは続き、丸一日たった。
そのとき初めて、手のひらに乗せた流動食を、やわらかい舌でぺろ、となめた。あたたかい舌の感触。
なでてさすって、それから何とかさらに食べさせようとあれこれ手のひらに載せた。「あんたはチャングムの王様か…」と言いつつ、これがお口にあいますか、それともあちら?と奉仕これ務め、もちろんそれだけでは足りないので王様タイムが終わるとまた注射器で療養食を口にぶちこむ、という高度なプレイの連続。
そんなこんなの毎日を過ごすうち、ガサガサだった毛がまた少しずつふんわり、つやめいてきた。
階段を少しずつ、またのぼれるようになった。お皿から食べものを食べた。水を自分で飲んだ。ひとつひとつがきらきらして見える。深呼吸を忘れていた身体が、やっとたくさんの空気を入れられるようになった気分だ。
ああ、もう大丈夫だ、と思うまでに長い長い時間が経った気がした。

原因によっては、また胸水がたまる可能性もあり、油断はできないと言われているけど、ともかく今は、こんなに元気になりました。
あさってから例年通り、被災地の子どもを招くキャンプが始まり、私は怒涛の12日間に突入する。その前に回復してくれてほんとによかった。しっかり働いてくるよ。もう、ごはんはちゃんと自分で食べるんだよ。
(すっかり口が肥え、前にもまして甘えん坊になってる息子近影)
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# by higurashizoshi | 2016-07-27 01:41 | 雑感 | Comments(4)

ロックロックこんにちは!20th Aniversary Special@大阪城ホール

参院選が終了。昨夜は2時半まで結果を見守ってたので3時間しか寝てません。
寝てなくてぼーっとしてるけど頭も心もギンギンしてるおかしな一日。
ひとこと言いたい。
選挙期間中に主張の大事な部分は隠しちゃイカンよ。
勝って「さあ認められました改憲!」とか、「無所属当選したあとさかのぼって自民公認!」とか、それはズルい。
そして、今回の選挙の肝が、戦後はじめての方向へ日本が大きく舵を切ることだと実感してる人が、足りなすぎた。とても多くの人が努力して昨日を迎えたのだけど。
でも、まだまだこれからが重要。重要なのだ。

そう、今からロックロックの城ホール1日目のレポートを書くんだけれど、満場の客席の中でひそかに私、5時間ずーっと思ってました。
「明日参院選だって知ってる?選挙行こうな!」
って、どのミュージシャンでもいい、誰かがたったひとこと言ってくれないかなって。
そういうの興ざめだよとか、暗黙のルール破りだよとか言う人もいるかもしれないけど、音楽という芸術表現活動が世の中の動きにどれほど左右されることか。思ったことを自由に歌えない、奏でられない時代がまた来るかもしれないのだ。
あの会場を埋めた9,000人にとって、その中にたくさんいた若者にとって、大好きなアーティストのひとことがどれだけの影響を持つかを思うと、大人として誰かがそれに触れてほしかったな。民生くんとか、ちょっと期待したんだけどな。

さて、そもそも行ける予定ではまったくなかったロックロックの20周年超豪華ライブ。
友だちの娘さんが行けなくなり、泣く泣く譲ってくれた貴重なチケットを握りしめ、武者ぶるいしながら大阪城ホールに向かった私でした。スピッツファン歴21年にして初のイベント参加ですよ。これまでスピッツ単体のライブは何度も行ってるけど、今回のツアーチケットはファンクラブ枠なのにハズれまくり落ち込んでいたところにまさかの天恵。M子ちゃんほんとにありがとう~ていうかごめんよ~
RAD好きなタタからも「いいな~いいな~」と言われまくり、もちろんプラチナチケットだろうからたくさんの人の怨念、じゃなかった思いを背負って…思い…背中が重い… 城ホールを前に固まっていく私。要するに超ステキなことを前にするとネガティブ志向になるめんどくさい奴。
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スピッツラテとか。
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グッズとか。
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中に入ると、鶴瓶さんからお花。
なんで?と思ったけど幕間の動画がスピッツ4人×鶴瓶さんの対談が延々続くっていう趣向だったのね、今回。
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フラカンからのお花がスゴイ。
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ライブの中身については、ほっとくと延々とまた長く書きそうなので、当日帰路に車中で書いたメモをほぼ載せます。

きっとヒエラルキー的にOKAMOTOSから、と思ってたら(ファンの方失礼!)、いきなりのRADWINPS!
会場のボルテージが一気にダダ上がり。しかも一曲目「おしゃかしゃま」スタート。
オーラ全開。スケールでかい。めっちゃうまい。疾走感と純情のバランス。これはつかまれて持ってかれるわ。
「今日は、大好きな大好きなスピッツさんの20周年に呼んでいただき…」との洋次郎くんの言葉に萌えつつ、「アレ?20周年はロックロックだけど?スピッツは来年30周年だけど(=そんな若くないよ?)」て思ってた。
あとでマサムネくんもMCで言ってたけど、勘違い…だったみたいね。ははは。
ラストでの新曲「前前前世」初披露まで、洋次郎くんの繊細な弾き語りありマッドに炸裂する楽曲あり、もうあっという間でした。

2番手のOKAMOTOS。
まったく知らないバンドでありすぎたので、行きに検索してたら全員が岡本姓だっていうからびっくり!
これはすごい。偶然?親戚?って興奮したら(なぜそんなことで興奮する)、ああ無情。みんなほんとの名字はちがうけど岡本太郎が好きだから名乗ってるんだって。ラモーンズを標榜してるのかな?
そんな岡本さんたちの演奏は若さと技術力の高さを存分に見せつけてくれました。ただし岡本太郎のアナーキーさは少しも感じなかった。もっと太郎を!

ここまでの、盛りまくり、あおりまくりで上がり切った会場のテンションを一気に下げるおっさんたちの登場。
奥田民生特別企画、アコギブー。
アコギって、「阿漕な」と「アコギ(アコースティックギター)」をかけてるんだね、きっと。
なんで色とりどりのアフロ+鬼のツノのかつらを全員がかぶってるのかわからないね。
手練れのおっさんたちのなんと深い磁力よ。
大いに笑かしておいてノックアウト。
民生くんの生「さすらい」に震え、初yo-kingのソロに、涙するほど感動。手島いさむのソロもよかった。しばらく絶対ヘイ・ジュードがアコギブーのテーマに聞こえる。ああ、魅力的なおっさんってなんて魅力的なんだ!

合間にけっこう延々流される、スピッツ4人と鶴瓶さんとの対話がなんちゅうか、ゆるい。笑福亭鶴瓶ほどの対話の達人相手でも、空白を作りまくれるスピッツ。すべてにおいてこの手垢のつかなさ、業界慣れしない感が貫かれてるのだわ。なんなんでしょうこの人たち。
鶴瓶さんはこの仕事で初めてスピッツに会ったそうだけど、マサムネくんいわく、初めて会う日にスピッツの全アルバム、全曲を聴いてひとつひとつに感想を書いてきたそうだ。脱帽。

スピッツ、この日のセトリ。

1.メモリーズ・カスタム
2.海とピンク
3.涙がキラリ☆
4.甘ったれクリーチャー
5.愛のしるし
6.スピカ
7.みなと
8.ロビンソン
9.女々しくて [カバー/ゴールデンボンバー]
10.渚
11.エスカルゴ
12.8823
13.ヒバリのこころ

アンコール
14.醒めない
15.野生のポルカ


悪魔のように美しい「女々しくて」だった。
マサムネくんはなんでこんなにカバーもすばらしいんだろう。
ついに「スピカ」と「ロビンソン」を生で聴く。「海とピンク」「エスカルゴ」「ヒバリのこころ」と好きな曲だらけ。
「ロビンソン」はこの21年思い起こして夢のように聴く。しかし21年たってこの透明感は奇跡。こんな人いない。
正直、RADやOKAMOTOSのほうが演奏技術という点だけとれば、ずっと高いのだ。でもスピッツには唯一無二のものがある。壊れそうだけど実は強い、鉱石のような輝き。それは醜悪さも哀しみも、やさしさも甘えも包みこむ。
なんというのだろう、この日のスピッツは…なぜか今まで生で聴いた中で、一番身体の中にすうっと沁み込むように入ってきて、私を潤して、涙させて、しかもとても凛々しかった。

なんと豪華、おかずデザート珍味ごはんもの、キラキラするスパークリングと熟成酒、ぜーんぶ一気にいただきました!な5時間。
すぐうしろに座ってた、推定8歳・5歳・3歳のきょうだい(+ママとパパ)が気になって、退屈してないかな?と思ったけど、トリのスピッツのアンコールが終わったあと、「あーおもしろかった。野生のポルカやったー」って推定5歳が言ってたのがたまらん可愛かった。きっと家族みんなでスピッツ聴いてるんだな。でも推定3歳のお気に入りは「ア、コ、ギ、ブー!」だそうでした。ブー、ブー!
あー日本をおおう嫌な雲も、ブー!って追い払えたらいいのに。




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# by higurashizoshi | 2016-07-11 17:27 | 観る・読む・書く・聴く | Comments(4)

本宮映画劇場

保養キャンプの今年の参加者向け説明会で福島に行ったついでに、前から訪れたいと思っていた本宮映画劇場に行ってきた。

今年で築102年、大正の初めに芝居小屋として建てられ、映画館として日本の映画全盛期を駆け抜け、その後は長く閉館していたそうだ。
中馬聰さんの写真集「映画館」(ほんとうにすばらしい本!)には、涙が出るほど懐かしく、猥雑で、濃厚な旧い映画館が数多く紹介されているのだけれど、この本宮映画劇場の存在を知ったのもこの写真集でだった。

郡山から十数分、本宮駅に初めて降り立ったものの、例によって地図が読めない私はハテナ状態で立ちつくすのみ。
駅でおしゃべりしていた制服姿の高校生グループに声をかけ、結局、親切な彼ら彼女らに劇場まで連れていってもらうことになった。
道すがら、「本宮劇場、何しに行くんすか?」と不思議そうな高校生男子。
「古い建物と映画が好きだから、見てみたかったの」と答えると、はー、と微苦笑。
確かあのあたりに…という程度には知ってるけど、みんなさだかに場所はわからないようで、手に手にスマホをかざしつつグーグルマップを頼りに先に立ってくれる。
「町ではどんな存在なの?」と聞いてみたら、「うーん、あんま知らないっつうか、昔のもの?小中学生が授業で調べにいく感じかなあ」とのこと。

路地を入った先の、相当ボロボロの建物。正面に回ると、ああ、ここだあ!
キュートな本宮っ子たちにお礼をいって、さっそく劇場を遠方からじっくりと鑑賞。
うむ、実に味わいのある建造物ではないか。しかし、予想以上に老朽化が進んでいるぞ。
たしかにこれは、近隣の人から見たら「崩れかけの、なんだか変わった建物」だろう。
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ふと見ると、入り口ふきんには軽トラックが止まり、なにやらお兄さんたちが休憩中。
工事中だろうかと思ったら、うむ。「除染作業中」なのだった。
浮かれ気分でここまで来たが、一気に《ここは福島》と思い知らされる。

外から見て、写真を撮らせてもらって、あとは本宮の街をぶらぶらしてから郡山へ戻ろうと思っていたのだけど、オヤ、道の向こうからニコニコしたおじいさんが足早にやってくるではありませんか。
それはネットで何度か見たお顔。ここの支配人、田村さんその人なのだった。
「あんた、いわきの人?」
いや、いわきじゃなくて兵庫県の人です。
聞けば、一週間前に予約があり、今日いわきから来る人に劇場内を見せる約束になっていたとのこと。
「あら、違うの。まあまあいいよ。見に来たんなら中に入って入って」
なんとラッキーなことに、私はそのいわきの人と間違えてもらったおかげで、思いもかけず本宮映画劇場の中を田村さんに案内してもらうことになったのだった。

そこは、まるで時を止めた昭和の世界。
胸がしめつけられるような、なつかしい匂いのする「映画館」という過去への旅だった。
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その中で聴く田村さんの、とめどもつきない日本映画をめぐるお話のおもしろいこと。
まさに映画と映画館の歴史における人間国宝! しかも田村さん、絶対若いころモテたでしょう。なんともいえぬ山っ気と色香ないまぜの魅力です。
「映画館は絶対もうかると思ってたの。だから一度閉めてサラリーマンになって、定年になったらもう一度映画館やろうと思ってたの。ところがあんた、定年なったら浦島太郎だったんだよ」
お父さんから映画館を譲り受けたあと、しばらくして映画は斜陽の時代に。田村さんは車のセールスをしながら、絶対にこの映画館を手放さず、休みのたびに映写機や館内のメンテナンスを50年も!続けてきたという。
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映画館として営業を再開するという望みはかなわなかったものの、次第にあちこちのメディアで本宮映画劇場が紹介されるようになると、建物を見せてほしい、映写機を見せてほしいという人が全国から訪れるようになった。
それからは、田村さんはここで時折無料で上映会を開いているとのこと。
「どうして無料なんですか?」と聞くと、
「お金取ると、そんなに人は来ないの。タダだったら、100人、200人来る。せっかく映画見せるんなら、たくさんの人に見てもらった方がいいからね」とのこと。
しかも田村さん、たくさんの秘蔵のフィルムがあるのみならず、自分でどんどんフィルムを切ってつなげて編集したものがいろいろあるという。
「昔の大衆映画にはね、必ずキャバレーのダンスシーンがあったの。そればっかり集めたのを私が作ったんだよ。それと、成人映画には必ずお風呂のシーンがあったわけ。そこを集めたのもあんの」とにっこりする田村さん。うーん、マニアック!ていうか、ピンク色!
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映写室も隅々まで見せていただいた。
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これが日本でたった一台しか残っていない、現役のカーボン式映写機。
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「あんた映画好きなんだったら、これ動かしてみっかい?」
えええ、いいんですか?
思わず手が震えてしまいそうになりつつ、教えてもらって映写機のスイッチを入れる。
ウィーン…と力強くも柔らかな音で回り出す映写機。カタカタカタ…と独特の音が響きだす。

たった30分しかもたないというカーボンの棒を燃料にして回る映写機。なんともいえず、いとおしく尊い。
田村さんがずっと整備し続けてきたからこそ、今もこうして現役でい続けている。
「もし故障したら、部品ありませんよね?」と不安になって聞くと、
「ほかの映写機から外してきて取り替えっから大丈夫なの。ほかにいっぱい映写機があんだ」。
次々とつぶれていく各地の映画館に行っては、フィルムとともに映写機を買い受けてきたのだという。
「これは浪江の映画館から買ったんだよ」
と映写機の入った大きな箱を見せてくれた。浪江町は津波と原発被害の両方を激しく受けた町だ。立派な映画館があったが、震災のかなり前に閉館してしまったのだそうだ。
「震災のときは、私らも逃げようかと思ったよ。もうここら、お金のある人はみんな逃げたね」
私が保養キャンプのために今回福島に来たことを話したら、
「そりゃああんた、いいことをしてくれてるねえ。それはえらいねえ」と喜んでくださった。「私ら年寄りはしょうがねえけど、子どもは身体のことが心配だもの」と。
今、外でやっている除染作業はあと一週間はかかるという。
「劇場の周りの土を全部入れ替えんの。だけどさあ、替えてもまた放射能降ってくっからねえ」

ホール。往時は2階席、3階席まであったのだそうだ。
ここに座って映画を観てみたいなあ。次回の上映会はまだ決まっていないそうだけど。
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天井もなんとも味わい深い。あの震災でもびくともしなかったのは、昔の木造建築の強さだろうと田村さん。
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9月のカナザワ映画祭に秘蔵の映画(こちらをどうぞ。この妖しげ感、たまりません!)を引っ提げて、トークショーにも出演することになっているという田村さん。いやーパワフル、瞳はキラキラ、お肌ツヤツヤです。
そうそう、この劇場、これほどのたたずまいゆえにいろんな作品(最近では坪川拓史監督の映画『ハーメルン』など)のロケに使われてるのだけど、ここの特徴ともいえる外壁の色を謎のローズピンクに塗り替えたのは、昔、横浜から映画を撮りに来た学生たちなのだそうだ。でもそれがどこの学生だったのか、何という映画だったのか、いまとなっては田村さんにもまったくわからないという話。誰か解明してくれたらおもしろいのだけど。

館内のたくさんのポスター。このまぜこぜ具合がたまらない。
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おそらく戦前の上映風景。まさに鈴なりのお客さん。
「昔は楽しみといったら映画と芝居しかなかったからね。みんな遠くから歩いてきたんだよ。自転車乗ってくる人はお金ある人」
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結局、いわきの方は来られず、夕方までずっと劇場内の空気を味わいつつ、貴重なお話をお聴きする幸せな時間を過ごしたのでした。
「今日はもう閉めて、帰っから。」
と戸締りをする田村さん。
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こうして何十年も、たったひとりでこの劇場を守ってこられたのだなあと思い、そしてさらに時がたったらここは…と思わず考えてしまった。
何度もお礼を言って田村さんと別れ、見返した夕景の本宮映画劇場。
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建物の横腹はすでに朽ちかけ、しずかに佇んでいる。
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映画という楽しみ。映画という商売。映画という夢。
濃密な時間が暮れて、人もまばらな本宮の町を駅に向かった。
なんだか胸がいっぱいで痛いほどだった。


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# by higurashizoshi | 2016-06-23 01:27 | 旅の記録 | Comments(0)

誕生日雑感

書けないまま、あれよあれよと日は過ぎて。

このひと月ほどに何があったかというと、父の半年目の月命日の集まりがあり、不登校とホームスクーリングについて大学の授業にお話しに行き、今年も夏の保養キャンプの準備が始まり、そのためにリーフレットの編集作業をし、参加者の募集受付作業をし、映画や芝居を観に行き、今月末のコンサートに向けて合唱の練習に通い、そして十数年ぶりにお給料をもらう仕事を始めるという、わたくし的には画期的な出来事もあり。
職場はNPO経営の地域カフェ。まだまだ美味しいコーヒーが淹れられないし、レジもあわあわ。でもとてもいい空気の流れるお店で、スタッフのみなさんもお客さんもフレンドリーで助けられている。

ここまで書くとなんだかすごく活動的で前向きな、世間の人から私がよく言われるイメージ通りの多忙な日々だけど、ブログが書けなかったのは例によってアレですよアレ、《むなしい病》。
むなしいむなしいっていいながらよくこれだけいろんなことができるねと言われそうだけど、父が亡くなって半年というひとつの節目を迎えてから、どーっといろんなことがよみがえってきて、眼をそむけきれなくなったというか、自己否定の要素がひとつひとつやってきて、パワーをはしから奪われる。振り向かずにすめば、考えずにすめば、いいのになあ…と思う。

で、やっとこブログに向かったのは、今日は私の誕生日で、この歳になるとお祝い気分はないんだけど何か残したい気になるのかな。とどめておきたいというか。
こんな年齢になっていながら、いつもいつも生きている意味について考えているというのもどうなんだろうと思う。もはやこの世にいない人についても、その意味を考え続けてしまう。
この世に存在できるごく短い期間に、できるかぎりのことをして生き抜きたいという思いと、いつもこの世を出ていくことについて考えて地に足がついていない自分と。
そうこうしながら、さて今日は誕生日だからこの前友だちのワークショップで習ったオリジナルスパイスのカレーを作ろうかな…なんて考えていたりもして。明日は家族でお祝いしてくれるというので、手巻き寿司をリクエストしてみたりして。なんなんだろねえ…

フィギュアのことも、ワールドについていまだ書いてないし(文章はかなりできてるのだけど)、シーズンオフの話題(新プログラムとか、引退解散・再編とか)はちゃんと追いかけていて、あとは気力なんだけどなあ。
すいません、ひさびさに書いたのにまったく覇気のない文章になってしまいましたです。
おわび代わりにうちの息子のとっておき写真を載せておこう。


タイトル 「ぼくなあ、名前書けるねん。」
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次回はもうちょっと元気のある感じできっと。



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# by higurashizoshi | 2016-06-04 17:56 | 雑感 | Comments(4)

内子へ

昨秋の父の死以来、心へたってる私を元気づけてやろうと、遠方の友人が企画してくれた一日旅。
鉄道マニアの友人がルートから予約から、ぜーんぶやってくれて、私は当日の朝に駅に行くだけ。
ほんとに身ひとつで、何の準備もせずに行って、ありがとうと切符をもらって、いざ弾丸ツアーに出発!
なぜ弾丸かというと、日帰りでそんなとこまで行けるの?というような企画だからなんです。私ひとりでは逆立ちしても思いつかん。

早朝に最寄駅を出発、姫路から新幹線で岡山へ。乗り換えて、瀬戸大橋を渡る。
日頃のおこないがいい(どっちの?)だけに、本日快晴!
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去年高知に行ったときと途中までは同じだけど、今回は松山経由で西へと向かう。
生まれて初めての愛媛県!
旅のエキスパートである友人は、私があそこもここも行ったことないというと、いちいち驚く。なんせ自由もお金もない人生を過ごしてきたもので…とかいいながらいきなりスペイン行ったりしたけど。

出発して5時間足らず。目的地に到着!
ここは愛媛県内子町。
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内子の町なみ。
味わいある古い建物がならび、静かな時間が流れてます。うーん、落ち着く。
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ここは、大正時代にできた映画館「旭館」。
なんと不思議&素敵な建築でしょう!
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今は通常営業はしてないそうですが、ときどき映画の上映やイベントがおこなわれているとのこと。
ぜひぜひ中も見てみたい。こんな場所でモノクロ映画を観たい。
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で、本日のメインイベントがこれ。
内子座100年記念、立川志の輔独演会!
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築100年の芝居小屋、内子座へいざ。
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たくさんのお客さんが並んでます。さすが人気の志の輔さん、満席完売だそうです。
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どどーん。
かっこいいぞ内子座!
外観からすでにオーラ出てます。いや~素敵!
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実は亡くなった父は大の落語好きだったのです。
こんなとこ連れてきたら喜んだだろうなあ、と思いつつの内子座。
志の輔さん、この日は創作噺「買い物ぶぎ」と古典「紺屋高尾」でした。
前座に若いお弟子さん、合間に長唄の楽しいおしゃべりと演奏。ああ楽しかった~。

終演後に中を一枚だけ撮らせていただきました。
これではわかりづらいけど、なんともいえない雰囲気ある館内で、落語も三味線の音もやわらかく響き、お客さんの間に流れる空気がほんのりと温かい。
長い年月とこの場所で演じられた多くの芸の《気》がここに積もり、この温かさを作りだしているのでしょう。
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内子座を出て、ふたたびぶらぶら歩き。
古い町なみの向こうには、美しい緑の山。なんともおだやかな、心いやされる風景です。
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父の大好きだった新緑の季節。
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早めの夕食は、友人おすすめのドイツ料理店「ツム・シュバルツェン・カイラー」で。
古民家を改装したとっても素敵なお店。
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でもって、ドイツビールと、ドイツ人シェフさんが作られるお料理が最高においしかった~
愛らしいネコちゃんもいて、接客もとっても感じがよく、近所だったら何度でも来たいお店でした。
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名残りおしく、内子の町に別れをつげて。
いや~いいところだったな~。
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帰路はまた5時間かけて、夜中の12時前に帰宅!
心に残る弾丸ツアーをプレゼントしてくれた友人に感謝。
日常に戻りたくないくらい、ふわふわのじゅうたんに乗ってるような一日でした。



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# by higurashizoshi | 2016-05-06 00:50 | 旅の記録 | Comments(0)

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