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ひぐらしだより


人生はその日暮らし。  映画、アート、音楽、フィギュアスケート…日々の思いをつづります。
by higurashizoshi
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父の手術

父が大きな手術をすることになって、そのための準備や手配や調べものや検査の付き添いや…そういうことをひたすらやってきた。そして父は手術を受けた。
病を治すため、という理由で、一見ぴんぴんしている人間の腹をかっさばく、というのが手術である。81歳の父はハラキリされて、すっかり弱ってしまった。見たこともない子どものようになってしまった。
しばらく時間がたてばもとの父に戻ると看護師さんは言う。経過は順調だという。でも私は父が、まるきりもとの父にはもう戻らないだろうと思った。西洋医学のリクツは合理的である。人間は合理的にできてはいない。

毎日病室に付き添っていたら、今度は私が急に熱を出した。単なる風邪のはずなのに何日も寝込んでしまってなかなか治らない。父のところに行けないので手をつくしていろいろな人に付き添いを頼んだ。これまでひとりでがんばりすぎていたんだよと何人もに言われた。布団にはいって天井を見ていると、なんと父から電話がかかってきた。どうやって携帯電話をまた使えるようになったのか。
「ああ、身体はどうや。熱下がったか」
と、しわがれ声の父が言った。術後の熱が下がらなかった父は
「こっちはもう下がったぞ」
と言う。負けた。ちょっと泣いてしまう。

やっと私が起きられるようになったら、今度は父が術後の合併症が出て、再絶食になった。付き添っていた甥が知らせてくれた。うまく乗り切れるのか、まだわからないらしい。
また父が電話してくる。
「日本語で考えるのがしんどいから中国語で文を考えとる」
だいぶアタマは回復してきたようだ。
合併症がひどくなると絶食も数ヶ月続く。再手術の可能性もある。と、そんなことはせっかく回復してきた父のアタマに入れたくない。
「明日からまた病室行くよ」とだけ言った。

一時的にひとり暮らしになった母には毎朝、訪問看護と見守りを頼んである。母はベラボーに高飛車な態度で訪問看護師さんに接しているらしく、聞くと冷や汗ものである。母は父がいなくて、ネコの世話以外やることがないのでひとりで勝手に父の病院へ行ってしまう。迷子になったら大変なので電話で止めるのだけど、
「なんでわたしが行ったらあかんのっ」
と電話の向こうで立てた青筋がくっきり見えるほど怒る。誰かが連れて行く予定の日まで、家でおとなしくしていてほしいのだが、母にはそれは不当な押しつけなのである。
でも、父の病状に母はまったく関心がない。関心というより、理解ができないのだ。
この数日も何度も電話してきて「お父さんの手術はいつなの」と聞く。終わったよと言うとそのたびに「あらー」と驚く。軽い驚きようだ。私が止めるのも聞かず父の病室に向かうとき、母は何を考えているのだろうか。

ものごとの変化を受けいれられない母は、父が無事退院してきたら、もとの父であることを求めるだろう。でも父はもう、もとの父ではないだろう。さしあたっては、あれだ。父の部屋に、ベッドを買って用意しなければ。
あまり先のことまで考えてもしかたがない。明日からまた病室へ。
by higurashizoshi | 2011-03-04 14:00 | 雑感

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